0350第四十七回ワイスレ杯参加作品
2018/08/18(土) 05:31:50.60ID:VeKrLIASもう二十年以上も前の話だ。
あの時の彼らもそうだった。
結果的に身の破滅を招く結果となった。
山田啓介は和井県の高校を出て、現役で東京の世田谷区にあるK大学に入学し、山岳部に入った。
もともと山登りが好きだったので、思う存分、日本全国の山を巡ってみたかったのだ。
その年の十二月、部の忘年会が大学近くの居酒屋で行われた。
と言っても他の部員とではなく、仲のいい猿田芳樹と二人だけだった。
店は満席で賑やかである。
話が弾みビールの本数もどんどん増えていく。
「山田、年末は実家に帰るの?」
「そうだな。帰ったらおふくろの飯が食べたいな」
「同じこと考えてるんだな。今頃、山田の家のある和井県のワイ岳も雪に覆われてるだろうな」
「ああ。昨日のニュースではもう、2メートルになってるそうだ、山岳部のオレでも登る気にはなれないよ」
と言うと、後ろの席で忘年会をやっていた奇妙な一団の一人が、
「情けない奴だな男なら、やってやろうとは思わないのか!」
冬にも拘らず漆黒のパンツに上半身裸、リングブーツの男が言った。
他も連中も同様だ。
「オレ達は闘強大学プロレス学部のもんだ。勝負しようぜ!」
「止めておけ! 冬山が恐ろしいのを知らないのか!」
「ハハハ! オレ達に怖いもんはない! ヤルのか!?」
「分かった、やろう!」
山田はここで退いたら男が廃ると思ったのだ。
「それでこそ、男だ!」
それから三日後、山田と猿田は和井県のワイ岳の麓にやってきた。
快晴だが、積雪は二メートル、場所によってはもっとあるだろう。
「来たな!」
男たちは居酒屋にいた時と同じ格好だ。
その数は二十人。
「そんな恰好で来るとは!」
猿田が驚いた。
「雪山を甘く見るな! 今からでも遅くないから帰ろう!」
山田が言った。
「ここで逃げるわけにはいかん!」
登山は強行された。
山田と猿田のパーティーは完全装備で臨んだ。
一時間後、天候が急変し登山を断念、退き返した。
「よし! 歌を歌うぞ!」
「パンツの色は緋色だよ。花はリングに咲き開き、闘魂男児と生まれてはリングの花と見事散れ♪」
意気揚々と歌う。
数時間経つ頃には身動きが取れなくなり、手が紫になり、足の感覚もない。
ブーツが凍り脱げる状態ではなかった。
完全な塹壕足の症状だ。
下腹部の感覚もなくなった。
運良く生き残っても陰茎は切断しなければならないだろう。
プロレス学部の生徒は大言壮語の結果、五日後ヘリコプターで発見された。
しかし、全員の死亡が確認された。