彼は再び目の前にある棺を見た、――四方からことごとく 蔽い尽され
た、いとも貴いなきがらを見た。しかし今朝ほどの泣きたいような、
疼くような、悩ましい 哀隣の情はもはや彼の心になかった。

彼は神聖な物に対するように、入口のすぐそばにある棺の前へ身を投
げ出した。けれど歓喜の情、――歓喜の情が彼の理性と感情をぱっと
照らしだした。

庵室の窓が一つ開け放たれて、 爽やかなすがすがしい空気はしんと静
まり返っていた――『とうとう窓を開けたところを見ると、匂いがい
よいよひどくなったんだな』とアリョーシャは考えた。