>>567
>そこには、この宇宙の背景を貫く秘密のシステムがある。


たとえば「白痴」の第4篇では
エリザヴェータ夫人が愛娘であるアグラーヤとムイシュキン公の仲について
煩悶するくだりがある
夫人はムイシュキンの人となりには好感を持ちながらも
娘の将来や名誉、利益という極めて世俗的な理由から否定しようとする

しかし胸の奥底に「うごめくもの」に抗うことはできない
これは理知をこえた感情であり
現代風に言えば一種の深層心理とも言い得るものだからだ
この「深いところ」から沸き起こる感情こそが人間行為の原泉であり
神や信仰をめぐる秘密でもある、とうのがドストエフスキーの考えだろう

理知よりも感情(とその深層)に神秘を見出す
ドストエフスキー流のグノーシス主義なのだ、ともいえる
ただ、これをフロイト風の精神分析学的に受け取って
「父殺し」と解釈すると作品を読み間違う
フロイトよりもユング、あるいは仏教思想における阿頼耶識システム
のようなものと考えた方が分かりやすいのだと思う

ナスターシャはロゴージンの情熱の奥底に悪魔的なものを見出す
この悪魔的なものとはレーベジェフによると人知を超えた「偉大な力」と定義される
狂女ナスターシャがアグラーヤに送った3通の手紙では
自身を犠牲にしてこの秘密の一端を「天使」アグラーヤに開示することを予言して
物語は破滅的な終局へと向かう