また石牟礼道子は「未開」の世界にも開けていく。近代化以前の「未開」の世界を。

「話に効けば東京の竹輪は腐った魚でつくるちゅうばい、炊いても食うても当たるげな。
さすれば東京に居らす人たちゃ一生ぶえんの魚の味も知らず、陽さんにも当たらん
かぼそか暮らしで一生終わるわけじゃ。わしどんからすれば東京ンものはぐらしか
(かわいそう)。
 それにくらべりゃ、わしども漁師は天下さまの暮らしじゃござっせんか。
たまの日曜に都のの衆たちは汽車に乗って海岸にいたて、高か銭出して旅館にまでも泊まって、舟借りて釣りにゆかすという。
 そら海の上はよかもね。
 そら海の上におればわがひとりの天下じゃもね。」