部屋に入ると、男性が1人アランさんの前に座っていた。かなり若い。人間族で、気弱そうな雰囲気だけど・・・どことなく兄さまに似ている(注:全然似てません)。
隣に座っている女性は狼人族のようだ。奥さんだろうか。それにしてもすごく綺麗な人だ。胸もスゴイ・・・滅びてしまえばいいのに。

この人が私のご主人様になってくれるのだろうか。彼はさっそく私に質問してきた。
「迷宮に入ることに問題はないか」
「はい。できる限りのことはいたします」
「そうか」
このタイミングだ。ここで言うしかない。
「あ、あの……」
「何?」
「私は探索者Lv10になりました」
「探索者なら迷宮に入るのに問題はないか」
どうやら鍛冶師のことがわかっていないらしい。それでも言わなければ。嘘をついてまで買ってもらおうとは思わない。
「えっと。そうではなく」
「何か問題が?」
「ドワーフは探索者Lv10になると鍛冶師へのジョブ変更が認められます。ただし、全員が鍛冶師になれるわけではありません。一般的に、迷宮で活躍できる才能のあるドワーフが鍛冶師にもなれるとされています」
「えーっと。つまり、なれなかったということ?」
「……はい」
泣きそうだ。まともに顔を上げていられない。
「訊いていいか」
「はい。どうぞ」
なんとか涙をこらえて顔を上げる。優しげな顔だ。やはり兄さまに似ている(注:全然似てません)。
「鍛冶師になるのに他に条件が、ああ、いや。探索者Lv10で鍛冶師になれないと、絶対に鍛冶師にはなれないのか?」
「鍛冶師ギルドでは探索者Lv10での転職しか受け付けていません。調べてみましたら、まったく前例がないわけではなかったのですが」
「そうか」
彼はそういって、思案するような顔になる。いったい何を考えているのだろうか。
最後に気力を振り絞ってもう一度アピールする。あとはなるようになるだろう。
「私は村で一、二の力持ちでしたし、ドワーフの中では力のある方だと思います。迷宮に入ってもやっていくつもりです。よろしくお願いします」

部屋の外に出される。一緒に出てきたアランさんは私に言った。
「今のお客様は年は若いが、将来大変有望な冒険者だ。できればお前を購入していただきたいと考えている。ロクサーヌの様子を見ても、奴隷を大事に扱ってくれているようでもあるしな。」
隣にいた女性はやはりここにいた奴隷だったのか。確かに健康そうだし、綺麗な格好をしていた。胸も大きい・・・くそう。

これが、私セリーと私のご主人様ミチオ・カガの初めての出会いだった。
結局私はこの人に買っていただくことになるのだが、このときはこの人が実はとんでもない人だとは欠片も思っていなかったのだ。
何がどうとんでもないかはこれからおいおい語っていきたいと思う。