>>589 でも使えるお題と使えないお題はあると思うんだよね。少なくともお題出したやつは書いてくれや、おいらみたいに。
使用したお題:『楽器』『ホットドッグ』『爪切り』『白魔術』

【科学と魔術と僕とアイツ】
 魔術、それは世の理を統べる禁断の呪法なり。

 混沌を意味する「魔」を操り、それを自らのために活用する「術」を見出すこと。これが魔術の基本的な考え方である。
 論理の真逆にあるようで、論理的な法則を用いる術法。原因があり結果が伴うというところは共通しているが、その途中の経過が整然としているものを「物理」または「科学」と呼び、混沌としているものを「魔術」または「魔法」と呼ぶわけだ。

 というわけで……我が自然科学研究部の唯一の部員、自称・魔術師さんは今日も魔術の訓練に励んでいるそうだ。全くイライラする。

「おい」

「なに?」

 僕の言葉に魔術師殿は反応する。まあ他に人がいないのだから仕方ないのだが。
 僕は頭痛がするのを感じながら、魔術師殿に質問をする。

「なんだ、それは」

「魔術」

 そう言うと魔術師殿は振り向いて、その手に持っているオカリナを見せつけた。
 僕は魔術師殿が被っている白いフードを見ながら、さらに質問を続ける。

「魔術だというのはわかった。はっきり言って意味不明だけどな。で、今日のソレはなんだ」

「爪切りで深爪をしなくなる魔術」

 そういって魔術師殿はオカリナを水につけてブクブクを泡立て始めた。その様子は控えめに言って子供のイタズラにしか思えず、はっきり言ってまるで意味がわからない。
 僕はいつものように苛立ちながら、自称・魔術師殿に説教を始めた。

「あのですね、ここは自然科学部であって、そんな遊びをする場所じゃないんですけどね! やめてくれませんかね!?」

「いいじゃない、魔術も科学も似たようなもんさ。むしろ効果的なものが多い分、魔術の方が優秀だと思うよ」

 そう言って魔術師殿はブクブクを辞める気がない様子だった。僕はイライラしながら魔術師殿の過去をおかしい言動を思い出す。
 魔術師殿曰く、魔術は因果関係が至極難解で複雑らしい。よく言えばバタフライエフェクト、悪く言えば風が吹けば桶屋が儲かる。
 ホットドッグを16等分にしてそのうち4分の3をペットに与える行為が、どういうわけか邪魔者排除ができるらしい。包丁を振り回して謎の踊りをすると、なぜか虫歯予防になるらしい。
 聞いてる僕がよくわからないのだ、言葉で説明しても誰もわけがわかるまい。僕は唯一の部員の奇行に頭を抱えたくなる。

「魔術なんて非科学的なもの……信じるのは自由だが実証しようとするのはどう考えてもおかしいぞ……。現代文明を何だと思ってるんだ……ここは自然科学部なのに……」

「でも、効果のある魔術も多いんだよ?」

 そう言って魔術師殿は白いフードを外す。こいつのフードの外し方が独特で、横からズラすように外す。
 僕はその様子を見て、ドキリとする。

「な、なにを言ってるんだか。まったく、キミは、もう、ホントに……」

「フフ、まあこの様子だと、部長ドノにだけは魔術を否定されたくないところだね」

 そう言って白いローブを被りなおす。僕は、はぁとため息をついて魔術師殿から視線を外して頭を掻いた。
 魔術師殿がローブを外すと、妙に動揺してしまう。こんな奇矯な部員さっさと退部させたいのだが、毎回こう動揺してしまうせいでどうにも上手くいかない。
 新入部員も全然入ってくれないし……一体僕はどうしたらいいんだ、と魔術師殿の頭を見下ろしながら再度ため息をついた。

「まあ、お互い方法は違えどがんばりましょう。真実の探求を、ね」

「一体何が真実なんだか……」