石原吉郎

<人間>はつねに加害者のなかから生まれる。
被害者のなかからは生まれない。
人間が自己を最終的に加害者として承認する場所は、
人間が自己を人間として、ひとつの危機として認識しはじめる場所である。

私は告発しない。ただ自分の<位置>に立つ。

日常のただなかでみずからの位置を確かめつづけることが、
いわば生きることへの証である……

いまにして思えば、戦争は私に、日常をのがれることの不可能を教えた唯一の場であった。
いかに遠くへへだたろうと、どのような極限へ追い込まれようと、
そこで待ちうけているものはかならず日常である。
なぜか。私たち自身が、すでに日常そのものだからである。