>>430
>吉本は少年時代は軍国主義少年だったそうだが、敗戦のショックで
>考え方が完全にかわったそうで

 そこのところは実際の発言・回想とは異なるね。終戦の玉音放送の後、
吉本はショックで、海に無意識に泳ぎに出て泳ぎながら泣き、下宿先に
帰ってもまだ泣いていて、おばさんに慰められる。この時まだ吉本は
「負けた」ことを認める気にならず、一部でも日本軍の内でまだ戦うと
いう人があれば自分も加わり戦争を続ける気になっていた。

 ところが日本軍の兵隊は次々戦地から戻ってくるのみで、まだ戦う、
戦争は終わっていない、という声など一向に起きない。そこで初めて、
自分のような愛国人間が少数に過ぎなかったこと、ほとんどの日本人大衆に
とっては愛国心や誇りよりも生活の方が優先すること、お上の一声によって
姿かたちなど簡単に豹変すること、を知った。

 そうこうするうちに、東京裁判が始まり、自分が誇りに思い、赤紙がく
れば号令1下で討ち死にでもする気でいた日本軍が異国の大衆にどんなこと
をしていたか、初めて知ることになった。日本軍にたいする夢も潰えた。

 その辺から吉本の内部で葛藤が始まり、自分は当時いっぱしのインテリ
でいるつもりだったが、何一つ世界も社会も知ってはいなかった、無知
であったことに到った。