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お題:『おでん』『スクラップ』『美術部』『777』『ドリル』

【魔王アンジェリカの色々な冒険】(1/4)


 スクラップを無造作に組み上げて作られた様な巨大物体は、通称「廃棄城」と呼ばれていた。最近になって国境付近の魔族領に出来た建造物である。
 普通の神経をしていれば決して近付かないであろうこの城に足を踏み入れる人間は、何あも考えていない馬鹿か欲にまみれた馬鹿だけだろう。

 なぜなら、『この城には、莫大な財宝と、勇者しか抜けない聖剣が封印されている』と言う噂が、まことしやかに囁かれているからだった。
 その為、近隣の一攫千金を狙う冒険者や名誉欲にまみれた冒険者、辺境領の領主等が、こぞってこの城に集まって来ているのである。

 ただし、それでも例外と言う物はある。

「おー……結構な人出だね、こりゃ」
「さすごしゅ!!」

 幼女を連れた一人の少年が、廃棄城の、その城下町とも言える広場に出来た屋台村を見ながらそんな事を呟く。
 少年の名はタカシ。調服し、幼女へと人化したクラーケンをお供した彼は、数少ないその例外だった。

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「ちぃ〜っす」
「さすごしゅ〜」
「んあ?」

 どてら姿でコタツに潜っているグルグルメガネの……おそらく女性であろう人物が、半ば夢の国の住人と言った様子で涎を垂らしながらタカシとクラーケンを見上げた。

「? …………タ、タカシしゃん!? ひゃ!! うぎゃあ!!」
「お、おい、大丈夫か?」

 見上げた先に居たタカシをしばらく見ていた女性は、二度三度と目をしばたたかせていたが、眼前に居る彼が、夢や幻想では無く現実だと認識した途端に、ガタリと立ち上がり……コタツに足を引っかけて向う脛を強かに打ち付ける。
 脛を押さえてピョンピョンと跳ねる女性に、タカシは心配して声を掛けるが、女性の方は「だ、大丈夫ですから」と彼を押し止めると、「ちょっと待っててください〜」と、言って隣の部屋に走って行った。

「……え〜と?」
「さすごしゅ?」
「……すみません、家の魔王様が……」

 呆気に取られるタカシ達に、彼をここまで案内して来た魔族メイドが、申し訳なさそうに、そう謝ったのだった。

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「よく来たな! 勇者よ!!」

 近衛兵の立ち並ぶ謁見の間に、魔王アンジェリカの声が響く。緑がかった金髪に、コメカミから突き出た二本の角。額にはティアラを身に着け、深紅の豪奢なドレスに紫紺のマントを羽織っている。
 先程まで、どてら姿でコタツでうたた寝をしていたとは思えない威厳を湛えた姿である。

 しばらく彼女の私室で待っていたタカシとクラーケンだったが、しばらくすると魔族メイドが、彼等をこの謁見の間へと呼びに来たのだ。

 一方のタカシはと言えば、苦笑をしながら「そう言うのは良いから」と、手に持った食材を掲げた。
 それを見たアンジェリカは眉をハの字にして焦った様に言う。

「で、ですが、私にも魔王としての尊厳が……」
「今更だろう? さっきまでコタツで寝てたくせに」
「さすごしゅ!」
「!! 〜〜〜〜〜〜〜〜」

 アンジェリカが顔を真っ赤にして足をバタバタさせた。

「して、勇者殿。この度の来訪の目的は?」