江藤は紀伊國屋ホールへ、三島の「わが友ヒットラー」を観に行き、ロビーに立っている三島の後ろ姿を見つけ、
その肩に弱々しいものを見出した。三島は本気でノーベル賞をとるつもりでいて、記者から「次は三島さんに」と言われると、
「次は大江だ」と吐き捨てるように言ったという。三島は振り向いて江藤を見つけると、「この頃、大江君はどうしている?」と訊いた。
「さあ」と江藤は答えた。