>>519 3いじり目。
使用したお題:『1年』『進行が主人公』

【拝啓、宇宙人様へ】(1/2)
 世界は危機に瀕していた。

 全ての始まりはアメリカのワシントン州であった。
 1947年6月24日、自家用機で飛行していたケネス・アーノルド氏がカスケード山脈にあるレーニア山付近の上空で奇妙な物体を発見した。9つの飛行する物体がまるで連結するかのように繋がっており、エンジン音を響かせることなく超高速で南から北へと飛んでいったのだという。
 俗に言う「ケネス・アーノルド事件」である。分かりやすく言うと、世界初のUFO発見事例であった。

 世間はUFO発見というニュースに沸いた。その謎めいた神秘性と、不思議な飛行機体、そして何より宇宙人の可能性を期待して人々はUFOを探し求めた。
 テレビでは何度も特番が組まれ、一般市民の中には謎の集団がUFO召喚の儀式を行い、懸賞金がつけられるまでになった。まさにUFOブームである。

 しかし、UFOブームはすぐに廃れた。その頃はまだ一般的ではなかったが、インターネットの走りである通信プロコトルの流通によって情報の共有化が飛躍的に進み、よほど情勢に疎い人間以外UFOを信じなくなってしまったのである。
 視聴率を稼ごうと躍起になったテレビ番組が、誤報や誤謬を招く報道、つまりやヤラセ番組を多く行ってしまったが故にブームはまさしくUFOのように去ってしまったのである。

 ただ、ここで疑念が残る。UFOブームは去った、これはいい。じゃあ、一番最初にケネス・アーノルド氏が見たUFOはなんだったのか?

 結論から言おう、UFOは実在するのだ。ブームが去ったからといって本物のUFOがいなくなるというわけではない。
 未だにUFOは存在し、宇宙人が地球にやってきている。この現状は1964年から全く変わっていない。

 じゃあなぜUFOの目撃証言が減ったのか。これも至極簡単である。インターネットのせいだ。
 宇宙人の目的から逆算すれば、理由は自ずとわかるだろう。宇宙人は地球に最も多く生存する知的生命体である地球人に興味を示し、その存在は一体どういうものか調査したかったのだ。
 その調査の結果何をするのかまではわからない。宇宙人に直接聞くしか知る由はないからだ。しかし、地球人に興味がある宇宙人がその情報を集めようとしたら、最も適格で最も安全で、最も効率的な方法なんて一つしかないだろう。それがインターネットである。
 インターネットにより地球上どこの情報も入手が容易になり、宇宙人はUFOに乗り出して直接現地を確認する必要性がぐっと減ったわけだ。UFOブーム去就の原因となったインターネットが、奇しくもUFOが見かけなくなる原因にもなっていたわけである。

 さて、宇宙人は地球上の情報を入手している。そしてインターネットの発達により、その情報の精度と規模は日々拡大し続けている。
 ただ、地球上全ての情報を集め終わった宇宙人が何をするのか、それはまだわからない。そう、わからないのだ。

 憶測だけならば、それこそたくさんある。インターネットで囁かれる噂話だけでなく、映画や小説の題材にもなっている。
 単なる観光なのか、人類が平和的種族なのかどうかを見極めるためなのか、それとも地球を侵略するためなのか。
 だけどそのどれもが本当に宇宙人の目的と合致しているかどうかは、前述した通り誰にもわからない。

 だからこそ、私のやるべきことは一つだった。情報を増やすこと。これである。
 地球の情報を全て、ないしは必要十分な量を集めた場合、宇宙人は行動を起こす可能性が高い。そしてそれが地球人の望まない結果をもたらす可能性は確実に存在する。
 である以上、情報を増やし続けさえすれば宇宙人はその情報をさらに集める必要が出てきて、最終目的を行う決断を遅らせることができるのではなかろうか。時間が稼げるのではなかろうか。

 さらにはその情報の信ぴょう性が疑わしいモノであるとなお良い。インターネットはもとより嘘や誤解が蔓延っているのだ。
 信ぴょう性の疑わしい話を流布しておけば、宇宙人が真偽を確認するためにより時間がかかる。
 また、物語形式の話だともっと良い。語り口調の物語であれば、それが筆者の実体験なのか、はたまた妄想なのか区別がつきづらくなる。より時間が稼げるわけだ。