「俺は不死身だ!」
そう周囲に自慢した俺は、成り行きで雪山に行くことになった。

強がりからTシャツ一枚で来てしまったので、とても寒い。

300メートルほど登ることができた。もしかしたら1000メートルかもしれない。この山が標高何メートルの山なのかは、俺は知らない。
俺の肩に雪が積もる。

俺はパリピでリア充だ。大金持ちだ。
皆から尊敬され、俺の周囲には人が沢山いる。いつでも皆が俺のことを応援してくれる。
そんな俺でも色々と苦労はしているのだが。人間関係で。

特に俺に色々とケチを付けてくる山崎、あいつは死ねばいい。
いつか天罰が下ると思う。

俺はあいつが入りたいK製薬会社に手を回して、絶対に内定が取れなくした。ざまあみろ。
外の製薬会社にも手が回ってるはずだ。俺は頭がいい。ヘマはやらない。

製薬会社なんて複雑な語彙を知っている俺は、やはり賢い。知的だ。だからみんなに認められているんだ。
俺が賢いという事実を。
皆俺が雪山に行くことに賛成してくれたしな。

寒くなってきたので、俺は帰ることにした。

流石にこのまま頂上を目指して凍死する価値はない。あれ? ええと……俺の命はそんなに安くない。
そんなの馬鹿だからな。俺はそれほど馬鹿じゃない。

よし、引き返そう。俺の肩には雪が積もっていたので、まずそれを手で払った。
そして、俺が今まで登ってきた小高い丘に向き直った。

丘は俺の腰ぐらいの高さがある。これをまた登るとなると面倒だな。ちっ。
山崎の財布からまた金をくすねることを俺は決意した。

山崎、死ね。俺は丘を登った。そして降りた。

いや、その前に俺は転んで、首がとても痛い。骨が折れたかもしれない。
そのまま俺は気絶した。



俺は目を覚ました。体が凍えるように寒い。こんなに体が寒いのは生まれて初めてだ。
よし、俺はまだ生きているのだろう。だから家に帰る。


あれ? 車がないぞ?
なんでだろう。誰かに盗まれたのか。
山崎か。あいつを殺しておくべきだったか。



そんな俺の正面に車が突っ込んできて、少し前で止まった。

「的田(まとだ)さん、大丈夫ですか!」
「お、おお。平気だ」
「うちの会社の川崎が、あなたの車に乗っている所に偶然通りかかりましてね。心配で飛んできたんです」
「お、おお」

ほんとこいつは余計なことをする……じゃなくて、イライラする奴だ。助かったが顔が気に入らない。
さっぱり金はもらっておく。内定の件は今からではどうにもならないし、諦めてくれ、山崎。
俺は何も悪くない。だって、俺はいつも正義だし、賢いし……そういうことだ。俺にできないのはべらべら喋ることだけだよ。