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使用お題:『影法師』『囲碁か将棋』『雑談』『文学少女』『混ぜる』

【ホーカゴ・コーシャ】(1/2)


 橋立 結は、大きな溜息を吐きながら文学部の部室に向かっていた。彼女の半歩斜め後ろには同じ部活の春日野 圭章が苦笑しながら着いて来ている。

 本日の部長会の予算決めでは、活動実績に応じた予算が決められたのだが、その会に於いて、文学部の来年度予算は実に200円と言うものだったのだ。
 実際、文学部の活動は部室に寄り集まって、各々で本を読んだり雑談をしたりしているだけなのだから予算自体は無くても構わない。

 だが……

「まぁ、正論だよね」
「私の所為じゃないもん」

 部員では有っても、部長や、まして副部長でも無い結は、部長連の先輩方にこれでもかと嫌味と注意と説教を受けて来たのだ。

 これもそれも、全ては現部長と副部長の所為である。部連会長、小湊 宮子のお言葉によれば「予算決めの様な重要な話し合いに、部の長たる部長が来ない等、あり得ないでしょう?」との、事である。
 その意見には、結も全く同意の為、反対意見など口にする気にもなれなかったのだ。

 結は何度目かの大きな溜息を吐くと、文学部の部室の扉に手を掛けた。

 ******

「ん? んん?」
「えっと、これで矢倉の完成かな? なぁ、合ってるか? これで合ってるか?」
「…………」

 扉を開けた結は、そのまま床に崩れ落ちた。眼前では、全ての元凶たる先輩である所の部長、竹橋 実乃里と副部長の新井 大志が、一つの盤上で将棋と囲碁をチャンポンにしてゲームを行っていた。
 おそらく、何某かの本の影響を受けたのだろう。
 この二人は物語に感化されると、とりあえず真似をしたがるのだ。
 ベースは将棋盤なのだろうが、そこには態々マジックで囲碁盤の線が引いてあると言う、無駄な力の入れようだった。

 「外す事の出来ない用事が有る為」と、結を部長会に送り出した二人が、こうして部室で遊んでいるのを見れば、結ならずとも崩れ落ちるのも致し方ないだろう。
 実乃里は囲碁のルールがそもそも分かって居ないのか、石で囲い“地”も作らず、盤上にひたすら碁石の塊を作り続け、大志の方はと言えば、定跡のページと睨めっこをしながら、兎も角、将棋の守りの戦法である“矢倉囲い”を作っていた。

「何を……」
「ん?」
「ああ、橋立、御苦労」
「何をしているんですか! あなた方は!!」

 声を荒立てる結に対し二人は……

「囲碁?」
「将棋だ」

 と、当たり前の様に返したのだった。