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使用お題:『幽霊』『百』『ひみつ道具』『乳酸菌くんの家族』『チューハイ』

【怪談シロタ株】(1/3)


 草木も眠る丑三つ時、巫女服風姿の阿部 舞夜とビデオカメラを携えた加茂 八坂は、噂に名高い心霊スポットに足を運んでいた。

「……なぁ舞夜、本当に幽霊なんか出るのか?」
「さあ? 分からないけど、出て貰わなくっちゃ困るわよ、わたしの将来の為にも!!」

 寂れた廃校、そのイノリウムの床がカツンカツンと言う甲高い音を響かせる。

「さぁ! 美少女霊能者、舞夜ちゃんのデビューなんだからね!」

 気合いを入れる舞夜を八阪は覚めた目で見る。

「美……?」
「……何?」
「いや、何でも……」

 霊能力者を目指す舞夜だったが、しかし、どうすれば霊能力者に成れるのかは分からなかった。
 その為、とにかく実績を積むのが一番の近道だろうと、徐霊をし、その様子をネットにアップする為に、こうして集めた噂話の中で最も信憑性の高い物を選んでここに来たのだ。

 もっとも、幼馴染だと言うだけで巻き込まれた八坂にしてみれば良い迷惑なのだが……

『やーくんが居れば、舞夜も安心ね』

 舞夜の親からの無条件の信頼。

 それだけの実績を積み上げて来たと言う事であり、そしてそれは、八坂が舞夜に迷惑を被った歴史の積み重ねが、それだけあると言う事でもある。
 舞夜にばれない様に八坂は溜息を吐いた。

 ******

「えーと、はい。あー、はい。えー……私は今、噂の心霊スポットに来ている訳なんですが……」
「……」
「何よ!」
「別に……」

 舞夜曰く『強い霊反応がある』と言う保健室前まで来た八坂達は、ネットにアップする為の撮影を始めた。
 流石に、これが世間一般に公開される事を意識しているのか、舞夜の表情は硬い。先程、自らを美少女霊能力者だと称し、テンション高く歩いて居た事を考えると、随分と緊張している様だった。
 保健室はジメジメとしており、雨水だろうか? 時折水滴の様な音が聞こえる。そして、そこが保健室だと言う先入観かも知れないが、微かにアルコールの様な匂いが漂っていた。
 撮影の為、LEDのライトを持参しているものの、それでも尚、辺りは真闇につつまれ、光量としては心もとない。

「?」
「どうしたの? 八坂」
「あ、いや、何か……」

 カメラから目を外し、ごしごしと擦る八坂に舞夜が訊ねる。
 曖昧な返事の後、再び彼はカメラを覗き込み、そして眉を顰めた。

 居る。

 肉眼では分からなかったが、カメラ中央、舞夜の後ろに白い靄の様な物がハッキリと映っていた。