漱石先生、120年ぶり「再訪」 アンドロイドが松山に
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三四郎
夏目漱石

「こんな顔をして、こんなに弱っていては、いくら日露戦争に勝って、一等国になってもだめですね。
もっとも建物を見ても、庭園を見ても、いずれも顔相応のところだが、
――あなたは東京がはじめてなら、まだ富士山を見たことがないでしょう。
今に見えるから御覧なさい。あれが日本一にほんいちの名物だ。あれよりほかに自慢するものは何もない。
ところがその富士山は天然自然に昔からあったものなんだからしかたがない。我々がこしらえたものじゃない」と言ってまたにやにや笑っている。
三四郎は日露戦争以後こんな人間に出会うとは思いもよらなかった。どうも日本人じゃないような気がする。

「しかしこれからは日本もだんだん発展するでしょう」と弁護した。
すると、かの男は、すましたもので、
「滅びるね」と言った。

――熊本でこんなことを口に出せば、すぐなぐられる。悪くすると国賊取り扱いにされる。
三四郎は頭の中のどこのすみにもこういう思想を入れる余裕はないような空気のうちで生長した。
だからことによると自分の年の若いのに乗じて、ひとを愚弄ぐろうするのではなかろうかとも考えた。男は例のごとく、にやにや笑っている。
そのくせ言葉ことばつきはどこまでもおちついている。
どうも見当がつかないから、相手になるのをやめて黙ってしまった。すると男が、こう言った。

「熊本より東京は広い。東京より日本は広い。日本より……」でちょっと切ったが、三四郎の顔を見ると耳を傾けている。
「日本より頭の中のほうが広いでしょう」と言った。「とらわれちゃだめだ。いくら日本のためを思ったって贔屓ひいきの引き倒しになるばかりだ」
この言葉を聞いた時、三四郎は真実に熊本を出たような心持ちがした。
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