林 蓮實氏ははじめ『海』に書いていたのか、ドゥルーズとか向こうのいろんな人の、山口君の『世界』の対談(後に『二十世紀の知的冒険』として岩波書店から刊行)のようにはいかないけれども、いちおうはやはり相手の本質をつかんでいると思って……。
いろんなものを書いていて、総なで斬りを一度やってみたいんだろうけどもね。

大江 ぼくはそれをやったほうがいいと思いますけれどもね。

山口 しかし、彼の知のディスプレイが、支配のための知というふうなところがあるでしょう。批判するものを活かすような批判の仕方が彼はできないの。

林 藤枝[静男]君とか、大岡[昇平]君の褒め方でもあれじゃ納得しないな。ぼくはいい気になって、小林秀雄からずっとやられてきて、高橋英夫にいたって、君やられているじゃないかといったら、その次の号を見たらぼくがやられている。人の好い人らしいね。
 文体というよりも、なんかちょっとこなれが悪いようなところがありますね。ぼくはわりにあの人のものを読むんだけれども、しんどいな。
 非常にムラがある人なの。そしていろいろ非常によく読んで批評しているかと思うと、なんか断簡零墨か、ちょっとしたものを読んですぐ反射的にやっつけるとかね。

大江 わが国の作家というもの、ぼくなんかもそうですけれどもね、だいたいそういうふうにやっていますよ(笑)。

林 作家はむしろいいんですよ、いいけれども、彼なんかやはり批評家だからな、それはやっぱり。相手の立場とか、考えをグローバルに批評している中に、ヒョッとそういうものが出たりするところがありますね。あれがいけないな。それならその調子で相手に取っ組んでものを言わなくちゃ、そういう軽いところがあるな。
でも頭はいいな、一種のよさを持っていますね。あの難しい『テル・ケル』とか、ああいうのを読みこなすんだからもうかなわないよ(笑)。