安価・お題で短編小説を書こう!8
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安価お題で短編を書くスレです。
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■前スレ
安価・お題で短編小説を書こう!
https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/bookall/1508249417/
安価・お題で短編小説を書こう!2
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安価・お題で短編小説を書こう!3
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安価・お題で短編小説を書こう!4
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安価・お題で短編小説を書こう!5
https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/bookall/1541947897/
安価・お題で短編小説を書こう!6
https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/bookall/1557234006/
安価・お題で短編小説を書こう!7
https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/bookall/1572191206/ 【ぐーたら女神にやらされる異世界生活】(2/3)
なので、大災害を起こして地球の人口を減らそうとしたら、他の世界を管理する女神に止められてしまったそうなのだ。
他の世界の湧き出るモンスターを減らさせつつ、リソースを増やす努力をしなさいと。
このピンクの女神(自称)は、最初リソースは一定量しかないと言っていたが、醍醐が根掘り葉掘り聞くと、実は増やせる物であると白状した。
生物に自らの魂を鍛えさせ、その量を増やさせる事で、分割に耐えうる量を確保できる様に成るからだ。
その為、他の世界の神達は、これはと言う人材を見つけては試練を課し、魂を鍛えさせるのである。
たが、このピンクの女神(悪魔)は面倒くさがってそれをサボっていたのだ。
それを聞いて、醍醐は他の世界の女神に感謝した。が、同時に思い至る事があった。
「え? つまりそれって……」
「邪神とか倒せば、魂の練磨になるでしょ? モンスターが湧き出してるとこ(世界)に送ったげるから、精々がんばって倒しなさいよ。アタシの為に」
「ちょ、ま!!」
「このアタシが見込んであげたんだから、結果残さなかったら、アンタ来世はミジンコね、これ、決定事項だから。あー、たった一人の人間(下等生物)の為に力を使ってあげる、アタシってマジ女神!!」
「いや、こら! 待てよ、おい!!」
「あ、そう言や、あのブリッコ女神、試練を課す時は神器か加護を与えなさいとか言ってたわね…… じゃ、これでいっか、はい」
そう言ってピンクの悪魔(女神)が放り投げて来たのは、さっき彼女が飲んでいた透明カップだった。
慌てて醍醐がそれを受け取ると、あっという間に視界がホワイトアウトする。
『じゃ、ヨロ〜』
こうして、醍醐は異世界に放り出されたのであった。
******
女神に投げ渡された、神器のカップから沸き出す飲み物で、渇きを癒す。いくらでも飲み物が湧き出すこのカップは、さすが神器と言う性能だった。
湧き出す飲み物は、おそらくあの時女神が飲んでいた物なのだろう。レモネードであり、悔しい事に、疲れを癒すには最適だった。
ただし、あくまで“飲み物”としては最適なだけで、それ以外には使い様が無いのだが。
ジリジリと肌を焼く太陽の光に、少しでも休息を取りたくはあるが、しかし、周囲に身を隠す様な場所は無い。
神器のレモネードのお陰で、疲労感は軽減されるが、しかし、足を動かし続けるしかないと言う現状に、精神的に疲弊していた。
「?」
その時、醍醐の耳に、風のうねりとは違う音が確かに聞こえる。
「人か? いや、人じゃなくても何か別の何かでも……」
代り映えしない現状に辟易していた為だろう。醍醐は警戒心も無く音のする方へと走り出し、足場が無くなった。
******
少女の眼前に居る魔獣は、そのドロリとした闇色の複眼で獲物を見つめていた。
ハアハアと肩で息をし、体中に幾つもの傷。手に持ったナイフも既にひびが入っている。
しかし、その目には未だ力を宿し、この絶望的な状況の中でも希望を捨てていない事がうかがえた。 【ぐーたら女神にやらされる異世界生活】(3/3)
「……そろそろ、いい加減諦めなんし。往生際が悪すぎるでありんすよ?」
「うるさいにゃ! 僕の限界は、僕が決めるにゃ!! 僕は諦めないにゃ!! ぜったい、銀河最強になってやゃるにゃ!!」
「ふう、威勢の良い台詞も聞き飽きたでありんす、そろそろ、わっちの経験値になりなんし」
魔虫使いの女がその下僕に「やれ」と合図を送る。
横にいた魔虫が、その外骨格の前肢を振り上げた。 振り下ろされるそれを、少女が必死にガードする。だが、彼女に出来たのはそれだけだった。踏ん張りの効かない足では、その威力に勝てず容易く吹き飛ばされ、岩に激突する。
ろっ骨が折れたのか、激しい痛みで呼吸すらできない。
しかし、彼女は諦める事は出来なかった。
銀河最強になる。
その夢を諦められない……いや、それは少し誤謬があるか。正確には、銀河最強になる事で叶えたい夢があるからだ。
数年前、丁度モンスターと呼ばれる怪物が出始めた頃だろう。この世界に、一つの“神託”が下った。
『この銀河で最も強くなりなさい。そうすれば、あらゆる願いをかなえてあげるわ』
銀河……と言う言葉が何を指すのかわからない者も多かった。しかし、最強と言う言葉が何を指すのかは分かる。
あらゆる者達が、自身の望みを叶える為、最強を目指したのである。
(アタシは最強になるにゃ!! 最強になって、ご主人様の所へ!!)
彼女にはある記憶があった。この世界に生まれる前の、大切な……
気力はある。だが、悲しいかな体は付いて来ない。
ギリリと、奥歯を噛み締める。
「上手く受け止めた様でありんすが、どうやら、ここまでの様ですわねぇ……では、本当に、これでさよならでありんす」
思わず少女が目を瞑る。その直後、ドゴオオオオォォォォォォォン!!!!!! と言う地響きが轟いた。
恐る恐る彼女が目を見開くと、そこには潰れて緑の体液をまき散らした魔虫と、それを見て呆然とする魔虫使いの女。
そして、その魔虫の上でキョロキョロと周囲を見回す黒髪黒目の少年がいた。
「……ご、ご主人様にゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
体の痛みも忘れ、思わず飛びつく少女。しかし、その後少年の口から出た言葉に、思わず凍り付いた。
「は? 君誰?」
******
醍醐の眼前には白髪の美少女が頬を膨らませてながら歩いていた。少女の名はエミュウ・バステト。その整った容姿もさることながら、目を引くのは、頭部に生えた猫耳と腰から伸びるしなやかな尻尾。そして、金と銀のテヘロクロミアの瞳。
醍醐を「ご主人様」と言った事も謎だが、今、こうして膨れているのも謎だった。
恐らく、彼女の機嫌が悪いのは自分の事を覚えていない事であろう。しかし、醍醐にしてみれば、あのピンクの悪魔(女神)に、今日突然送り込まれた世界であり、当然、知り合いなど居るはずも無い。
だがエミュウの方は、自分の事を知って居る事は当然と言う様子だった。
(でも確かに、何か、既視感が……)
「あら、そんな小娘を熱心に見つめるなら、わっちを見ておくんなまし」
「ちょ、アドニアさん!!」
ふっと、醍醐の耳に息を吹きかけるのはプテューゲル・アドニア。魔虫使いの女。
醍醐が落ちて来た当初こそ、自らの最終兵器とも言うべき大型魔虫を潰された事に憤ってた彼女だが、エミュウの彼に対する態度を見た途端、こうして醍醐に絡む様に成って居た。
「わっちの大事な物を奪ったでありんすんから、そんな小娘を相手にしないで欲しいんでありんす」
「ちょ、言い方!! 確かにアドニアさんの魔虫を潰したのは悪かったですが!!」
「プテューゲル……と呼んでくれなんしぃ」
「フーーーーーーー!!!!」
銀線が走り、エミュウの右手が醍醐の頬を掠める。プテューゲルは、それを読んで居たかの様に後ろに身を翻えす。
醍醐を挟んで二人の攻防が始まる。
彼の旅は始まったばかりだった。 エラーで進めなかったORZ
分割を間違えたようです お題→『ピンクの悪魔』『恋愛頭脳戦』『最終兵器』『レモネード』『銀河最強』締切
【参加作品一覧】
>>129【伯母の陰謀】
>>135【私のせっかちは治らない、でもそれでいい】
>>144【今回は痛い作文でお茶を濁します】
>>147【ぐーたら女神にやらされる異世界生活】 ではー、ひさしぶりにジャンル指定です
ジャンルは引き続き、なろう準拠ではなく、進行が独自に調整したものを使います ジャンルは次の中から1つ選択→
『恋愛』『ファンタジー』『歴史』『推理』『ホラー』『コメディー』『SF』『童話』
『冒険』『幻想』『日常』『人生』『家族』『戦争』『動物』『スポーツ』
お題安価>>154-157
ジャンル安価>>158 ☆お題→ジャンル『ファンタジー』+『悪夢』『絶対領域』『円満破局』『釣り』から1つ以上選択
☆文字数→3レス+予備1レス以内に収めれば何字でも可。
1レス約1900字、60行が上限。
☆締め切り→5/10の22時まで。
締め切りを過ぎても作品の投稿は可。
【見逃し防止のため、作品投稿の際はこのレスに安価してください】 >>144
メタ小説ですね
江口寿史のマンガを思い出しましたw 今回も無事にお題が集まった・・・ありがとうございます
引き続きお題スレをよろしくです
>>147
また大作が・・・3レス目は60行制限ですね・・・
姉を思わせる『ピンクの悪魔』、神器の『レモネード』、『銀河最強』になる、『最終兵器』の魔虫、『恋愛』、、ってほどでもない『頭脳戦』w
