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使用お題『クリスマス』
【愛惜サイゼリヤ】(1/2)

 クリスマスである本日十二月二十五日、僕たちはある
観光地を訪れた。若者文化には疎い僕たちであるが、ク
リスマスムードに便乗して出掛けたいという気持ちはあ
った。しかし騒々しい場所は避けたい、そんな二人の意
向から行き先には日光が選ばれた。日も暮れかけて、僕
たちはファミリーレストランでそれぞれ食べる物を注文し、今は料理が座席に届くのを待っている。
「今日行った場所でどこが印象に残ってる?」と彼が聞く。
「うーん、東照宮かな。なんか眠り猫小さくなかった? もっと大きいんだと思っていたからびっくりした」
「眠り猫は前行った時に見たからあんまりびっくりしな
かったな。てか陽明門じゃないんだ。一番の見どころっ
て言われているのに」
 そんな会話をしているうちに料理が届き、店員が「ご
ゆっくりどうぞ」と言いながら斜筒に伝票を差し込んで
立ち去る。
「お前はどこが印象に残った?」と聞くと彼は一切迷う
様子もなしに即答した。
「華厳の滝」
 華厳滝も確かに良かった。「なんでそこなの?」と聞
くと、
「凍ってたじゃない? あれが綺麗だなって思って。あ
んな大きい氷の塊を生で見るのは初めてだったから圧巻
された」
「軒先にあるようなつららとは桁違いに大きかったね。
生命力を感じた」
「あれって流れる滝の形のままで凍ってるんだと思った
んだけど違うのかな。形が歪だったからさ。あれは躍動
感だとか生きてるって感じを助長してたな」
 彼と僕が同じような感想を抱いていたものだから驚いた。見た者に似た思いを起こさせる華厳の滝。なぜあれ
ほどまでに人気があるのか、日光三大瀑布のひとつに数
えられるのか、その理由が少しだけ分かったような気が
する。
「あそこも良かったよな」
「だろだろ。今度は溶けている時に行こうぜ」
 今度か。この先日光を訪れる機会はあるのだろうかと
疑問に思った。
「また行きたいのは山々だけどそんな余裕あるのかな?
大学生になったら一人暮らしでお金のやりくりとか大変
だよ。こっちに戻ってくるだけでも結構な金額かかるし。忙しかったりして疎遠にならないとも限らない。そした
ら今度なんて無くなるかもよ」
 これからおよそ三か月の後に僕たちは栃木を離れる。
お互いに関東地方ですらない場所に行くため栃木に戻る
ための交通費だけでも結構かかる。大学に入ってからの
生活がどうなるかなんて分からない。時々この仲もいつ
の間にか消え去ってしまうのではないかと不安になって
いた。この先どうなるのかなど神のみぞ知ることだ。
「そんな頻繁に行くわけじゃあるまいし、ちゃんとお金
を貯めれば一回くらいどうってことないよ」
 彼は楽観的に答える。
「それより疎遠になるって? 昔だったら分かるよ、連絡
手段が乏しいし。でも今はスマートフォンっていうのが
あるじゃん。LINEだって電話だって簡単にできる。距離
が離れたり、散々一緒にいたんだからちょっと忙しいく
らいで疎遠になんかならないよ」