>>31
選択お題『交換』+『海開き』『デスゲーム』『ネジ』『幼馴染』

※注意※ グロ表現があります。また、鬱展開および鬱エンドです。

【呪い】 (1/3)

 振り回される巨大な戦斧をかいくぐり、僕の突き出した槍が二足歩行する大赤牛の首をえぐる。気道を傷付けただろうが、まだ浅い。
 巨躯に見合った首の太さであり頚椎の破壊には至らなかったようで、大赤牛は驚きに目を見開きながらも後ずさる。
 もっとも逃しはしない。僕の意思によって軌道が蛇のように曲がるこの聖槍で、先程よりも鋭く全身全霊をかけて首を狙った。
 相手が首を戦斧で庇う。ならば狙うは――――。僕が手を返すことなく槍は軌道を変え、心臓へと吸い込まれた。
 確実性を高めるために、槍を捻りながら抜き去る。心臓が破壊されても残る体内の圧力によって血が勢い良く吹き出し、僕の身に降りかかった。

 急激な血圧の低下があるはずの中、目の前の異形な存在は戦斧を振りかぶり、驚くことにこちらへと投げてくる。
 受け流そうと咄嗟に槍を構えるも、倒したと確信したゆえの油断、気の緩みがあった。
 戦斧を受けた衝撃によって右手を弾かれてしまい、右肘の先を持って行かれたのは痛恨の失態だ。
 二足立ちしていた大赤牛の化物はそれで満足することなく、僕を睨み付けながらうつ伏せに倒れた。
 頚椎丸出しになった首筋に槍の穂先を立て、鍔の部分に飛び乗る。拉げた音と感触が左手に伝わりこれで一安心。

 この大赤牛の化物は、幼馴染の好きなゲームに出てきたミノタウロスというやつに似ているかもしれない。
 改めて石組みによる大広間を見たが、戦闘によって酷く損壊しながらも崩れなかったことに感心する。
 仕留めた《《特別な力》》を持つ魔物はこれで十一体になったが、その中でもこいつは一際別格の強さだった。
 いや、もしかしたらあの戦斧によるところが大きいかもしれない。段々と輝きを失う戦斧を見てそう思う。

 僕は懐から長めの布切れを出して生地を裂き、右腕を止血する。ちぎれ飛んだ右手を見る限り、縫合などとても望めないだろう。
 もっとも魔法なんてものはあるのに怪我や病気を治すものは存在せず、医療をまじない師がやる文明レベルではどうしようもない。
 医療で用いられる白い治癒スライムを召喚して、患部にまとわりつかせる。和らぐ痛みに思わず長く息を吐いた。
 蛆虫を使った医療技術をヒントに、僕がこれを戦場で思いついて唐突に実践した時は、野営陣地がパニックに陥った。もともと死肉喰らいと呼ばれて忌諱されていたスライムだ。
 僕が鼻歌交じりに怪我人を探し歩き、見つけ次第に治療と称してこのスライムを投げつけていたので、頭がイカれたと心配された。
 でも死肉しか食わないこのスライムを利用すれば鎮痛効果と感染症予防に効果があり、傷の塞がりが早まることがわかると、治癒スライムへと名称変更され医療体系へと組み込まれて急速に国中へと広がった。

 ふとこの城砦の上層から女王と王子、そして勇者である僕を称える喚声が響いているのを感じた。
 僕がこの大赤牛を引きつけている間に、僕の属する王国の王子や騎士たちが牛人の魔王を仕留めたのかもしれない。
 ようやく勝てた。これで元の世界に帰れる。
 聖槍を左手だけで何とか引き抜いて担ぎ上層へ向かおうとすると、二年前に対峙した自称の神が忽然と現れた。

〈つづく〉