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昨日の礼拝を目撃したヨシフ主教は、パイーシイ主教と目くばせした。アリョーシャは
たまりかねて、
「長老さま、お師匠さま」となみなみならぬ興奮のていで言った。「あなたのお言葉はあ
まりにも漠然としております..... いったいどのような苦悩が兄を待ち伏せしているのでご
ざいましょう」
「もの珍しそうにきくものでない、昨日わしは何か恐ろしいことが感じられたのじ
ゃ......ちょうどあの人の目つきが、自分の運命をすっかりいい現わしておるようであ
った。あの人の目つきが一種特別なものであったので......わしは一瞬の間に、あの人が自分
で自分に加えようとしている災厄を見てとって、思わずぞっとしたのじゃ。わしは一生のう
ちに一度か二度、自分の運命を残りなく現わしているような目つきを、幾たりかの人に見受
けたが、その人たちの運命は、――悲しいかな、――わしの予想に違わなんだ。わしがお前
を町へ送ったわけはな、アレクセイ、兄弟としてのおまえの顔が、あの人の助けになること
もあろうと思うたからじゃ。しかし、何もかも神さまのおぼし召し次第じゃ。われわれの運
命とてもその数にもれぬ。『一粒の麦、地に落ちて死なずばただ一つにてあらん。もし死な
ば多くの実を結ぶべし。』これをよう覚えておくがよい。
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(長老のことばが長すぎもし、重要でもあるので、いったんここで引用を切ります)