たかもりです。またお題スレに書きました
今回はちょっと真面目に書いたので転載してみます。ワイさんお宜しく願いします
お題は「ロマンチック」


「ふう、そろそろ寝るか」
 颯太は、軽く息を吐きながら鉛筆を置いた。
 時計は午前0時を回ったところ。まだそれほど眠いわけでもないが、受験直前のこの時期になったらもう無理は禁物だ。
 高梨颯太(たかなしそうた)は、中学3年生。成績はまあまあ上の方だ。志望校も公立とはいえ県内では有数の進学校で、余程の大失敗さえなければ合格は間違いないだろうと担任にも太鼓判を押されている。
 となれば、今は何を置いても健康第一。体力を落としてインフルエンザになど罹ってしまったら目も当てられない。
 颯太は部屋の電気を消し、ベッドに入った。その時。
 学習机の上に置いたスマーとフォンが光を放ち、同時に聞きなれたメロディーを奏で始めた。

「んだよ、もう」
 颯太は舌打ちしながらスマホを手に取ると、画面に示された発信人の名前を見て首を傾げた。
「ん?」
 クラスメイトの、鈴木奏(すずきかなで)からだった。
 奏は颯太とは成績も同じくらいでそこそこ気も合う、クラスの中では同じグループに属していると言っていい間柄だ。
 別に付き合っている訳ではなく、二人きりで遊んだという記憶もないが、だからといって異性として意識してないかというと、そんなことは全くない。
 それどころか、卒業までに少しでも進展することはできないものかと毎日悶々とし続けているというのが本音だ。
 だからこそ、突然かかってきた電話に戸惑ってしまうのだった。

「もしもし…」
 何なんだ、この緊張感は。
「あ、高梨くん? こんばんわ…」
 耳元で奏でられる鈴の音のような声に、心臓が高鳴るのを感じる。奏でと奏…、ってアホか俺は。
「どうした? こんな遅くに」
「ごめんね。寝てた?」
「いや、起きてたよ。そろそろ寝ようと思ってたとこ」
 努めて平静を装う。
「そう」
「何かあったの?」
「ううん、何もないよ。なんか眠れなくて。ちょっと声を聞きたくなっちゃって…」
 俺の声を聞きたくなった? いや待て待て、過度の期待は身を滅ぼす元だ。
 ひそかに深呼吸をし、心を落ち着かせようとする。
 でも、そうだな。試験も近いし、こいつだって夜中に不安になったりすることはあるよな。
 そう考えると、ほんの少しではあるが本気で落ち着きを取り戻すことができた。
「そっか」
「うん…」
「……」
「……」
 うんと言ったきり、奏は黙り込んでしまう。
 颯太の方も何を言えばいいのか分からず、困った挙句に奏に向かって文句を言った。

「なんだよ」
「え?」
「何かしゃべれよ」
 奏は颯太のぶっきら棒な物言いに暫し絶句した後、同じように文句を返してきた。
「高梨くんこそ、何かしゃべってよ」
「何かって、なんだよ」
「なんでもいいから」
 なんで俺がそんなことしなきゃならないんだよ。
 教室の中でいつもやっている言い合いのような。本気ではないが少しはカチンと来る。
「何もないなら切るぞ」
「えー、意地悪ぅ」
 突然発せられた甘え声に、今度は颯太の方が絶句する。
「っ! な、何が意地悪だよ。ったく、しょうがねえなー…」