>>363 無難に
使用したお題:『9』『スライム』『ぬるぬる』『黒髪ロング』

【どこにでもある、ごく普通の、ありふれた日常】

 朝起きてまず最初にすることは、一緒に寝ているペットを起こすことだった。

 布団の横に一緒に寝ていたはずのペットは、朝起きた時かなり高確率でなぜか僕の上に乗っかっている。熱くはないのだろうか?

「おい、朝だぞ。起きろ」

 長く垂れさがっているペットの体毛を煩わしく思いつつも、その頭をかるく小突き、布団を剥がして隣に寝転がした。
 ペットは布団の上に横になると、ううんと大きく背伸びをし、大きな欠伸をし、でも目を開けない。二度寝をするつもりなんだろう。

 ……まったく、いいなぁペットは気楽で。

 僕もまた二度寝の誘惑に駆られつつも、時計を見ると朝の9時。いくら休みとはいえ寝坊も良いところだ。仕方なく起き上がってまず洗面所へと向かう。
 ペットの涎が体にかかってぬるぬるする。蛇口を捻って水道で洗いつつ、冷蔵庫を開けて中身を漁る。

「朝ご飯は……これとこれとこれでいいか」

 自分の分の朝ご飯と、ペットの分の朝ご飯をさくっと作ってしまう。いつものルーチンワークなので、特に難しくない。
 袋を開け、材料を切り、火を通して盛り付けをする。ペット用の餌は別のお皿に乗っける。

「……ん、完成。で、ようやく起きたか」

 ペットが僕の後ろにやってきていた。ほんの数分前は睡眠天国に旅立っていたというのに、今は眠いながらも僕の背後にやってきていた。臭いに釣られたのだろう。
 半開きの眼差しが何かを訴えるように見上げてくる。僕はすべての食器を同時に持ちあげ、ペットの黒い頭に向かって言った。

「はいはい、ご飯はあっちだよ。はいはいどいてどいて」

 蹴飛ばすわけにはいかないので、皿を持ったまま器用に真横をスルリと抜ける。食卓の上に皿を丁寧に並べておき、ペットを僕の反対側の席へ座らせた。

「はい、いただきます」

「……いただきはぁす」

 二人で食前の挨拶をして食べ始める。うん、適当に作ったけど十分美味しい。
 僕の朝ご飯は牛の大腿骨の炙り焼きと黒カビと木の枝のサラダ、そしてペットの食事を作るために出たゴミをマヨネーズで適当に和えたものだ。
 ペットの朝ご飯は小麦粉を練って発酵させた手間のかかるモノと卵をなぜか焼いた黄色と白の丸い食べ物、そして葉っぱだけしか入ってないサラダだ。正直、まずそうだけど、このペットはどうも好きらしい。

 必死に食事をしてポロポロ食べカスを落としているペットを見つつ、その落ちた破片をこっそり触手で吸収しながら僕は言った。

「なんかその黒い体毛、長すぎじゃない? 切った方がいい?」

「わかんない、ご主人様の好きにして」

 そういうとペットの人間の少女は、特に興味もなさそうにして食事を再開していた。
 スライムである僕は、髪の毛って美味しいのかなぁと思いながらビニール袋をもしゃもしゃと溶かした。