この頃の一つの到達点として、現実と妄想あるいは回想との区別を見事に曖昧化していることが
挙げられると思う。移行自体がプリズムの分光みたいで目の前に光景が浮かぶような描写に何度
酔いしれたことか。こんな作品に最初に出会った日には以後の作品はドングリの背比べが如く
どれを読んでも駄作にしか思えない。だから教科書に載っていた漱石や鴎外が退屈で退屈でしようが
なかったのを思い出す。教科書で良かったと思ったのは、中島敦の「山月記」、ヘッセの「少年の日の
思い出」、「一切れのパン」「最後の授業」位かな。丸健の小説は載せられないだろうな。