>>400
使用お題:『スケルトン兄弟』『秋』『伊丹市昆虫館の「てんとうむし」か「はち」(テントウムシは可愛い方)』『「では、そろそろ始めましょうか」』『お月見』

【映月下ノ故郷】(1/2)


(ひふみよいむなやここのたり)

 ガシャリ……と、鎧が音を立てた。

 芒に似た草の生える草原に映える満月。
 日本で言えば中秋の名月とも言えるその月を肴に杯を傾ける。

「世界が違うと言うのに、月の美しさは変わらず……か」

 そこに胡坐をかいていた壮年の男は、鎧の音に頓着を見せず、朱色の盃をグイっと呷る。
 薄い琥珀色の酒は彼の望む清酒では無いが、しかし喉の焼けつく様な強い酒精は、彼の好む物だった。

「満月は人心を乱し、狂気を呼ぶと言う。ならば、既に狂気に囚われた者には、どう影響するのか……」

(ひふみよいつなやここのたり)

『グ……ウゥ……』

 壮年の男が酒盃になみなみと酒を注ぐ。月が映り込んだそれに、男は自らの血を一滴たらした。
 鎧の男の方を向くと、それを突き出す。

「月下甘露です。お飲みなさい」
『ウ……ウゥ』

 鎧の男は、ブルブルと震える手でそれを受け取るとぎこちない動きで酒を口にした。

『ウ……う……ああぁぁ……』
「……先ずは、初めましてと言う事かな? ご同郷……私は中村 勘寧と言う者だ」
『ウ……あぁ……オレ……おれ……俺は……ショウ……た……佐藤……翔太』

 そう語り始めた鎧の男の顔には一切の皮も肉も残ってはいなかった。そう、その男はスケルトンだった。

 そもそも勘寧がこの平原へと足を運んだのは一つの噂話を聞いたからだ。
 ヘルア平原の死霊戦士……この世界では珍しくも無いアンデットの噂だったが、そもそもこの死霊戦士はフラフラと現れる割に、人を襲ったと言う話は無く、しかし、近付けば、その種族特性により、ライフドレイン……生命力吸収は掛けられてしまうのだと言う。
 ならばと討伐しようと言う事に成っても、スケルトンの戦士の割に腕が立つ為、返り討ちに成る冒険者が後を絶たなかったのだ。
 積極的に人間を襲わない事も有り、その懸賞金は安く、その内、誰もその討伐依頼を受けなくなったのである。
 だが、勘寧が気に成ったのは、その死霊戦士が現れる時に呟いていると言う言葉だった。
 そのいくつかの単語に、勘寧は聞き覚えがあったのだ。

 勘寧は転移者だった。いや、彼の知識内の言葉を使えば神隠しと成るだろうか?
 ともあれ、勘寧は唐突に異世界へと転移していた。
 彼は元々陰陽師であった事も有り、この不思議な現象にも柔軟に対応する事が出来たのだ。
 故郷に……日本に帰る為、勘寧は冒険者をする傍ら、情報を集めていたのだが、そんな折に、“ヘルア平原の死霊戦士”の噂を聞きつけたのである。