>>182
倫理というものが、時代と分かちがたいものだということを、漱石は強く感じている。
個人と個人の関係の中の倫理においても、社会というものが隙間なく纏わりついているということによる。
わかりやすいのは、女の貞操かもしれない。

江戸時代には、事実上は女の貞操などまるで重視されなかったが、明治になると非常に重いものな変わった。
現代では、女の貞操という概念すら消え去っている。
男はいつの時代にも貞操が問題にされたことはないがw

塹壕に自身を埋める兵士が、倫理として褒め称えられる時代もあれば、とにかく生き延びたことが褒め称えられる時代もある。
漱石は、そうした倫理の根拠を探し続けていた。
倫理は、いずれにしても個人の問題として出てくるほかはないから、漱石の作品の舞台は、個人の〈こころ〉の動きを描くしかなかった。