いい加減な神託だにゃ、、姉、、女神に対する憎しみがw
>>160
感想ありがとうございますw
もう全然締切を守る気がないやつですねぇ>< >>161
感想、有り難うございます
書いて居た時は、合計170行だったので3スレで間に合うと思ったのですが……
ゴッソリ削る事に成りましたorz
おかげで、エミュウの前世が醍醐の飼い猫だったとかの情報が抜けて、良く分からないオチに >>159
使用するお題→ジャンル『ファンタジー』+『悪夢』『円満破局』『釣り』
【女騎士と謎の剣士】(1/3)
ここは、ありとあらゆる多種多様な種族が住む、魔法と想像で創り出された魔法の世界。そんな世界に一人の女騎士が旅をしていた。
彼女の名はシャロン。美しい藍色に輝く鎧を身に纏い、銀色の長髪をポニーテールにして束ねている。
華麗な剣さばきで敵をバッサバッサと討ち取る腕利きの騎士として知られ、彼女を尊敬する者もいれば、同時に畏怖する者も少なくなかった。
ある日、シャロンが深い森の中を歩いている時だった。
「ねえシャロンさん待ってよー!」
「もう、しつこいわね。いい加減ついてくるのはやめて」
フクロウの姿をした少年が空中からシャロンについてくる。その少年の名はクルック。
人間とフクロウのハーフである種族「ナイトウィング」の一人で、フクロウの如く暗闇の中でも正確に獲物を捕らえる能力、そして高い飛行能力を兼ね備えている。
彼は以前、敵に襲われ翼を負傷し息絶えそうになっていたところを、偶然通りかかったシャロンに手当てされて救われたのだ。
それ以来シャロンを命の恩人として好きになり、旅のパートナーになろうと後ろから必死に飛んでついて来ている。
「私はパートナーなんていらないの。あの時はただケガをして何だか可哀想だったから助けてあげただけ。そもそも人助けなんて大嫌いなの、誤解しないで」
「シャロンさんがそう言っても僕はついて行くよ!」
「ったく、生意気なフクロウ小僧ね。焼いて食ってやろうかしら」
しばらく歩いていると、大きな湖を見つける。シャロンは湖の近くに腰を下ろすと、どこからともなく釣竿を取り出して釣りを始めた。
「シャロンさん、お腹空いたの?僕が何か美味しそうな獲物捕まえてきてあげるよ」
「うるさい。私は今、焼き魚でも食べたい気分なのよ」
釣りを始めて10分頃が経過した時、釣竿の糸がグイッと引っ張られる。魚がエサにかかったようだ。
よし来た!とシャロンが釣竿を強く掴んで、勢いよく引っ張り上げてみると巨大な魚が姿を現した。
体は真っ赤で全身に鋭いトゲが無数に生えている。ビックリしたシャロンは急いで剣で一刀両断にしようとするが、
魚は一瞬の隙を突いて彼女の足に食らいつき、そのまま湖の中に引きずり込んでいった。
「シャロンさん!」
「おい何をする!放せッ!!」
クルックは急いでシャロンを助けようとするも、水中に潜られてしまうとどうすることもできない。
水中では重い鎧のせいで上手く動くことができず、抵抗することさえもできない。
「ま、まずい!このままでは溺れ死んで魚のエサになってしまう・・・」
まさに絶体絶命、死を覚悟したその時だった。何者かが素早い動きで魚を微塵切りにし、意識を失ったシャロンを抱えてそのまま湖の中から引き上げた。
「ゲ、ゲホッ!」
「大丈夫かい?」
意識を取り戻し、目をゆっくりと開けてみると、紫色の髪をした好青年が立っていた。どうやら彼が助けてくれたようだ。
「あ、あなたが助けてくれたのね。本当にどうもありがとう。名は・・・」
「俺はシェイン、自由気ままに旅をしている剣士だ。って、あれ?その藍色の鎧に銀色の髪、もしかしてシャロン?あの腕利きの女騎士の!」
「わ、私のこと知っているの?」
「知ってるも何も有名じゃないか!俺、あなたの憧れなんだ!」
そのシェインと名乗る剣士はシャロンにもう夢中だった。
「ねえ、家族にならないか!幸せで楽しい生活を一緒に送ろう!」
「はあ?」
突然のプロポーズ?にシャロンは開いた口が塞がらなかった。 【女騎士と謎の剣士】(2/3)
唐突ではあるがシャロンとシェイン、そしてその場にいたクルックはその勢いで家族となった。
彼らは森の外れにある小さな滝の近くに、家を建てて暮らすことになった。
「ねえ。家族になったのはいいけど、どうしてフクロウ小僧も一緒なのよ!」
「いいじゃないか、家族は多い方が楽しくていい」
「シャロンさんと一緒だなんて、僕すっごく嬉しいよ!」
しかし、シャロンは不思議な気持ちになっていた。彼女は盗賊の両親の間に生まれたのだが、ろくに相手もされず、
愛情を持って育てられたことがほとんどなくて、ずっと寂しい思いをしてきたのだ。
それがその日偶然出会った剣士に、突然プロポーズされて家族になったのだ。
「(家族ってのもいいかもしれない・・・)」
シャロンは今までずっと見に纏っていた鎧を捨てると同時に、長い髪をバッサリと切った。
もう騎士としての自分は終わった、これからは平凡でも楽しい毎日を過ごしていこう、そう決意したのだ。
シェインとの生活は本当に楽しかった。明るくて優しく、そしてユーモラスな彼の存在は彼女の荒んでいた心を癒してくれた。
そんな楽しい生活が始まって、早くも一年が経過したある日のことだった。
「グ、グ、グアッ!!」
「どうしたのシェイン!」
妙なドス黒いオーラに包まれ、シェインがひどく苦しんでいる。突然、どこからともなく声が聞こえてきた。
「シェイン、お前は暗黒魔族であるフィアースの一員で、邪悪な魔術師になってこの世を暗闇と悪夢で覆い尽くすのが使命なのに何を遊んでいる!」
「お父さん、僕はフィアースの名を捨てたんだ。邪悪な魔術師になんてハナからなりたくなかった、立派な剣士になるのが夢なんだ!」
「そう言うのなら強硬手段に出るしかないな」
「アッ、アグッ、ウガッッアアアー!!!」
「シェ、シェイン!!」
黒い煙に包まれ、シェインの目は赤く光り、頭からは悪魔のようなツノが生え、牙は猛獣のように鋭くなった。
フィアース、それは異次元の暗黒世界に住む邪悪な魔族で、世界を暗闇と悪夢で包み込んで乗っ取るのが目的だ。
「シェイン、目を覚まして!落ち着いて!」
しかし、理性を失ったシェインにはシャロンの声は全然届かない。シェインは自分を止めようとする彼女を殴り飛ばすと、目から黒いビームを発射し、青い空を黒く染めていった。
空は完全に真っ暗になり、まさに闇の世界と化してしまった。こうなったら、力ずくでもシェインを止めるしか他に方法はない。
しかし、自分には鎧や剣はもうない。成す術なし、もはや諦めるしかなかった。
「シャロンさん、泣かないで。ここは僕に任せて」
「ク、クルック…!」
シェインを救うことができず、絶望に打ちひしがれるシャロンの前に立ったのはクルックだった。
「僕はフクロウ。フクロウには暗闇なんてちっとも怖くない」
クルックは瞳を金色に輝かせると、翼を大きく広げて空中に舞う。
「荒療治かもしれないけど、こうするしかないね!」
勢いよく急降下し、鋭い嘴や足の鉤爪でシェインに攻撃していく。
「暗闇なんてフクロウにとっては遊園地みたいなもんさ!」
「ガッ、グワッ!!小賢しいフクロウめ!やめろ!」
「アハハ!まだまだだよ!」 【女騎士と謎の剣士】(3/3)
音も一切立てずに、暗闇の中でも確実に獲物を捕まえる。まさにフクロウの真髄、ここにありだ。
さすがの暗黒魔族フィアースの一人であるシェインでさえも反撃することができない。
全身が傷だらけになり、シェインはとうとう膝をついてしまう。
「シャロンさん、今だよ!」
シャロンは立ち上がって走り出す。しかし、今の彼女には鎧も武器となる剣もない。
「シェイン、お願い!目を覚まして!」
シャロンはシェインを思いきりギュッと抱き締める。シェインの全身に彼女の温かさが伝わってくる。
「(こ、これが愛というものなのか・・・は、初めて身に染みて感じる・・・!!)」
シェインの身を包む黒いオーラは自然と消えていき、黒く染まった空も綺麗な青色に戻っていく。
悪魔のような姿に変貌した彼の姿はついに元に戻った。
「お、俺、なんてことを!シャロン、迷惑をかけて悪かった!」
「気にしないでシェイン。あなたはちっとも悪くない」
「本当に、本当にありがとうシャロン!」
シャロンとシェインはそのまま互いに強く抱き締め合うのだった。
・・・・・・・・・・・・・・
「シャロン、それからクルック。暴走した俺を止めてくれて本当にありがとう」
「シェイン、これからどうするの?」
「俺はフィアースの野望を阻止するため、そしてフィアースそのものを滅ぼすために異次元の世界に戻って戦うよ」
シェインはハアァァッ!と大きな叫び声を出して空間を歪ませ、異次元の世界へと結ぶ穴、そう入り口を作り出す。
「異次元の世界に飛び込めば、俺はもう二度とこの世界に戻ることはできない。でも、それでみんなが平和に幸せに暮らせるなら十分さ」
「シェイン、あなたのことは絶対に忘れない。僅か一年暮らしただけだったけど本当に楽しかった」
「ありがとう、シャロン。俺はもう行かなきゃ。楽しく、幸せに暮らせよ」
そう言うとシェインは異次元の世界に飛び込み、入り口である穴は閉じて無くなってしまった。
騎士としての自分を捨てた今、シャロンは違う人生を歩もうと決心した。でも、一人ではなんだか心細い。
「シャロンさん、僕がいるじゃないか!」
「クルック!今まで邪険に扱って、本当にごめんなさい・・・」
「全然気にしてないよ。僕がシャロンさんを守るから安心して」
「ウフフ、ありがとう」
「シャロンさんは鎧ない方が優しい感じがして、僕は好きだなあ」
「えっ、そ、そうなの?」
シャロンの顔がポッと赤くなる。この世界、一体何が起こるか分からない。
しかし、そばに頼れるパートナーがいればそんなのちっとも怖くない。
今こそ新たな人生スタートへの第一歩を踏み出した、歴史的瞬間なのである。 >>163
数奇な出会いと別れですね
一途な愛と、自らの運命に準ずる覚悟
どちらも確かな愛だと思います >>163
なるほど、、これは考えたな、という感じですね・・・!
『ファンタジー』世界、『釣り』を始める、暗闇と『悪夢』・・・『円満破局』!
ちょっと神話的な感じもする、お題に忠実な話でした! >>166
>>167
レイチェルシリーズの者です、感想ありがとうございます!
