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使用お題:『筋肉』『ケロちゃん』『お月見』『ごちそう』『首輪』

【月光の不死美人】(1/2)


 予感があった。

 辻堂 当摩は無意識に自らの首に嵌めたチョーカーをつうっと指先で撫でていた。

 息を切らせながらも宵闇に包まれた街をひた走る。

 ドクンっと鼓動が高鳴った。

 真円を描く月を背に、当摩の望んでいた存在がそこに立って居た。

「ケロちゃん……」

 幼馴染だった少女の愛称を呟く。

 少女の瞳が赤く煌いた。

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『とーまぁ……』

 あどけない幼子が、しかし今は妖艶な雰囲気を湛えながら彼に馬乗りに成っている。彼女は当摩の首元にぷっくりとした紅い唇を添わせ、艶めかしく舌を這わせる。
 ゾクリ……と背筋に甘い痺れが登り、その直後に激痛が走った。

 だが、その痛みに対する当摩の感情は、甘露にも似た悦びだった。

 彼女の口が彼の首筋から離れ、一筋の血が伝い落ちる。
 何処か陶然とした瞳で当摩を見詰めた彼女は、舌先で唇を……そこに残っていた彼の血液を舐め取ると、ニンマリと嗤いながら言う。

 ――――――――ねぇ、とーまぁ。あなた、わたしの“僕”にお成りなさい? だって、こぉんなに美味しかったの初めてなんですものぉ――――――――

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 意識が覚醒した時、その心臓は早鐘を打ち、やけにジットリとした汗が全身を濡らしていた。
 記憶は定かではない。だが、何か恐ろしい夢でも見ていたのだろうか? そんな風に当摩は思った。
 鼓動が落ち着くにつれ、何故か取り残された子供の様な寂寥感が心を支配し、酷く泣きたくなった。

 だからと言って本当に泣き出す訳にはいかないのだが……

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「……お月見?」
「うん! だから、今日は早く帰って来てね? ごちそうを作るんだから!!」

 当摩の妹である睦月が、出がけにそう言った。
 その言葉を聞き、当摩は今日が満月なのだと思い出す。

 父親の単身赴任に母が付き添ってって行った所為で、辻堂兄妹は現在二人だけで生活をしている。
 彼の妹はこういったイベント事が好きで、ちょくちょく何かしらの行事にかこつけてパーティーの様な事をしていた。
 既にどんなごちそうを作るのか算段しているのであろう。ニコニコと機嫌がよさそうに睦月が学校に向かって行く。
 そんな妹を見送りながら、当摩は一人朝ごはんを食べながら(今日はどうするかな?)等と考えていたのだった。