「あれはどこで?」
 ラスコーリニコフは歩きながら考えた。
「どこで読んだんだっけ?なんでも死刑を宣告された男が、死の一時間前に言ったとか、考えたとかいうんだった。
 もしどこか高い岸壁の上で、それも、やっと二本の足で立てるくらいの狭い場所で、絶壁と、大洋と、永遠の闇と、
 永遠の孤独と、永遠の嵐に囲まれて生きなければならないとしても、そして、その一尺四方の場所に一生涯、千年
 も万年も、永久に立ちつづけなければならないとしても、それでも、いま死んでしまうよりは、そうやって生きた
 ほうがいい、というんだった。なんとか生きていたい、生きて、生きていたい! どんな生き方でもいいから、生
 きていたい! ……なんという真実だろう!ああ、なんという真実の声だろう!」
              (『罪と罰』より。第2部の6。)