かなり久々の新作です。『円満破局』をどんな風に書けばいいか結構頭を悩ませました
それに至るまでのシャロンとシェインの恋愛をもっとじっくり書きたかったなと思いました
バトルでは脇役のクルックがめっちゃ活躍してましたね、真の主人公は彼かもw
楽しんでいただけてすっごく嬉しいです! >>159
使用するお題→ジャンル『ファンタジー』+『悪夢』『絶対領域』
【私のニーソに憑依する悪魔】(1/3)
※スレ6 417【登校中の悲劇】の続編かつ完結編です
ある日の正午、一人の女子高生が暗い気持ちで家路に着いていた。彼女の名は稲村エリナ。
今朝、エリナは寝坊して学校へと必死に走る中、水たまりに足を突っ込んでしまったり、野良犬にニーソを噛みつかれたりと色々と散々な目に遭ったのだ。
特に野良犬に噛みつかれて引っ張られた左足のニーソは、縫い目から思いきり破けてしまっていて酷い状態だ。
家に帰ると破けてしまった左足の方のニーソを母に渡すと、今朝のアクシデントを母に全て話す。
母は苦笑いしながら、破けてしまった縫い目を綺麗に丁寧に縫って補修してくれた。
しかし、そのニーソは部屋着のみとして使用することになり、登校かつ外出用に別の新しいニーソを買ってくれたのだが、エリナの気持ちは晴れなかった。
寝坊したのはもちろん自分の責任で、あんなアクシデントに見舞われてしまった運の悪さを恨むしか他にない。
しかし、登校だけでなく外出でも愛用していた、とてもお気に入り黒ニーソだったため、エリナはとても落胆していた。
それ以降、新しいニーソを履いていくことになったわけだが、缶ジュースを持って走っていた男の子が目の前で転んでしまったために、
ジュースがニーソにかかってビショビショになったりと、ニーソに関して何かとアクシデントに見舞われることが多くなった。
「私のニーソ、なんか呪われてるのかしら?」
そう考えると、エリナはだんだん怖くなってきた。
・・・・・・・・・・・・・
「あ、あれ?何で私、ベッドでなくて床で寝ているの?」
ふと目を覚ますと、エリナは自分が床の上にいることに気付く。寝ている間にベッドから転げ落ちてしまったのだろうか。
違和感はそれだけに留まらなかった。やけに周囲の物が非常に高く、大きく見えるのだ。体が縮んでしまったのか。それに体を上手く動かすことができない。
近くに鏡が置いてあったので、それで自分の姿を見た途端、彼女は絶句した。
なんといつの間にかニーソに変わっていたのだ。
「な、何よこれ。私、ニーソになっちゃったの!?」
すると部屋のドアが開き、誰かが中に入ってきた。母だった。
「お母さん、私よ!何故か分からないけどニーソになっちゃったの!助けて!」
しかし母にエリナの声は全然伝わらない。母は彼女を掴んで拾い上げる。
「このニーソ、もう捨てなくちゃね」
「す、捨てる!?や、やめて!!」
母は手に持っていたゴミ袋にそのままエリナをポイっと入れる。そのまま袋をキュッ!と強く締めると、他のゴミと共に捨ててしまう。
「だ、誰かここから出して!助けて!」
・・・・・・・・・・・・・
「ウワアアアッッ!!!」
大きな叫び声と共にエリナは目を覚ます。どうやらさっきのは全部夢だったようだ。
夢であったことに安堵するものの、同時に心臓がバクバクしていた。
「悪夢だったわ、本当に・・・」
すると突然、窓の方から青く眩い光がガラスをすり抜けて部屋の中に入ってきた。 【私のニーソに憑依する悪魔】(2/3)
「な、何?まさか幽霊?」
「幽霊ではありません。私は精霊です、エリナさん」
「せ、精霊?というか喋った!?それに何で私の名前知ってるの?」
その精霊と名乗る青い光がエリナに話しかけてくる。
「私は靴下の楽園であるソックストピアからやって来た精霊、ソックーと申します。エリナさん、あなたを救うためにここに来たのです」
エリナは今の状況をイマイチ掴みきれなかった。そんな彼女のためにソックーは説明する。
エリナが最近やたらとニーソに関してアクシデントに見舞われるのは、そのニーソに悪魔が憑依しているからだという。
その悪魔はデビックスと呼ばれ、さっき見た悪夢もそのデビックスの仕業ということだ。
「エリナさん、デビックスを倒すため私と一緒にソックストピアに向かいましょう!タンスの一番下の引き出しを開けるのです!」
「う、うん!」
ソックーに言われるがままに、エリナはタンスの一番下の引き出しを開ける。すると眩い光に包まれ、彼女は中に吸い込まれていった。
しばらくして目を開けると、そこはソックストピアと呼ばれる靴下の楽園で、様々な靴下が生きており楽しく生活していた。
「く、靴下が喋ってる。不思議な世界ね」
「そうでしょ?それより今はデビックスのアジトへ向かうのです」
ソックーに導かれ向かった先には、大きくて黒く禍々しい建物があった。そこがデビックスのアジトだった。
「イッヒッヒヒヒヒ!この稲村エリナって奴の絶対領域はなかなかだな。こいつのニーソはイジメがいがある」
デビックスは自分の分身にして部下である子分達をエリナのニーソに憑依させていく。
「そこまでだデビックス!」
「何だ!ソックー、それにあのエリナだと!?何故この世界にいるんだ!」
「お前の野望を阻止するために私が連れてきたんだ」
「デビックス、お願いだから私のニーソから離れて!」
「うるさい!誰がやめるものか!」
エリナはデビックスを捕まえようとするが、デビックスはヘビのように体をくねらせて逃げていく。
するとエリナはあることに気がつく。よく見てみるとデビックスの体には、大きく破けた跡があったのだ。
「その破れ穴、一体どうしたの?」
「ん?何だ、これか?本当は話したくないけど特別に話してやろう、せっかくだからな」
デビックスは元々、一人の女子高生に愛用されていた綺麗な白ニーソだった。ある日、うっかり茂みの枝に引っかけてしまい、それで破けてしまったのだ。
破れはしたが、すぐに補修できてまだ履ける程度なのにゴミとして捨てられてしまったのだ。
それ以来、彼は人間を心の底から憎むようになり、それ以来愛用されている靴下、特にニーソを狙うようになった。
「デビックス、あなた・・・!」
「ふん、同情なんていらないぞ!俺の靴下としての人生はとっくに終わったんだ!」
「ううん、まだ終わってない!私があなたの新しい持ち主になる!」
「えっ!?」
エリナの突然の言葉にデビックスは一瞬動揺し、心の整理がつかなくなってしまう。 【私のニーソに憑依する悪魔】(3/3)
「お、俺は一体、どうしたらいいんだ?な、何だこの不思議な感情は!」
赤や青、緑や黄色など様々な色が混ざり合って汚れたデビックスの姿は自然と綺麗になっていき、元の雪のように綺麗な白ニーソに戻っていった。
「エリナさん。あなた、デビックスの汚れた心を浄化させたのです。その優しいお言葉で!」
「彼が寂しくて心を病んでいたのにすぐに気付いたの。でも、もう大丈夫」
デビックスの野望を無事阻止することができたエリナは、ソックーの力で元の世界に戻った。
既に朝が来ており、小鳥が元気よく鳴いている。彼女の手には、デビックスの全身である白ニーソがあった。
「さてっと始めようかしら!」
裁縫箱を持ってくると針に糸を通し、破け穴を丁寧に縫って補修していく。
「これでよしっと!これからは私があなたの新しい持ち主よ!」
それ以来、エリナはニーソのことでアクシデントに見舞われることは一切無くなった。
そして登校する時やどこかに出かける時は、いつもその白ニーソを履いていく。
「エリナ、白のニーソを履くなんて珍しいわね。いつもは黒なのに」
「そう?ちょっとした気分転換かな」
また廊下を歩く度に、近くから男子の声が聞こえてくる。
「なあ、あのC組の稲村って子の絶対領域サイコーだよな!」
「そうそう、白のニーソもかなり似合ってるよな!」
その会話を聞くと、エリナはとても嬉しくてついニヤニヤしてしまう。
朝が来て着替える度に、エリナは白ニーソにこう優しく話しかけるように言う。
「今日もよろしくね。明日は楽しいお出かけよ」
THE END >>169
おお、またも続編ですが・・・なんだこれ!w
ニーソの『悪夢』、『ファンタジー』靴下世界w、主人公の『絶対領域』
作者様の持ちネタをやってるだけなのに、不思議で独特で突き抜けた話になってますね
なんかすごかった >>169
ニーソの精霊の国w
自分が不幸な目に遭ったからと言って、お気に入りの娘を不幸にして良いはずがないですよね
そして、そんな理不尽な心を救うのはアガペーですね >>172
>>173
感想ありがとうございます!
