人間は大言壮語を吐き、否定されると後に退けないことがある。
 もう二十年以上も前の話だ。
 あの時の彼らもそうだった。
 結果的に身の破滅を招く結果となった。
 山田啓介は和井県の高校を出て、現役で東京の世田谷区にあるK大学に入学し、山岳部に入った。
 もともと山登りが好きだったので、思う存分、日本全国の山を巡ってみたかったのだ。
 その年の十二月、部の忘年会が大学近くの居酒屋で行われた。
 と言っても他の部員とではなく、仲のいい猿田芳樹と二人だけだった。
 店は満席で賑やかである。
 話が弾みビールの本数もどんどん増えていく。
「山田、年末は実家に帰るの?」
「そうだな。帰ったらおふくろの飯が食べたいな」
「同じこと考えてるんだな。今頃、山田の家のある和井県のワイ岳も雪に覆われてるだろうな」
「ああ。昨日のニュースではもう、2メートルになってるそうだ、山岳部のオレでも登る気にはなれないよ」
 と言うと、後ろの席で忘年会をやっていた奇妙な一団の一人が、
「情けない奴だな男なら、やってやろうとは思わないのか!」
 冬にも拘らず漆黒のパンツに上半身裸、リングブーツの男が言った。
 他も連中も同様だ。
「オレ達は闘強大学プロレス学部のもんだ。勝負しようぜ!」
「止めておけ! 冬山が恐ろしいのを知らないのか!」
「ハハハ! オレ達に怖いもんはない! ヤルのか!?」
「分かった、やろう!」
 山田はここで退いたら男が廃ると思ったのだ。
「それでこそ、男だ!」
 それから三日後、山田と猿田は和井県のワイ岳の麓にやってきた。
 快晴だが、積雪は二メートル、場所によってはもっとあるだろう。
「来たな!」
 男たちは居酒屋にいた時と同じ格好だ。
 その数は二十人。
「そんな恰好で来るとは!」
 猿田が驚いた。
「雪山を甘く見るな! 今からでも遅くないから帰ろう!」
 山田が言った。
「ここで逃げるわけにはいかん!」
 登山は強行された。
 山田と猿田のパーティーは完全装備で臨んだ。
 一時間後、天候が急変し登山を断念、退き返した。
「よし! 歌を歌うぞ!」
「パンツの色は緋色だよ。花はリングに咲き開き、闘魂男児と生まれてはリングの花と見事散れ♪」
 意気揚々と歌う。
 数時間経つ頃には身動きが取れなくなり、手が紫になり、足の感覚もない。
 ブーツが凍り脱げる状態ではなかった。
 完全な塹壕足の症状だ。
 下腹部の感覚もなくなった。
 運良く生き残っても陰茎は切断しなければならないだろう。
 プロレス学部の生徒は大言壮語の結果、五日後ヘリコプターで発見された。
 しかし、全員の死亡が確認された。