読みにくいですか。



「宿題を忘れた人はいますか。」
先生は思いついたように私たちに尋ねた。
すると隣の席の佐藤が起立した。尋常でなく震えている。額に脂汗が浮かんでいる。
「一応やってきたのですが家に─」
先生は、わかりました、と言って彼の言葉を遮る。いよいよ彼の震えは激しくなった。
彼はただ謝罪の言葉を述べるが、先生は同じように答えるのみだった。
数分このやり取りが繰り返された。そして先生は、次からは気を付けてください、と言って彼の頭を
ピストルで撃ちぬいた。先生は何事もなかったかのように係に宿題の回収を命じ、そのあと小テストを列ごとに
配り始めた。佐藤の死体は日直の園田がテキパキと片付けていた。

おかしい、おかしい。私のいた世界はこんなではなかった。今日だけでも級友が何人も殺された。
それだけではない。朝礼中には校長が狙撃されたかして死んだ。すぐに教頭が出てきて代わりに訓示を続けた。
誰も動揺しない。うろたえるのは私のみであった・・・

「今日、体調わるいのか。」
六限が終わってもなお混乱している私に園田が話しかけてきた。
「寄るな。」
咄嗟に私は叫んでしまった。これは私の知っている園田ではない。友達の死体を無表情で処理してしまう人間ではなかったはずだ。
「なんだよ、本当に大丈夫か。」
私はこれ以上なにも口にすることができず、鞄をつかんで教室から飛び出した。
日が傾き始めた冬の空からの紫色の光線を横に受けながら廊下を走った。人のめったに通らない階段をかけ降りて靴箱へ向かう。
今日の一連の出来事で生徒も教師も誰もが何かしらの武器を持っていることを私は知ったのだ。
そしてそれらの使用を誰もためらわないことも。

破れたフェンスをくぐり学校の裏山までたどり着い時、鞄が妙に重いことに気が付いた。なにやら黒光りする、折りたたまれた
譜面台のようなものが入っている。その時校内放送が漏れて聞こえてきた。
・・・至急ホームルーム教室まで戻りなさい・・・繰り返します・・・
私が呼ばれている。殺される、直感で分かった。すると私の手が勝手に動き出した。操られているようではなく、毎朝何気なく靴下を
はくような感覚だった。私の手は譜面台のようなものをスルスルと変形していく。驚いたことに、それは小型の機関銃だったのだ。
数分ののち、今度はスピーカーからではない、教師たちの声が聞こえてくる。私の名前を呼んでいる。だんだん近づいてくる。
私がその声の主を視認すると、これまた無意識のうちに私の指が引き金を引いていた。

弾倉が空になるころには彼らは肉塊へと変わっていた。それを見て私の中にジワジワと湧き上がってくるものがある。
後悔でも吐き気でもない。安心感だったのだ。
私は彼らから使えそうなものを取ってホームルーム教室へと戻った。

教室ではホームルームが始まっていた。ドアを開けてすぐに私は先生の四肢をピストルで撃ち抜いた。
流れ弾が園田のこめかみに命中したが気にすることはない。
「すみません。トイレに行っていました。」
委員長が代わりにつれてきた他クラスの先生に私は言った。