こちらもまさかの続編ですw 以前書いた【マイライフ・アズ・ブーツ】のニーソ版、といった感じですね
単純に成敗するのではなく、主人公が辛い気持ちをしっかりと受け止めることで悪が浄化するという展開は
今まであまり書いたことがなかったので結構新鮮でした
楽しんでいただけてすっごく嬉しいです! >>159
お題:ジャンル『ファンタジー』+『悪夢』『絶対領域』『円満破局』『釣り』
【宮廷闘争の間違った治め方】(1/3)
「さて、クライマックスだ」
俺、クライクン・フォン・ベネガルドはそう呟きながら襟元を正す。ここ数か月余り奔走して来たのは今日この日の為だ。
俺の隣にはベネティクト・フォン・シェザール。シェザール公爵家令嬢で、俺の共犯者の女性でもある。
艶やかな赤毛とやや吊り目がちながら整った顔。そしておみ足が素敵な御令嬢だ。前方から見ると太ももまでしかないデザインのスカートに合わせた、膝上までのストッキング。白い絶対領域が眩しいぜ! ありがとうございます。
「……クライクン?」
「っと、悪りぃ、でも、ちょっとばっかし足癖が悪うございませんかね? お嬢様」
つい、しゃがみ込んでガン見してしまったらしい。ベネティクトの膝蹴りを躱しながら俺は謝る。
彼女がこう言った変則的なドレスを好むのは、蹴り技が得意だからと言うもっぱらの噂だが、それは真実だったらしい。
再び、横並びとなり、彼女の手を取る。こう言ったパーティーでエスコートして入って来る女性は、家族か恋人に限定される。
だからこそ噂を流したし、その為の偽装工作もして来た。
パーティー会場までもう少し。そんな俺達の前に、立ち塞がる者が居た。
******
親父に呼び出された俺は、酷く面倒臭そうな顔をしていただろう。
苦笑した親父は「まぁ、座れ」と、席を勧めた。
「クライクン、お前に頼みがある」
「断って良い?」
「ダメだ。お前が適任だからな」
なら頼みとか言わないで欲しい。それ、命令だから。
「お前にはシェザール公爵家のご息女と婚約をして貰いたい」
「シェザール公爵……ベネティクト様と!?」
「もちろん、欺瞞工作だが」
「何だウソかよ」
うん知ってた、知ってた。兄貴ならともかく、俺だと釣り合いが取れない才女だ。
さて、何故そんな話に成っているかと言えば、まぁ、宮廷に良く有る派閥抗争の為だ。親父、ベネガルド侯爵は、第一王子派な訳だが、昨今のお国のパワーバランス的な事も有り、軍部に支持基盤を持つ第二王子派の連中が幅を利かせている。
俺なんかは、平和主義者の第一王子がトップに立ってくれた方が良いと思うんだが、戦争で手柄を立てたい人達は、隣国との戦争がご希望らしい。
その派閥のトップがグレゴリー辺境伯。隣国との戦争が起きて最も利するからってのも当然だが、小競り合いを続けている辺境伯としては、感情的にも戦争肯定な訳だ。
シェザール公爵は第二王子派ではあるが、今は積極的戦争を避けたいと思っている。中央付近の飢饉の影響で、国力が弱まっているからだ。
このタイミングで戦争を強行すれば、例え勝ったとしても土地の意地が難しいと言う判断らしい。
それ故に、グレゴリー辺境伯の発言力を少しばかりそぎ落としておこうって訳だ。
その為の偽装婚約。つまりは本当には婚約などしないが、そう、匂わせる事で相手にアクションを行わせようって事だ。
何せ、第一王子派トップの子息と第二王子派トップの御息女の婚約だ、上手く行ってしまえば、第一王子派、第二王子派の和解なんて事にもなりかねない。
それも、こっちは次男坊。実質的に第一王子派に下るって言う宣言に等しい訳だ。
「……なぁ、親父」
「ベネガルド候と呼べ」
「ベネガルド候、それって、俺が狙われる事に成りませんかねぇ」
「そうだな」
「おい」
「大丈夫、お前ならやれる!!」
「黙れ!! クソ親父!!」 【宮廷闘争の間違った治め方】(2/3)
******
と言う会話がされたのが3ヶ月ほど前の話。ベネティクトの方にも話は行っていたらしく、顔合わせはすんなり行った。うん、顔合わせだけは……
「お話はお父様から聞いていますので仕方ありません。ですが、私の3m以内に近付く事、許しませんので」
「そうです! ベネティクト様の言う通りです!!」
うん、想像以上に御令嬢様だったわ。そんな状態で、どう親密さをアピールしろと?
だが、俺は頑張った。
声を掛けても無視され、近付こうものなら攻撃されながらも、周囲には仲が良いですよアピールをし、時にはわざわざ王立学園にまで迎えに行き、手紙を送り花束を贈り、と頑張った。
その間には嫌がらせを受けたり暗殺者を送り込まれたり……悪夢の様な数ヶ月だったね。
さて、そんなこんなで過ごした数ヶ月、最初こそ非協力的だったベネティクトも何とか隣に侍る事を許してくれる程度には態度を軟化してくれた訳だ。
そんな俺達二人の前には、貴公子然とした男が取り巻きと共に立ち塞がっている。
メルメール・フォン・グレゴリー。グレゴリー辺境伯の息子だ。
この男が、俺に嫌がらせを続け、暗殺者を送り込んだ張本人。で、この男、有体に言えばベネティクトに恋慕してる。
そんな彼等には、このパーティーで、俺とベネティクト嬢が婚約発表をすると言う偽情報を流してある訳だ。
「……クライクン、ベネティクト嬢から手を引きたまえ」
「何の事です?」
「君とベネティクト嬢では釣り合いが取れない」
「……それは、親が決める事で、自分が意見できる事ではありませんよ」
男心を弄んでいる様で気分は良くないが、バカ息子が釣れた事に、俺は内心ニヤリと笑った。
「あくまで、手を引かないと言うのなら仕方が無い。身の程を知るがいい」
メルメールがそう言うと、取り巻き達が俺を取り囲むべく動き出した。
マジか、コイツ等、ベネティクトまで巻き込もうってのか?
俺は咄嗟に、彼女を巻き込まない様に中庭に飛び出した。
「フッベネティクト嬢の前で、恥をかきたまえ! 今後、彼女の前に現れようと思わなく成るようにな!!」
多対一、それも、取り巻きを嗾けるだけで、自分の手を汚さないとか……
「やれ!!」
メルメールの号令で、俺に襲い掛かる取り巻き達。でもさ、遅いよ?
俺は、取り巻きの1人に詰め寄ると、その足を払い転がす。呆気に取られるその横の男を蹴り飛ばし、続いて手を取るとクルリと向きを入れ替えて関節を極めつつ、盾にしてもう1人にぶつけた。
「な!!」
ベネガルドの無能な次男坊。そう思っていたんだろうけど、別に格闘技が苦手な訳じゃない。兵の上下関係が苦手なだけだ。
あっと、言う間に取り巻きを伸した俺をメルメールは蒼い顔で見ると、何を考えてるんだか、ベネティクトの方へ駆け寄って行く。
「べ、ベネティクト嬢! あ、あいつはこんな野蛮な男なんですよ!! あ、貴方にはふさわしく……ぷぎぇ!!」
駆け寄って行ったメルメールに、ベネティクトは綺麗なハイキックを喰らわせていた。
「あら、私、結構野蛮なんですのよ?」
うん、知ってる。 【宮廷闘争の間違った治め方】(3/3)
******
こうして、闇討ちなんて言う不名誉な事をやらかした息子の失態を隠してもらうと言うカードで、グレゴリー辺境伯は引き下がるしかなくなった。
あの後、改めてベネティクトは、弟のクローズくんとパーティー会場に入って行った。
俺はと言えば、御独り様で会場入りして、紳士淑女の皆様に眉を顰められた訳だ。
「クライクン、お前に頼みがある」
「断って良い?」
「ダメだ。お前が適任だからな」
この件、既視感が有るんだが?
「お前にはシェザール公爵家のご息女と婚約をして貰いたい」
「おい、それは終わったんじゃなかったか?」
円満に破局となった筈だ。
「先方からの強い要望だ」
「マジか……」
え? 俺、また嫌がらせと暗殺者を送られる日々が始まるの?
悪夢だ。 >>159
使用お題→ジャンル『ファンタジー』+『悪夢』『絶対領域』『円満破局』『釣り』
【機知に富んだ竜騎士ドン・タローテ】(1/3)
遠く中世ヨーロッパ風ファンタジー世界に一人の竜騎士がいた。
彼は三度の飯よりも仕事が好きで、起きている間は訓練を欠かさず、戦場に出れば多くの敵を討ち滅ぼした。そのために敵の魔法使いたちの呪いを受け、寝床に入れば悪夢にうなされ、食事は喉を通らず、最後にはすっかり体を壊してしまった。
戦う力を失った彼は、多額の退職金を手に国を去ることとなった。乗っていたドラゴン『イマナンテ』の払い下げを受け。敬愛する主君『ハクア姫』のグッズを集められるだけ集め。かつての英雄は、今しも放浪の旅に出んとするところである。
*
ここは町外れ、早朝の街道だ。遮るもののない陽光に照らされて、二つの人影が揺れている。
「行ってしまわれるのでございますね」
「うむ。これが今生の別れである」
そう告げる我らが竜騎士の前に立つのは、彼の従者であった『<赤い凶星>ハチベー・ヤギュー』である。
幾多の戦場を共にした二人の、血湧き肉躍る冒険の日々。いつまでも続くと思われたそれは、今この時をもって幕を閉じるのだ。
「……いやその、ハチベーよ、もしお前が――」
「タローテ様、今までありがとうございました。おさらばでございます!」
そう言ってにっこりとする彼女である。
ドン・タローテは、続く言葉を飲み込んだ。腹に力を込めると、大音声で呼ばわる。
「ヘイ、イマナンテ! 出立だ!!」
そう呼ばわったものの、何も起こらない。
少しばかり間抜けな空気が漂うも、我らが竜騎士は動じない。
やがて。
「…………イマ……ナンテー!」
ドラゴンにしては珍しい叫び声。青空に出現したゴマ粒が、たちまちの内に大きな影となる。
二つの小さな影を塗り潰し、あわや地面にぶつかるか、というところで、それは速度を落とすと、街道の真ん中に下り立った。
ドン・タローテは、このドラゴン、イマナンテの背中に乗ると、努めて厳かな声色で、次のように言った。
「さらばだハチベー! 達者で暮らせ」
*
飛んでは休み、休んでは飛び、竜騎士とドラゴンは、とある海岸までやってきた。
相変わらずの快晴であるが、ドン・タローテの目には、なぜだか周囲の景色がかすんで見えた。それと、心なしか気温が高いようにも感じられる。
