「某の事はご懸念無用に御座いまする! 既に死ぬる事は覚悟の上! 某の為に尽くされた事を厚く御礼申し上げる!」
 強右衛門は毅然とした表情で叫んだ。
「武士とはかくありたいものじゃ!」
 山県様は涙声で叫び返した。
「鳥居殿! 何故、其処までの事を成し得たのじゃ」
 拙者は尋ねた。
「某は戦場で武功を挙げた事が御座らん、ならば援軍を請う使者としてお役に立てればと思ったのじゃ」
「左様か、貴殿の如き武士は見たことが御座らん」
「何を申されるか、某は足軽に過ぎぬ」
「しかし、その行いは一廉の武将にも引けを取らん」
「その言葉嬉しゅう御座る」
 槍を携えた兵が二人やって来た。
 兵の一人が、
「宜しいか!」
 と強右衛門に声を掛けた。
 莞爾として笑みを浮かべた。
 その表情に死に対する恐怖心など微塵も感じられなかった。
 二筋の槍が強右衛門を貫いた。
 拙者は後に知り合いの吉利支丹から、磔刑になったじぇずすなる者が磔刑になったという話を聞く事になる。
 その時、思わず強右衛門の事を思い出した。
 強右衛門は死して名を残した。
 佐平次は猶も必死に強右衛門の姿を描いていた。
 この強右衛門の叫びが切っ掛けになり、城は落とす事が出来なかった。