板囲いの待合所に入ろうとして、男はまたその前に兼ねて見知り越しの女学生の立っているのをめざとくも見た。
肉づきのいい、頬の桃色の、輪郭の丸い、それはかわいい娘だ。
はでな縞物に、海老茶の袴をはいて、右手に女持ちの細い蝙蝠傘、左の手に、紫の風呂敷包みを抱えているが、今日はリボンがいつものと違って白いと男はすぐ思った。
この娘は自分を忘れはすまい、むろん知ってる! と続いて思った。そして娘の方を見たが、娘は知らぬ顔をして、あっちを向いている。
あのくらいのうちは恥ずかしいんだろう、と思うとたまらなくかわいくなったらしい。見ぬようなふりをして幾度となく見る、しきりに見る。
――そしてまた眼をそらして、今度は階段のところで追い越した女の後ろ姿に見入った。
電車の来るのも知らぬというように――。