苦味は、舌のどの部分で味わうかによって、それはコクにも渋味にも感じられる。
コクはある種の旨味であり味に奥行きを与えるが、質の悪い渋味は単なる雑味となって、素材が持つ本来の味を損なってしまう。

質の良い渋味は、例えば渋柿のように、ひと口齧った途端吐き出したくなるようなものでも、干すという手間をかけることで、口の中に溶け出して渋味を与えるタンニンを不溶性に変化させ、砂糖の1.5倍という甘味へと昇華させることができる。

ただ、干し柿のように時間を掛けられるものであればよいのだが、なにより鮮度が重要という場合もあって、口に入るものすべての味を手間や暇を掛けて追求するというわけにはいかない。
今、私の口を満たしているものも、そういった類いのものである。

なにを食っているのか秘密めかすつもりはないが、癖の強いその味は誰にでもお勧めというわけにはいかないので、おおよその味の見当をつけて頂くために、食レポともいえぬ覚書をここに記しておくのである。

さて、冒頭に書いたように、味というものは舌の部位によってそのすがたを微妙に変える。今、問題にしているのは渋味である。私は口の中でねっとりと舌に纏わりつく渋味を避けるために、
仄かに温かなそのう

「なにぶつぶつ言ってんのかな?」
「す、すいません、小夜子様」
「さっさと綺麗に舐めるんだよ。せっかくアタシが出してやったんだから残すんじゃないよ」
「はい、小夜子様、身に余る光栄でございます」