「どれ、イマナンテの昼飯でも釣れるかな」
細かいことは気にしない。ドン・タローテは岩場で釣り糸を垂れた。
実に気持ちのいい天気である。イマナンテは大人しくしている。と言うか眠りこけている。
かつて竜騎士と共に暴れ回った怪物は、今や年老いて、少し動いただけで疲れてしまう。
ドン・タローテは、釣り糸の先を見詰める。
ただ黙って見詰める。
いつの間にか目を覚ましたイマナンテも、ドン・タローテと一緒に当たりを待つ。
「釣れんな……」
「イマ……ナンテ……」
*
突如。すさまじい力で釣りざおが引っ張られた。
「ああっ! 俺の釣りざおが……!」
「イマナンテー……!」
釣りざおはドン・タローテの手を離れ、海中に引き込まれてしまった。
立ち尽くす一人と一匹であったが、次の瞬間には、辺りの様子が一変する。
海面がぶくぶくと沸騰するように泡立ち、立ち上る水蒸気で視界が白く染まる。
その真っ白い中に、何やら強い光を放つものが現れる。
「ううむ、これは……これは△.□.フィールドか……!? イマナンテ、中和だ! 中和せよ!!」
「イマナンテー!!」
ドン・タローテの指示で、イマナンテが鼻息を噴射した。
視界を遮る水蒸気は吹き飛ばされ、光るものの正体が……。
「……あっ、あなた様はハクア……ではなく…………ア○ビ○様ですか?」 【機知に富んだ竜騎士ドン・タローテ】(2/3)
その人物は海面に浮かぶようにして立っていた。全身が光り輝いており、顔も服装も判然としない。ただその輪郭から女性であるように思われた。
「いいえー、私は○マ○エではないですー。私は泉の仙女ですー」
「そっ、そうなのですか。しかし、泉など見当たりませんが……」
「実はー、この海岸にはー、温泉が湧いているのですー」
「なるほど……かすんで見えた風景と、妙に温かい空気は、それが原因だったのですね」
ドン・タローテがそう言うと、仙女はうなずくような動きをしつつ、ある物を取り出した。
「そうなんですー。それでー、この釣りざおなんですけどー、これはあなたが落とした釣りざおですかー?」
「はっ、はい! それは私が落とした釣りざおです」
それは間違いなく、ドン・タローテがたった今なくした釣りざおだった。
「そうですかー」
「はい」
「それでー」
仙女は釣りざおを隠してしまった。ドン・タローテは困惑するも、次に彼女が取り出すものを見て、ひどく動揺することとなる。
「これなんですけどー」
「そっ、そいつは……!」
「この妖魔なんですけどー、これはあなたが落とした妖魔ですかー?」
「モリモリ」
「……い……いえ……」
「モリー!」
それはドン・タローテが以前討伐した妖魔だった。全身を覆う緑色の毛が、今は水を吸って垂れ下がっている。
「……いや、はい、確かに、そいつには見覚えがあります。かつてそいつと決闘をして、最後は川に突き落としたと記憶しておりますが……」
「そうですかー」
「まさか生きていたとは……」
仙女は醜悪な妖魔を海に沈めた。緑色がすっかり見えなくなると、次に彼女は、どこからか一冊の本を取り出した。
「それでー、これなんですけどー」
「はて……見覚えも心当たりもありませんが……」
「これはー、いにしえの魔法使い『ケン・ザブロー』によって著されたSAN値直葬の魔導書『ロゴスノミコン』――」
「あの仙女様! 魔法使いどもは私の天敵です。どうかその忌まわしい紙の束は、どうかお願いですから、千切ってちり紙にでもするか、とにかく私の前から消し去ってください」
「そうですかー」
仙女は本を仕舞った。
「それでー、これなんですけどー」
そうして次に彼女が取り出したのは、またもドン・タローテが見知ったものだった。
「はっ、ハチベー!」
「これはあなたの従者ですかー?」
「はい! いえ、確かに先日まで私の従者を務めておりましたが」
目にも鮮やかな赤、黒、白の装束に、小柄な彼女の絶対領域が映える。
「ハチベーよ、一体全体どうしたことだ。国に残してきたはずのお前が、どんな魔法を使ったら、こんな遠くの海岸に現れるのだ」
ドン・タローテの問い掛けに、ハチベーは次のように答えた。
「タローテ様、申し開きの仕様もございません。わたくし、タローテ様の退職き……いえその……大食漢! そう、大食漢のイマナンテの食費が気になってしまい、タローテ様の跡を追うこととしたのです」
ここまで聞いたドン・タローテは、ハチベーの説明に口を挟む。
「大丈夫だハチベー。イマナンテは年老いて、昔ほどは食べなくなった。お前も知っておろう」
「そっ、そうでございますね」
ハチベーは説明を続ける。
「それで出立いたしまして、道を歩いていたところ、川がございまして」
「うむ」
「橋のない川で、慎重に渡っていたのでございますが」
「うむ」
「うっかり足を滑らせてしまい、川を流され、気付いた時にはこちらの仙女様のお宅で……」
「そうか……」
ハチベーの話を最後まで聞くと、ドン・タローテは仙女に話し掛ける。
「仙女様! まずはハチベーをお助けくださり、ありがとうございました。その者は私の従者で間違いございません。他の何も要りませんから、どうかハチベーをお返しください」
「そうなんですかー。うーん、どうしましょう」
「あのタローテ様」 【機知に富んだ竜騎士ドン・タローテ】(3/3)
ハチベーが、その小さな両手をドン・タローテに向けて差し出した。
「わたくし、手土産にハクア様と握手してまいりました」
「仙女様!! なんだったら私の優秀で勇敢なドラゴン、イマナンテを差し上げますから、どうかハチベーをお返しください!」
「イマナンテー!?」
「大食漢は間に合っておりますー」
「そうですか……」
ドン・タローテは落胆した。
「ですがー、あなたは正直者ですねー。そんなあなたに免じてー、釣りざお、妖魔、従者、すべてお返ししますー」
「ありがとうございます! ですが妖魔は要らないです!」
「モリー!!」
「それとー、この魔導書をー、特別価格でご提供しますー」
「いえ仙女様――」
「妖魔を取るかー、魔導書を取るかですー」
*
ドン・タローテは少なくない金額を支払って、妖魔を除くすべてを取り戻した。
「タローテ様、申し訳ございませんでした。わたくしのために貴重な退職金が目減りしてしまいました」
「言うな。竜騎士には従者が必要なのだ。イマナンテも機嫌を直してくれ」
「イマナンテー?」
「それにしても……」
ドン・タローテは、売り付けられた魔導書に視線を落とす。
「これはどうしたものやら」
「誰か必要とする者に売れば良いのではございませんか?」
「駄目だ、それは危険だ。しかし、折角買ったものでもある……」
ドン・タローテは好奇心にあらがえず、魔導書の表紙をめくってしまった。
「ううむ、これは……分からん……」
「タローテ様?」
「これは……コレハ……ワカラン……」
「タローテ様? タローテ様!?」
*
その後。
「これは英雄の物語……」
ドン・タローテは、魔導書のせいで正気を失ってしまった。
「竜騎士の物語でございますよー」
「イマナンテー」
しかし、それと引き換えに、類いまれなる詩作の才能を授かったのである。
吟遊詩人となった彼の作品は、後の世の研究者によってまとめられた。
それこそが、現代にまで伝わる『超能力竜騎士ドン・タローテム物語』なのである。 同じく遅刻すみません!
ナーロッパと騎士道物語の世界の、中間くらいのイメージで・・・ お題→ジャンル『ファンタジー』+『悪夢』『絶対領域』『円満破局』『釣り』締切
【参加作品一覧】
>>163【女騎士と謎の剣士】
>>169【私のニーソに憑依する悪魔】
>>175【宮廷闘争の間違った治め方】
>>180【機知に富んだ竜騎士ドン・タローテ】 ☆お題→『マインドコントロール』『百人組み手』『媚薬』『理科室の実験』『レモン』から1つ以上選択
☆文字数→3レス+予備1レス以内に収めれば何字でも可。
1レス約1900字、60行が上限。
☆締め切り→5/17の22時まで。
締め切りを過ぎても作品の投稿は可。
【見逃し防止のため、作品投稿の際はこのレスに安価してください】 ちょっと懐かしい気がするお題ですね
今週もお題スレをよろしくです・・・
そして次回の企画をどうするか・・・
ご意見ご要望はいつでもどうぞですー >>175
これは面白い!、と言うか個人的には好きな話!
『ファンタジー』世界の貴族、『絶対領域』ドレス、『釣り』合いで釣る、『円満破局』なのに『悪夢』が終わらない!
設定はテンプレを踏襲しつつ、見せ場もあるし、お題も完璧に消化してて、これはさすがです >>180
急転直下の引退劇からの転職物語w
あくまでもビジネスライクな元従者と主人公の一途な恋心(?)がw
>>193
感想有り難うございます
PCの前で、リアルに転げ回りながら書いた甲斐がありましたw
最も悩んだのは絶対領域ドレスですが、『天空の城をもらったので〜』のお姫様のドレスを見て、吹っ切れました >>194
感想ありがとうございますw
一体何の話だったのかw >>191
使用するお題→『マインドコントロール』『百人組手』『理科室の実験』『レモン』
【懲りない親友】(1/3)
スレ7 710【親友は大食い】を先に読んでおくことをオススメします
ランドセルを背負い、カナミが元気よく学校へと向かっている中、途中で親友のリナと会った。
「あっリーちゃん、おはよう!」
「おはようカナちゃん!」
リナは食べるのが大好きだ。以前、意地悪な小6女子の一人である赤沼ミチエの罠にハマり、
彼女が経営する焼肉店の超濃厚なサムギョプサルに夢中になって激太りしたことがあった。
カナミやクラスメート達の助けもあって何とか元の体型に戻り、それ以来食べる量を少しではあるが減らしているようだ。
ぽっちゃり体型ではあるが、前よりも少し痩せているように見えた。
「リーちゃん、少し痩せた?」
「そう見える?だったら嬉しいな。私ね、最近お母さんとお父さんと一緒によくセミナーに通っているの」
「セミナーって?」
「スタイリッシュな体型を目指すあなたへ!というものなの」
リナ曰く、華奢で美しい体型になりたい人がよく通うセミナーだという。彼女の両親も肥満体型でとにかく痩せようと頑張っているのだが、
