面白いのはアグラーヤの悪手によって
ムイシュキンを手中に収めたナスターシャは
結婚式の形式性(ウエディングドレス・ダイヤ・ブーケ)で身を固め
最初は批判的だった群集を圧倒した段階で
突如、世間(と教会)に反旗を翻し
「墓場」と自身が形容していたロゴージン家へ遁走する

あらゆる社会慣習やドレス・ダイヤに代表される虚飾も脱ぎ捨てて
「墓場」でロゴージンに体を開く行為は
イポリートの「告白」とは別の意味での勝利
すなわち自由獲得と自尊心の回復でもある
しかし勝者として安らかな眠りについている間に
その心臓にかつては歴史書を切り裂き、
ムイシュキン公爵の頭上に閃いたナイフが突き刺さる

「人間」ロゴージンによってその骸は「モスクワのあれ」と示唆された
聖骸として顔も体も白いシーツで隠された「もの」へと変貌する
彼女が「人間」だった唯一の証はシーツからわずかに見えるつま先と
その足元にころがる「レースの塊」(下着だろう)のみで
これを見たムイシュキンは恐怖する

というのはムイシュキンの掲げた「謙虚」「憐み」「赦し」「救い」
では到底及ばない「何か」が横たわっていたからだ
これがアグラーヤ/ムイシュキンに宛てられた手紙で予言されていた
「一端」の正体であり、情熱的な「人間」ロゴージンは発狂し
「賢者」ムイシュキンの知能も粉砕される

まあ真の勝者はナスターシャでしょうね
そしてこの勝利は即破滅であり
その骸も人間の及ばない物として隠ぺいされる