使用お題:『実験』『池袋』『爆発』

【アルケミスタ】(1/3)


 池袋。言わずと知れた国内有数の繁華街であり、雑多とした人々が集い、観光地、歓楽街、そして心霊スポット等の様々な貌を持った怪物でもある。
 だが、そんな街もひとたび路地裏へと入り込んでしまえば、表通りの喧噪も遠のき、異界と化す。

「あ、が……」
「ふむ……」

 青黒い顔の男が喉を掻き毟りながら次第にピクピクと痙攣を始める。その男を眺めるのは地味な色合いのコートを羽織った人物。
 男は完全に事切れたのか、弛緩し、四肢を大地に放る。

「フム、想像通りの結果になったな。やはり、幽子と霊子の結合が甘い様だ」

 コートの怪人物は、死んだ男の顔を覗き込む。と、そのコートから金属の輝きを持ったコード状の物が伸び、死んだ男の体をまるで調べるかの様にまさぐった。
 死んだ男の体はあちこちが異形と化していた。しかし、この結果はコートの怪人物の希望に沿う物ではなかったらしい。

「霊的力場の強いこの地でならと思ったが……従来の方法の方が安定しているな。この方法では外部からの霊子の補助は出来ないと考えた方が良いようだ……」

 立ち上がった怪人物は、懐からアンプルを取り出すと、それを死体に振りかける。と、薄く光る緑の液体は、降りかかったと同時に死体をシュワシュワと溶解させてゆく。

「ふむ、外部霊子の取り込みは自然結合だけでは足りない……やはり、失われた“アブソーバー”を再現できないのが辛いな……」

 立ち上がった怪人物は、キューブ状の品をカチャカチャと操作すると、まるでカーテンの裏にでも入り込むかの様に、その姿を消す。
 後には、かつて人だったモノの、黒い染みだけが残っていた。

 ******

 郷下 剣穂がゴシップ記者の矢五明 範司からその情報を仕入れる事が出来たのは、ゴールデンウイーク間近の事だった。
 サンシャイン60通りにあるファストフードの店に並で座った2人は、お互いにだけ聞こえる声で話をしていた。

「ダンナの言った通りでしたね、届出のない行方不明者も合わせれば一週間で5人。明らかに多いですよ」
「……予想通りか、グランドパルスの揺らぎが多いから、“ヤツ等”が動いて居るんじゃないかと思ったんだよ」
「…………グローリアスドーンですか……」

 範司が忌々しそうに眉を顰める。

 グローリアスドーン……いつの頃から存在しているか分からない錬金術師達の結社であり、剣穂、範司共に因縁浅からぬ相手でもあった。
 剣穂は、都内近郊のエキゾチックマターの分布を調べている時に、たまたまその事に気が付き、特に揺らぎの多い池袋で何か起こっていないかを範司に調べて貰っていたのだ。
 グランドパルスはグローリアスドーンの空間移動アーティファクトを使用した時に、その影響を受ける為、彼等が動いて居るのだと思ったのである。

「……また、いつもの実験か? それとも、良からぬ事を企んでいるのか?」
「どっちにしろ、犠牲者が出るんです、放っては置けないでしょう?」
「だな、俺も調査を進める」
「ならオレも、引き続き調べてみます」
「頼む」