「ワイスレ住人の皆さん、この度は私の主催致しましたオフ会にお忙しい中御参加頂き誠に有難うございます。並びに、この様な素晴らしい出会いの機会を与えてくださいましたワイさん。
駄目元で声をかけ勿論断られてしまい、ここにはおりませんが、この場で御礼を述べさせて頂きます。有難うございます」
司会として冷静かつ淡々と挨拶をするリーマン(30)。今宵は待ちに待ったオフ会当日、たかもりが美味いと絶賛した某居酒屋にて爽やかな笑みを浮かべる彼は内心焦っていた。
何故ならば今日というこの日を楽しみにし過ぎた余り、恋人の誕生日をすっかり忘れていたからだ。恋人の誕生日は昨日であった。ついさっき恋人から電話があった。ぶち切れていた。サプライズを待っていたらしい。
「なんで? なんで私の誕生日を忘れちゃうの? そんなに自分の趣味が大事なわけ?」
オフ会が楽しみで楽しみで仕様が無くて、なんなら昨日からソワソワしちゃって誕生日は愚か、恋人の存在をちょっと忘れちゃうくらいのハイなテンションだったから許してほしい、なんて言える訳ないと思考を巡らせながらリーマンは素直に謝った。
だが結局言いたい放題言われ終いには、大嫌いと言い残し電話は切れた。
周りが盛り上がりを見せる中、リーマンはただ一人不安に包まれていた。これが原因となって別れるなんてことになればとんでもない話だ。あぁ、どうしよう。折角のオフ会だから楽しみたいのに。悶々としながらビールを流し込む。
「リーマンさん何かあったんですか?」
「え」
見上げると心配そうにこちらを見ている女性がいた。自由である。だが、彼女だけではなかった。
「表情が暗いですよ。リーマンさん」
「何かあったんだ。きっとそうだ」
周りにいる皆がリーマンを気にして口々に声をかける。
「たかもりさん……てっしー、相模さん、めらめらさん、自由さん、あぁ遥さんまで有難う。実は彼女を怒らせちゃって……」
それから、リーマンは事情を説明した。話していく内に恋人への想いが膨らみ遂には居ても立っても居られなくなった。
「皆ごめんっ、俺やっぱり帰ります。折角のオフ会だけど……でも彼女が……」
「リーマンさん気にしないでください。それより早く彼女のところに行ってやらないと」
「そうですよ。彼女、きっと待ってます。僕たちはワイスレでいつでも会えるでしょう? だから、ほら早く」
「皆……本当に有難うっ」
皆の優しさに胸を熱くさせながら、店を後にしたリーマン。この日を境に、『リーマンは恋人から尻に敷かれている』と事あるごとに弄られるようになるとはまだ知らない。
ーーなんていい人達なんだろう。ああ、取り敢えず彼女に電話しよう。
「あ、もしもし? 今から会いに行くから。え、眠いから明日でいいって? はは、何言ってんだ。もう新幹線に乗っちゃったんだぜ?」