基本出不精であまり動きたがらない性格のせいで、なかなかダイエットが上手くいかないのに悩んだ結果、そのセミナーに一緒に通い始めたのだ。
「講師の人がね、すっごくイケメンで優しくてホント素晴らしいことを言うの!それが最高でね!」
「う、うん(単にその講師がイケメンでそれ目当てに行ってるだけじゃ・・・)」
カナミは内心呆れつつも、リナの話に相槌を打つ。
「ジョギングとか腕立て伏せみたいな面倒な運動無しで、食生活を変えれば普通に痩せていくって本当に楽でいいわー」
「(い、いやそれなりの運動も必要でしょ。普通に考えてさ)」
学校に着き、1時間目の授業は早速体育だった。体操服に着替えて運動場に出るが、リナの姿が見当たらない。
「あれ、リーちゃんがいない・・・」
よく見てみると、彼女はブランコに座ってのんびりと寛いでいた。
「おい森野、体操服に着替えないで何をしているんだ。忘れたわけじゃないんだろう?」
「うん、別に忘れてはないけど、これから体育の授業はお休みさせていただきます」
「何を言っているんだ?」
「ダイエットに無駄な運動は禁物だってセミナーで言われたんです」
「バカなことを言うな!」
体育の先生に怒られても一切動じず、リナは体育の授業に出ようとしなかった。そんな傲慢な親友の姿に、カナミは呆れかえっていた。
放課後のこと、公園にトラックの焼き芋屋さんが止まっているのを見て、リナが嬉しそうに駆け寄る。
「おじさーん!焼き芋4個ちょうだい!」
「リ、リーちゃん、確か今まで2個までだったでしょ?」
「焼き芋はね、栄養満点だからいくら食べてもエネルギーになるから大丈夫!」
「・・・・・」 【懲りない親友】(2/3)
家に帰ると、ケンスケが楽しそうに格闘ゲームの百人組手に挑戦していた。
「あと3人倒せばクリアだ!」
「ねぇケンスケ!」
急に声をかけられてビックリした弟はうっかりミスをしてしまい、98人目の敵に倒されてしまいクリア失敗となってしまった。
「お姉ちゃん、急に話しかけないでよ。あと少しだったのにさあ」
「ご、ごめん。あのね、協力してほしいことがあるの」
ケンスケに説明すると長めの黒いコートを羽織り、父のサングラスと母の帽子を借りて身につける。
「また探偵ごっこだね!」
「うん。まぁ、ごっこと言うほどでもないんだけど」
その日の夕方6時、カナミとケンスケは9時までには帰ると両親に告げると家を出て、リナの家の近くまで向かう。
電柱の陰に隠れて20分ほど経った時、リナが両親と一緒に家から出て行くのを確認し、気付かれないように尾行する。
リナ達が着いたのは町の公民館だった。ここでセミナーが開かれるようで、他に10数人ほど集まっている。
しばらく待っていると講師であろう若い青年が現れ、セミナーが開始する。
「いいですか。健康でスタイリッシュな体型を目指すには、栄養バランスの整った食事と適度な運動が重要なのです」
窓から覗いて講師の説明を聞いてみると、リナから聞いているのと全く違っていた。適度な運動が大事であるときっちり主張している。
よく見てみると、リナの瞳はハートになっており講師の話をちっとも聞いていない様子だ。
「リーちゃん、全然聞いていない。こりゃ講師がイケメンってだけで通っているようなもんね」
「かなりの面食いなんだね」
講師がイケメンなのに夢中になって、彼が言う事全てを違う方向に理解してしまっているという、何ともおかしなマインドコントロールに陥ってしまったようだ。
「またとんでもないことになりそうな予感・・・」
カナミの悪い予感は的中した。それ以来、リナはとにかく食べる一方で、ろくに体育の授業に出たりせずに運動を怠るため、また激太りしてしまった。
「リーちゃん、また・・・」
「あれ、私また太っちゃったかな。テヘッ!でもバランスの良い食生活を心掛けているから大丈夫」
特に酷いのが給食の時間だった。カレーの残りを独り占めしたり、余ったデザートをジャンケンで決めたりせずに勝手に奪う始末だ。
「森野のやつ、また変なものにハマってしまったのか?」
「うん、あのね・・・」
カナミはハヤトにセミナーのことを全て説明する。ハヤトも思わず呆れて、開いた口が塞がらなくなりそうだった。
「正直もう見てられないわ」
「でも、まあこの際何とかして助けようぜ」 【懲りない親友】(3/3)
放課後、カナミとハヤトは先生の許可を得て、理科室を利用してある物を作ることにした。
自宅の花壇に咲いてあるチューリップと、近くの店で買ってきたレモンを用意する。
図書室で借りた図鑑を見ながら、早速実験を始める。
「チューリップのエキスとレモンの果汁を混ぜれば・・・!」
持っていたフラスコからボンッと音を立てて煙が出てくる。香水の完成だ。
「完成!この香水を使えばリーちゃんの食欲を極力抑えられるはず!」
「これで森野を止められるといいんだけどな」
翌日、チューリップのエキスとレモンの果汁が混ざってできた香水をリナに渡す。
「リーちゃん、お腹が空いた時はこの香水の匂いを嗅いで!」
「うっレモンの香りがする!私、レモンとか梅干しとか酸っぱいもの嫌いなの!」
「いいから使って!」
リナが酸っぱい食べ物が苦手なことはカナミは知っていた。その匂いを嗅ぐことで食欲を抑えられる、と判断したのだ。
リナは言われた通り、食事の時間になるとその香水を嗅ぐ。最初は何が何だかよく分からなかったが、その匂いのおかげで自然と彼女の食欲は抑えられていった。
そのおかげで少しずつではあるが、リナの体型は元に戻っていった。
「あれ、体が前より軽くなった気がする」
「リーちゃん、食べるのもいいけど運動もちゃんとやらなきゃね」
しかし、終わり良ければ全て良し、というわけではなかった。その後、リナはワガママな理由で体育の授業をサボってきたため、
体育の先生に思いきり怒られてしまい、罰として校庭100周を毎日やらされるはめになってしまった。
「ヒィ、ヒィ!もう勘弁してー!」
「うるさい!今まで体育をサボった分を取り戻すまで許さないぞ!」
「そ、そんなぁ!」
必死に校庭を走るリナを見て、カナミとハヤトは思わずアハハと笑うのだった。 >>196
懲りないあの子が帰ってきたー
『百人組み手』の途中、おかしな『マインドコントロール』講師悪くないw、『理科室の実験』で『レモン』の香水
今回は平和な話w、しっかりオチまで付いて、めでたしめでたしでしたw >>199
感想ありがとうございます!
はい、あの懲りない子がまたトラブルを起こしちゃいましたw
あの食欲ぶりじゃまた何かやらかしてしまいそうですね、しっかり見張っておかないと(笑)
楽しんでいただけてすっごく嬉しいです! それにしても過疎ですね・・・スレ8になって悪化しておる
枠が埋まるか分かりませんが、次はリレー企画をやっておこうと思ってます・・・ >>191
お題:『マインドコントロール』『百人組み手』『媚薬』『理科室の実験』『レモン』
【乙女心と春の空】
ゴロゴロと雷が鳴り、一瞬の稲光がその部屋の惨状を映し出す。一人の少女がゼイゼイと息を荒げ、手に持ったスチール椅子をガタリと落とした。
疲労感に膝をつく。かつて彼女が部活で行った、百人組手を終わらせた時さえ、ここまで疲れ切ってはいなかっただろう。
やや虚ろな瞳で部屋の中で倒れている男女を見る。
(やってしまった)
少女は、そう思った。
******
鼻唄を歌いながら、白衣の少女が人参を刻みレモンを絞る。ジューサーに牛乳を入れてそれらを混ぜ合わせると、小鍋に入れて火にかけた。
傍から見ている限りは料理でもしている様に映るだろう。ここが、理科室で無ければだが。
「ちょと、ミーナ!! 解いて!! ほ〜ど〜い〜て〜!!」
「……」
「ちょと、高梨、アンタもなんとか言ってよ!!」
「桧山先輩、仲代先輩が本気なら抵抗しても無駄ですから」
理科室の端には一組の男女の生徒が縄で縛られていた。女生徒の名は桧山 詠美。女子空手部ではあるが、白衣の少女、仲代 美奈代の幼馴染と言う事で、ちょくちょく彼女の“実験”に巻き込まれている薄幸の美少女である。
「ふっふぅ〜。エイミー、大丈夫だよぉ〜、ちょぉっとした実験に付き合って貰うだけなんだからぁ〜」
「それが嫌だって言ってんのよ!! てか、高梨、何でお前は平然と縛られてんのよ!!」
「いや、下手に抵抗するより、大人しく従った方が色々と良い目も見られますんで」
美奈代の後輩で同じ科学部の高梨 陽太は、縛られたまま諦観の籠った目でそう言う。
「だよねぇ、高梨君は良い子良い子!」
そう言って美奈代が陽太の頭を抱きしめながら良い子良い子する。意外に豊満な胸に抱きしめられた陽太は、鼻を膨らませ、濁った瞳でニヤケていた。
「ダメだ、こいつ、洗脳されてやがる」
「ぶ〜、誰も高梨君にマインドコントロールなんてしてないよぉ?」
確かに彼女にそんな気は無い。だが陽太は、実際“堕ちて”いるのではあるが。そこが天然ぽよんぽよん系女子である美奈代の恐ろしい所だろう。
その事実に、詠美は頬を引き攣らせる。
「って、言うか、無理矢理アタシを連れて来て、何しようって言うのよ!!」
「ぶ〜、わたしは無理矢理になんて連れてきてないもん!」
「あ、ホルマリンを嗅がせて、椅子に縛り付けたのはオレです」
「ちょ、犯罪!! てか、じゃぁ、何でアンタも縛られてるの!?」
「趣味です」
(ダメだ、コイツ何とかしないと)……詠美はそう思った。
「ふっふぅ〜。今日は媚薬の実験をします」
「は?」
「!!」
ガタッ!
「は〜い、高梨君は落ち着いてねぇ」
「え? いや、ホントに?」
「本当にぃ〜」
「え? 何で?」
「ふっふぅ〜、昨日、クッ〇パッ〇で、『自宅で簡単、媚薬レシピ』(注、有りません)って言うレシピ紹介を見付けたからぁ〜、やってみたくなっちゃってぇ」 【乙女心と春の空】 (2/3)
隣で鼻息を荒くする陽太からガタガタと距離を取りながら、詠美が顔を顰める。
「い、いやよ、そんな物の実験なんて、むしろ、自分で試しなさいよ!」
「う〜ん、それでも良いんだけどぉ、外から観察できないとねぇ」
「!!」
ガタタッ!!
