0086この名無しがすごい!
2018/04/11(水) 15:18:06.45ID:rNxOASQF【桜舞う下で君と】
(あー……昔と変わらないなぁ)
地元の丘陵公園のお花見に来た僕は、そんな感想を抱く。
高校を卒業と同時に東京へと出てから、かれこれ10年近くなるのだろうか?
その間に花見と言ったら、もっぱら向こうの友達とどんちゃん騒ぎをする位で、わざわざ地元に帰って来てまでお花見に繰り出そうとなんて考える事など無かった。
空一面に見える桜の花に、朱塗りのボンボリ。メインの会場となる公園広場に続く通りにはいくつもの屋台が並び、家族連れが思い思いに冷やかしている。
「おっと」
「あ、ごめんなさい!」
「おっちゃん! ごめん!!」
「おい! 走るなって言っただろ!!」
友達連れだろうか? やたらとテンションの高い少年達が人ごみの中を駆けてゆく。
その姿に、かつての自分を重ね苦笑する。
「……移動遊園地はまだ来てるんだろうか?」
遠い記憶を喚起され、ふと思い出す。コーヒーカップにトロッコの様なコースタ。小さな小さな観覧車とお化け屋敷。
たったそれだけしかない移動遊園地。
かつての僕はそんな物でも大いにはしゃいでいたっけ。
「っつ」
向こう脛を蹴られた。見れば、腕の中で妻が、顔を赤くしながら僕を睨んでいた。
さっき少年達から庇った時の、抱き合ったままの状態で考え込んでいたらしい。
こうやって睨まれていると、出会ったばかりの頃の、つっけんどんだった頃の彼女を思い出す。
そんな彼女が、今は僕の妻なのだ。あの頃は想像だにしていなかった。
「って」
また蹴られた。僕は苦笑すると彼女を解放する。
******
公園広場に着き、僕は苦笑いをした。
かつて移動遊園地が来ていた場所には、象を模したバルーンのアトラクションが鎮座していからだ。
「時代の流れかなぁ」
こんな事でノスタルジーに浸るとは思わなかった。
なとも言えない顔をしていたのだろう。妻が腕を絡ませて、頭を預けてくる。
「また、来年も来よう?」
「……うん、そうだね」
僕はそう言いながら、ワンピースのスカートを押し上げている、妻の大きなお腹を見ながら……
(来年は親子三人で来れるなぁ)
……そう、思ったのだ。