隔世の感がするなり。
余の青春時代、神田の古書肆の店頭の箱の中に、垂水書房版の全集だか著作集だかが、
一冊百円くらいで並べられてゐたり。忘れられぬ光景なり。かくの如き扱いを受くる氏の著作を不憫に感じけり。
知らざりし、時移り世去り、「天声人語」に引用さるる時代が来むとは。
思へば氏ほど劇的なる評価の変転を経し文学者も世に稀なるらむ。
いかなるゆゑにかくも毀誉褒貶の激しきや?不可思議なる現象なり。