フリオがエミリアについた最初の嘘は、マルセル・プルーストを読んだことがあるというものだった。
読んだ本のことで嘘をつくことはあまりなかったが、〔…〕何かが始まりつつあることが、
その何かがどれだけの期間続くにせよ大切なものになることが二人にわかったあの夜、
フリオはくつろいだ調子の声で、ああ、プルーストは読んだことがある、十七歳の夏、〔…〕と言った。
十七歳のフリオは『失われた時を求めて』を腰を据えて読むため、祖父母の家を借りた。
もちろんそれは嘘だ。たしかに彼は、あの夏〔…〕たくさん本を読んだが、
読んだのはジャック・ケルアック、ハインリヒ・ベル、ウラジーミル・ナボコフ、トルーマン・カポーティ、そしてエンリケ・リンであって、
マルセル・プルーストではない。

その同じ夜、エミリアはフリオに初めての嘘をつき、その嘘もまた、マルセル・プルーストを読んだことがあるというものだった。
最初は相槌を打つだけだった。わたしもプルーストは読んだわ。
だがそのあとに長い沈黙が訪れ、それは居心地の悪い沈黙ではなく期待のこもった沈黙だったので、エミリアは話を続けざるをえなくなった。
つい去年のことよ、五か月くらいかかった、だってほら、大学の授業で忙しくしてたから。
それでも全七巻を読破してみようと思って、それが私の読書人生でいちばん大切な数か月になったの。
アレハンドロ・サンブラ「盆栽」『盆栽 木々の私生活』所収、松本健二訳、白水社《Ex Libris》。