不幸を望んでいる人間はそれだけで不幸であり
また、望み通り不幸がもたらされた場合
それを天恵として逆に喜びを感じる
宗教的人間にはそういう倒錯した感情がある

また、そうでなければ生の実感が得られない
コーリャのように世のため人のために不幸を背負いたがる受難者は
実のところ受難者という境遇に恍惚感を覚える
この心情は背中に両腕で十字を組んで衆人環視の中
あえて殴打の辱めをうけるスタヴローギンのマゾヒスト的恍惚感に近い

スタヴローギンの場合は生の実感を求めて虚無に突き進むが
コーリャの場合は甘いロマンチシズムの中に浸っている分
救いようがなく、それ故に不幸な境遇に際してはその甘さが
苦痛に変わる可能性が高い