諸兄に献す

「よっ!ニクいね、色男!」
耳に入る雑音。
気取られぬよう、僅かに顔を動かす。
目の端に調子者を捉え、左腰に差す刀の鯉口を切った。
振り向き様の抜刀にやや遅れてごとり、と鈍い音。地面に転がる阿呆面を見やる。
「惚けたか」
切り捨てるは一言のみ。
懐紙を取りいだして刃身の血脂を拭い、去り際に彼岸の朱滲む白を手向けと散華する。
祈るような思いに目を伏せ、深い闇へと歩み消えた。