お題:『配管工』『ユニオニオン』『誰かが冗談を言う』『ドラムンベース』『ジャンル:ローファンタジー』

【都会の龍神】

古来より、人は水を恐れた。
豪雨を、氾濫を、津波を。
その恐怖、教訓から過去の人々は、荒れ狂う奔流を龍神に例え、祀った。
現代では、そのメカニズムが解明され、龍神信仰はもはや形骸化してしまっている。
「て、しなきゃねぇ」
青年はぼやきながら、レンチを担いだ。
地下深く、光が差し込まない世界で彼は破損した配管を修理する。
それは、巨大な配管だ。
トンネルと言っても過言ではないほどの、大きさ。
「神様の手伝いしてる割には、俺達はいつまでたっても日が当たらねえな」
誰かが冗談を言う。
青年は頬についた泥を拭って、笑った。
冗談にしては中々、的を射ている。
その時、重低音が作業場を支配した。
空気を振動し、臓腑を叩く。
「急げぇ!来るぞぉ!」
現場監督が叫んだ。
青年は受け持ちの区間を急いで仕上げる。
一瞬でも間に合わなければどうなるか、目に見えていた。
重低音はリズミカルに、さながらドラムンベースのように響き続ける。
「っし!終わり!」
青年はボルトを締め上げると、すぐさまその場から離れた。
後方で組んだ足場に飛び込むや、配管は直ちに振動を開始した。
来る。
配管に等間隔に配置された窓をとてつもない速さで何かが通り過ぎた。
水滴と蒼い鱗を撒き散らし、それは配管を駆け抜けていく。
数秒後、配管と作業場に再び静けさを取り戻された。
あれが、龍神。
いつ見ても、美しく、荒々しい存在。
青年は彼等をそう捉えていた。
「点検開始!」
監督が再び叫ぶ。
今の通過で、またどこか破損しているかもしれない。
青年は配管に飛び乗り、レンチを構える。
「いつもニコニコ、ユニオニオン!」
会社のコマーシャルを口ずさみ、彼は配管を小刻みに叩く。
「水の問題なんでもござれ!」
リズミカルに、繊細に。
「配管工のプロなら全て解決!」

青年達の仕事は、配管工。
そして、龍神の通り道を作る者。