「は〜い、高梨君は落ち着いてねぇ」
そう言いながら美奈代は、3種類の試験管を持って来た。一つは先程彼女が作っていた媚薬である。
「男の子用と女の子用があってねぇ? 男の子用はぁ、蜂蜜とワインを混ぜたものだから、味も良いんだけどぉ、女の子用は、ちょっと味はあんまりなんでぇ、自主的に飲んでくれると嬉しいかなぁ」
「絶っ対っ嫌!!」
「……桧山先輩、所詮は科学的根拠の無い代物です。ここはさっさと飲んで済ませてしまいましょう」
「ぶ〜、βカロチンとビタミンcの同時摂取で、女性ホルモンの分泌を増加させるんだよぉ! 科学的根拠は有りますぅ〜!!」
「……科学的根拠の無い代物です! さっさと飲んでしまいましょう!!」
「後ろでミーナが何か言ってるけど?」
「……科学的根拠の無い代物ですから!!」
キリリとした表情で繰り返す陽太だったが、しかし、彼の下半身を見る限り説得力は無かった。
「ムチャクチャ期待してんじゃないのぉ!!」
「ふう、我儘ばかり言って、しょうがない人だ」
「当然の主張だと思うけどぉ!!」
「ふっふぅ〜、大丈夫だよぉエイミー。別に危険な事なんて無いんだしぃ」
「アタシの貞操の危機なんですけど!?」
詠美がそんな事を言っていると、いつの間にか縄を解いていた陽太が、試験管の中のドロリとした液体を飲み干し、フシューと息を吐く。
「みなぎるるるるるぅぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
ビキビキと体中の筋肉が膨張し、パンプアップを完了した陽太が、もう一本の試験管を手に縛られたままの詠美にニジリ寄って来た。
「ちょ、ミーナ! あれ、本当に蜂蜜とワインなの? なんか変な物混ざってない!?」
「う〜ん、プラシーボ効果かなぁ?」
「ふうぅ……桧山先輩、だあぁい、じょおおぉぉぶですよおおおおぉぉぉぉ、科学的根拠なんてありませんからああああぁぁぁぁぁぁ。もしあったとしてもおぉぉ……天井の染みの数を数え終わる前にいいいぃぃぃ、終わりますからあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
目を血走らせ、襲い掛かって来る陽太。
「何も大丈夫じゃないぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
「エイミー! ファイトぉ!!」
「だまれぇ!!!! アンタって娘はああぁぁ!!」
さすがの美奈も一歩後退り、しかし、スマホを録画モードで起動していた。
陽太は詠美に媚薬を飲ませようと手を伸ばす。詠美は咄嗟に…… 【乙女心と春の空】 (3/3)
「!!」
「うっわぁ……」
足を延ばすと、陽太のウイークポイントを捻りを加えて蹴り飛ばしていた。
股間を押さえ、崩れ落ちる陽太。
「……縄、解きなさい」
「あ、はいぃ」
大人しく詠美の縄を解く美奈。
「…………」
「あ、あのね? エイミー、わたしもこんな事に成るなんて……」
「……い」
「え?」
「アンタはもうちょっと後先考えなさいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
「ご、ごめんんなさいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
容赦なく詠美が美奈にチョップをかます。さすがに悪いと思ったのか、涙目で謝る美奈を前に、多少なりともスッキリとした詠美がため息を吐いた。そんな時だった。
ゴクッゴクッゴクッ……
三本目の試験管の中身を飲み干した陽太が、制服の上からでも分かるほど発達させた胸筋をピクピクとさせながら立ち上がる。
「ちょ、ミーナ、あれも媚薬なの?」
「え? うん、クミン、シナモン、コリアンダーなんかを混ぜたぁ、本命中の本命だったんだけどぉ」
「ふうううううぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
「な、何か変なオーラ出してるんだけど?」
「そ、そうだねぇ〜……」
「ちょ、マズくない?」
「プラシーボ効果かなぁ……」
二人が一歩後退ったその瞬間、陽太の制服が爆ぜた。
「ふしゅう」と言う呼吸音と共に、虚空に七つの星の形を描き出す陽太。
上半身は世紀末救世主、イヤ、性紀末吸精主の様に漲り、下半身は羅王、イヤ、裸王の如く漲っていた。
「絶対!! 媚薬じゃないでしょ!? あれぇぇぇ!!!!」
「……エイミー、ファイトぉ!!」
「アンタって娘はあああぁぁぁぁぁ!!!!!!」
襲い掛かる猛獣。詠美の決死の抵抗が、今始まったのだった!
******
放課後になったばかりの時は晴天だったハズの空は、いつの間にか掻き曇り、稲光りがその部屋の惨状を映し出した。
一人の少女がゼイゼイと息を荒げ、手に持ったスチール椅子をガタリと落とす。
疲労感に膝をつき、やや虚ろな瞳で部屋の中で倒れている男女を見る。
「ひゃ、百人組手でだってこんなに疲れなかったのに」
少女は、そう呟いた。
こうして、詠美の乙女の怒りが炸裂し、悪は滅んだ。
詠美は、やってしまったと思いながらも、その心は晴れやかだった。 >>205
すみません、誤爆しましたorz
>>196
思い込みの激しい娘さんですね
思い込んだら一直線と言うか、視野が狭いと言うか
周りの言葉もちゃんと聞かないといけませんよねw >>191
使用お題→『マインドコントロール』『百人組み手』
【機知に富んだ達人ドン・タローツ】(1/2)
遠く東洋の神秘薫る地に一人のカラトマスターがいた。
「ではー、次の相手でー、九十七人目ですー」
「残り三……ではないな、四人か……」
広いドージョーの中。観客や関係者がコートを取り囲んでいる。その中心で対戦相手を待つ、この男。
「だが……残り何人であっても……俺に取っては同じことである……」
今は百人組み手と呼ばれる荒行の最終盤である。ここまで九十六人と対戦した男は、とっても疲れて、立っているのもやっとの様子である。
「相手が誰であれ……俺は勝つ……。全員に勝利した暁には……『<マスター東洋>ドン・タローツ』改め『<マスター世界>ドン・タロート』を名乗ろうぞ……!」
*
「モリー! 次はこのモリ、『<ネオヘーケ総統>ドンキー・モリージ』が相手だモリ!」
全身毛むくじゃらの怪人が現れた。顔も体も緑色の、異様な姿である。
「ふっ、モリよ……お前はもう負けている……」
「モリモリ。疲労で頭がおかしくなってるモリ。その回らない頭で、モリの前にひれ伏すモリー」
酔拳もかくや、ふらふらのドン・タローツに対して、元気一杯の怪人だ。これだけを見れば、ドン・タローツに勝ち目などないように思える。
「皇帝はマインドコントロールでモリの言い成りだモリ。モリは『<六波羅大要塞>グリーンヒルコ』も復活させたモリ。これで世界はモリに服従するモリー。世界征服だモリー♪」
普通に聞けば意味の分からない妄想だが、見るからにおかしな風体の人物が自信満々に言い切ると、そこには言い知れぬ説得力があった。
「ふっ、世界征服だと……? ふふふふ……ふははっ……ふははははっ!」
「モリモリ。いよいよ本当に頭がおかしくなったモリ」
観客の中には、モリージ勝利の雰囲気が広がりつつあった。だが、ドン・タローツは動じない。
「モリよ……<マスター東洋>をなめるでない……。タローツ拳法最終奥義『俺の両手から放たれる幻想破壊拳』で、お前のドリームは粉みじんだ……」
「モッ、モリモリ」
「おごれるモリも久しからず……。見よ……大要塞は……緑のジャングルに沈んでいる…………」
「モリモリ……」
「…………爆発ッ!!」
「モリーッ!?」
*
モリージを撃破したドン・タローツ。次なる対戦相手は。
「『<前回世界大会チャンピオン>イマナント』選手ですー」
馬っぽい顔の男である。過去には無敵を誇った大物だが、最近は音沙汰がない。
「これが諸行無常か……イマナントよ……お前はもう負けている……」
「今なんと?」
イマナントの『絶対恐怖反射』。相手は精神崩壊する。
「あらー? イマナント選手、反則負け、一発退場ですー」
最近のルール変更で、イマナントの必殺技、絶対恐怖反射は禁止されてしまったのだ。
「恐ろしい相手であった……」 【機知に富んだ達人ドン・タローツ】(2/2)
「次は……そろそろ……あいつか……」
「九十九人目はー、『<赤い主人公>スーパーハチベヱ』選手ですー」
全身が赤っぽい女である。
「タローツ様、次はわたくしがお相手いたします!」
「うむ……だがハチベヱよ……お前はもう負けている……」
「何を言っているでござ……おおっと、危ないところでございました」
二人は同じドージョーで修行する者同士であり、互いの手の内を知り尽くしていた。
「タローツ様。わたくし、昔のままのわたくしではございません。ここ数日間の修行で超進化を遂げた、華麗なる頭突きの技、とくとご覧あれでございます!」
言うとハチベヱは、目にも留まらぬ速さでジャンプし始めた。
「ここここれれれれがががが! わわわわたたたたくくくくししししのののの」
「ハチベヱよ、何を言っているのか分か……おおっと、危ないところであった」
「これが流派野牛究極奥義『頭突きでコインがっぽがっぽ』でございます。相手は粉みじんです」
ハチベヱは、勝利を確信した表情で仁王立ちした。
「さすがだ……さすがハチベヱ……だが……」
ドン・タローツは、懐から何かを取り出した。
「この現金が目に入らぬか……」
「それは……その紙幣の束は……!」
ハチベヱは降参した。
*
長かった闘いは、とうとう最後の一人となった。
「それでは百人目ですー」
「ふっ。このドン・タローツ、誰であろうと負ける気が…………っ! まさか……」
全身白っぽい女が入場してきた。
「まさか……まさかあなたは……」
もはやドン・タローツには何も聞こえなかった。言葉もなく立ち尽くし、その女の他には何も見えなくなった。
「あなたは……」
女は、ドン・タローツの前まで歩いてくると、そこで立ち止まった。
「あなたは…………!」
ドン・タローツは握手してもらった。
「ハクアたん……!」
試合には負けた。 こんなのしか出てこないw
作者的には書きやすい登場人物たちです・・・ >>208
惚れた弱みと言う奴ですね
他には果たしてどんな相手が居たのか? 気になりますw お題→『マインドコントロール』『百人組み手』『媚薬』『理科室の実験』『レモン』締切
【参加作品一覧】
>>196【懲りない親友】
>>202【乙女心と春の空】
>>208【機知に富んだ達人ドン・タローツ】 では一応リレー企画ですが、お題は普通に5つです
お題安価>>214-218 ☆お題→『難民』『女言葉』『金物屋』『変形』『転校生』から1つ以上選択
☆文字数→3レス+予備1レス以内に収めれば何字でも可。
1レス約1900字、60行が上限。
☆締め切り→5/24の22時まで。
締め切りを過ぎても作品の投稿は可。
【見逃し防止のため、作品投稿の際はこのレスに安価してください】 【リレー企画の参加者を募集します】
・定員は3名で、早い者勝ちです
・今回お題から各自1つ以上選択します
・企画参加作品の締め切りは、企画の成否にかかわらず、2週間後とします
参加希望の方は、ポジション【1/2/3】のいずれかを明記の上、このレスに安価してください
・ポジションが取れ次第【1】の方は書き始めて頂いて結構です
・作品のタイトルは【1】の方が決めてください
・投稿の際【リレー企画:作品のタイトル(1)】のように、企画作品であることを明記してください
・【1】【2】の方は、次の方のために、自分の担当レスの提出予定日を宣言してください 今回のお題も、結構調子良く集まりましたね・・・ありがとうございます
作品も感想もありがとうございます
リレー企画もよろしくですー >>202
勢いと内容・・・w
『理科室の実験』で『レモン』を絞って作った『媚薬』、『マインドコントロール』された後輩、『百人組み手』よりも疲れた・・・
面白かったけどコメントしづらいw、一応、普通にお題を足し合わせれば出てくる話・・・のはず?w
>>211
感想ありがとうございます
きっと訳の分からないやつらですw >>222
感想、有り難うございます
最初に書いたのは、もっとノクターン寄りなお話でしたのでw >>206
感想ありがとうございます!
