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使用お題:『9』『たまねぎくん(ユニオニオン)と乳酸菌くんの出会い(衝撃の結末を含む)』『ぬるぬる』『スライム』『黒髪ロング』

【些事日記】


「あなたがそんなに甘やかすから……私は知りませんからね!!」
 
 腰まである黒髪をひとまとめにして、妻がブツブツと言いながらキッチンへと消えて行く。
 俺はそんな後姿を横目に見ながら溜息を一つ吐いた。

 今日、息子にねだられるままに、おもちゃを一つ買い与えたのだ……妻の機嫌が悪いのはその所為だ。
 申し訳ないとは思ったが、それにも少し訳がある。

 買ってやった玩具の名前は“妖怪ハウス”と言う物。良く有るキャラクター玩具の一つではあるが、実の事を言えば、自分が子供の頃、買ってもらう事の出来なかったおもちゃの一つだ。
 リベンジ……と言う訳では無いが、どうにも懐かしくなったのも確かではある。


「おー、ぬるぬるー」
「スライムかぁ、こんな物も付いて来るんだな」

 新しい妖怪ハウスにはスライムが付属していた。これも懐かしいおもちゃだ。昔と同じ様なポリバケツ型の容器に入った緑色の粘体。

 昔の妖怪ハウスは、家本体と、ソフトビニール製の指人形が9体程ついて来たと思ったのだが、今は指人形が4体と、このスライムが付いて来ていた。
 もっとも指人形自体は、別売りのセットも有るし食玩でも手に入る。

 少子化の所為もあって大型の玩具の売り上げが下がっている為、大型玩具の本体価格を下げ、それと連動する食玩でプレイバリューを上げてるらしいのだが、なんとも逞しい商売魂だ。

 スライムを本体にセットしたり、人形を絡ませて遊んだりする。
 ソフビ製の人形だから、あまりべたべたとくっつかないと言うのも有るのだろう「敵の攻撃だ〜」等と言いながらスライムを人形の上から落として遊んでいる息子に笑みが浮かぶ。

 ******

『ぼく、たまねぎくん! 君は?』
『……乳酸菌くん』
『出会うはずの無い二人が出会った!! 衝撃のラストはCMの後すぐ!!』

「そういえば、今度、映画が公開するんですって」

 黒髪ロングをドライヤーで乾かしながら、息子を風呂に入れた妻がそんな事を言って来た。
 チラリと時計を見れば午後9時、15分前。
 まぁ番宣か、映画に成ると言う衝撃の告知をするラストって訳だ。

 ……事前に知ってしまったが。

 風呂に入る前に片付けた妖怪ハウスを再び出そうとする息子を妻が叱りつける。
 これから寝ようって時間だ、それも仕方が無い。
 だが、それだけ買って貰った事を嬉しがっているのだと思えば、それはそれで頬が緩む思いだ。

「やー!! いっしょに寝るのぉ!!」
「あなた! あなたからも言ってやってください!!」
「うん?」
「この子ったら、スライムを布団に入れようとするんですよ!」

 ……あ、うん、それは確かに止めないと……