今回はまた傍若無人な小6女子の仕業か、と思いきや本人がただ暴走しただけでしたw
またトラブルを起こした時、ちゃんと止められるのか正直不安でございます(笑)
楽しんでいただけてすっごく嬉しいです! >>219
使用するお題→『難民』『女言葉』『金物屋』『変形』
【金物屋の美女】(1/3)
さすらいの女ガンマン・シンディは今日も愛馬のサンセットに跨り、広大な荒野の中を颯爽と駆け抜けていた。
途中、川辺を見つけ、そこで休憩することにする。土埃や泥で汚れたサンセットの体を綺麗に洗った後、シンディは草の上に寝そべる。
すると、ふとブーツの拍車を目にやる。その銀色の拍車は、旅に出始めてから長いこと使い込んでいたため所々錆や傷が目立ち、歪に変形していた。
「そろそろ新しいのに変えた方がいいわね。次の町に金物屋はあるかしら?」
とりあえず少し居眠りして体を休ませると、再びサンセットに跨って走り出す。
2時間ほど走っていると、ようやく町に辿り着いた。しかし、その町には人らしい人がおらず、ゴーストタウンと化しているようだ。
「なんか気味が悪いわね。本当に幽霊でも出そう」
しばらく探索していると、金物屋らしき店を見つける。
ラッキー!とシンディは思いつつも、一応扉をノックして確認する。しかし返事は来ない。
扉を開けて、こっそりと金物屋の中に入ってみると、たくさんの金具や器具がビッシリと揃えられていた。
「やけに品揃いの良い店ね」
新品の拍車は無いかと探していると、突然女の声が聞こえてきた。
「誰かいるのかしら?」
その声にビクッとしてシンディは一瞬立ち止まる。するとカウンターの奥から、一人の黒い長髪の美女が姿を現した。
「ゆ、幽霊!?」
「失礼ね、ちゃんと生きてるわよ」
「か、勝手に入って悪かったわ。ノックしても返事が無かったらつい・・・」
「別に気にしなくていいわ。私はこの金物屋の支配人をやってるエリィよ」
「私はシンディ、さすらいの旅を続けるガンマンよ。どうぞよろしく」
エリィと名乗るその女は、8年ほど前にこの町に来て金物屋の営業をスタートしたのだ。
その時は人が多くて賑やかだったのだが、次第に他の町との交流が少なくなると同時に去る者も多くなって廃れていった。
今、この町に住んでいるのは彼女だけなのだ。
「今、まともにあるのはこの店だけね。でも久々に客が来てくれて嬉しいわ、何か欲しい物があったらどれも安くするわ。大サービスよ」
「新しい拍車が欲しいの。長いこと酷使させちゃって、もうボロボロなの」
「それなら良いのがあるわ」
そう言ってエリィが持ってきてくれたのは、金色に美しく光る拍車だった。
「これは天然の黄金を加工して作られた、世界にたった一つしかない特別な純金製の拍車よ」
「こんなに美しい拍車、今までずっと見たことない・・・」
「非常に丈夫で、ちょっとやそっとでは絶対に折れたり傷ついたりしないわ」
「その拍車欲しい!いくらするの?」
「本当は3000ドルはするんだけど、1000ドルにまけるわ」
「よし買った!」 【金物屋の美女】(2/3)
シンディはその黄金の拍車を早速購入し、ブーツの踵に装着する。しっかりと丁寧に加工された純金製で軽く、足にあまり負担がかかることがなかった。
「これすっごくいい!ありがとうエリィ!」
エリィに感謝し、1000ドルを払って店から出たその時、雷がゴロゴロと鳴って雨がザーザーと降り出してきた。
「これじゃあ今夜は嵐ね。今日はここで泊まっていくといいわ」
シンディは今夜はこの金物屋で一夜を明かすことにした。エリィの作ってくれた美味しい料理を楽しんだ後、
今は使われなくなった寝室のベッドを使わせてくれることになり、そこで寝ることになった。
ベッドに寝転んだその時、床に一枚の紙が落ちているのに気付き、拾い上げて見てみると、それは手配書で、エメット・コッパーという名前の男の写真があった。
そのエメットという男はとても中性的な容姿をしており、女と見間違えるほど美しかった。
「なんかこの男、エリィと結構似てる。もしかして・・・」
翌朝、シンディは店を出る前に思いきってエリィに話しかけてみた。
「あ、あのエリィ、昨日の夜にこんな手配書を見つけたんだけど」
「そ、それは!!」
「何か心当たりはある?」
エリィは全てを話すことに決めた。
「その手配書にあるエメットって男は私のことなの。エリィというのは偽名なの」
エメットはまさにエリィ本人だった。
エメットはアメリカの遥か南部に位置する、ある国で家族と一緒に平和に暮らしていたのだが、
突如現れた数百人にも及ぶ無法者集団の手によって無残に国を滅ぼされてしまったのだ。
家族どころか住人は全員虐殺されてしまい、命からがら逃げたエメットが唯一の生き残りとなったのだ。
難民となったエメットは髪を伸ばし、女言葉を使ったりして女を装い、名前も変えて追っ手に狙われないように逃げてきたのだ。
そしてこの町に辿り着き、金物屋としてなるべく目立たないように生きてきた、というわけだった。
「・・・ということなんだ。お願いだからこれは誰にも言わないで!」
「心配しないでエリィ、いやエメット。絶対に誰にも言わない。そもそも、あなたは何も悪いことをしていないのよ」
突然、一人の大男が扉をバンッ!と乱暴に蹴り開けて中に押しかけてきた。
「おぅエメットじゃねえか!やっと見つけたぞ!」
「ち、違う!私はエメットじゃない!エリィよ!」
「うるせえ!バレバレなんだよ!」
男は乱暴にエメットの胸ぐらを掴んで持ち上げる。 【金物屋の美女】(3/3)
「ちょっと!彼に手を出さないで!」
「ん?てめえはシンディじゃねえか!よくも俺の仲間や傘下を潰してくれやがって!」
その男の名はジャーヴィス。かつて一大勢力を築いていた無法者集団の一角を担っていた「ロッテンクロウズ」のボスだったが
しかしシンディによって壊滅してしまい、今は賞金首として狙われる日々を送っているというわけだ。
「この際だからエメットも一緒にてめえも地獄に送ってやるぜ!」
ジャーヴィスはどこからともなく導火線に火のついたダイナマイトを取り出し、店の中に放り投げた。
ドカン!と凄まじい爆発音と共に、エメットの金物屋は跡形もなく吹き飛んでしまった。
「よくもこんなことを!」
怒り狂うシンディが銃を取り出した瞬間、ジャーヴィスはナイフを取り出してエメットの心臓を勢いよく刺した。
グハッ!とエメットは吐血し、そのまま倒れてしまった。
「今度はてめえの番だ!シンディ!」
シンディは突進してくるジャーヴィスに向かい発砲しようとしたが、弾切れを起こしており、撃つことができない。
「しまった!弾の補充をすっかり忘れてた!」
「銃のないガンマンなんて、ガンマンと呼んでもいいのか?フハハハハ!!」
すると昨日、エメットから買った黄金の拍車の存在に気付く。
「これがあった!」
「死ねえ!シンディ!」
シンディはジャンプしてジャーヴィスの攻撃を回避すると、そのまま踵落としするかのように彼の脳天に勢いよく拍車を当てる。
「ぐ、ぐわあ!!」
ジャーヴィスが頭から血を流して倒れた瞬間、持っていたナイフを奪って彼の首をグサッと突き刺す。
「エメットが味わった痛み、あんたも味わいなさい!このクズ!」
そのままジャーヴィスは大量出血して息絶えてしまった。彼が死んだことを確認すると、シンディは急いでエメットの方に駆け寄る。
「エメット、しっかりして!」
「シ、シンディ、そ、その拍車大事にしてね。あ、あなたを、す、救う強い味方となるわ・・・」
エメットはそのまま力尽きて死んでしまった。シンディは吹き飛んでしまった金物店の近くに、エメットの墓を立てた。
「エメット、あなたの分まで私は強く生きる。この拍車も大切にするわ」
シンディはそう強く誓うとサンセットに跨り、再び旅に出るのだった。 >>225
理不尽さを己が力で捻じ伏せるのが荒野の掟
強きを挫き、弱きを踏み付ける西部では、ただ儘に生きる事も難しいのですね >>225
相変わらず絶好調ですねぇ
『変形』した拍車、『金物屋』の美女、『難民』で『女言葉』
このシリーズらしい無常の世界、、って言うかほんと行く先々で潰した悪党と出会いますよねw >>228
>>229
感想ありがとうございます!
そうですね、悲しいですがこの弱肉強食といえる西部で力無き者は容赦なく潰される一方です
確かにシンディに壊滅されたにも関わらず運良く?生き残っているボスがやたらと多いですねw
今までのを改めて読み返してみると、あまりにも無法者が多すぎて「あ、こんな奴いたな」状態です(笑)
楽しんでいただけてすっごく嬉しいです! 静か過ぎてつらいw
リレー企画も駄目っぽいしー
いつまで続く閑散期、、って感じですね>< 雑談は他のスレでも事足りるからなぁ…
じゃあいくつか質問
@ここは短編スレだけどみんなは普段長編書いてるの?
A普段書いてるのはどんな話?
B創作のインスピレーションは何処から得ている?
C思いついたアイデアをどういう手順で作品に反映している?
Dコロナ禍で創作活動にどんな影響があった?
自宅時間が増え筆が乗ったり、取り扱う題材に変化があったり、同人イベントが中止になったりと変化はあった? >>233
自分で答えるなら
@No 短編オンリー
A普段はシリアスな話を書いてる。ジャンルは難しいが現代劇とSFが多いかな?SFはハードなものじゃ無く星新一的な少し皮肉の効いたものを目指してる。
B現実のニュースや映画、ゲームなど映像媒体の影響が強い気がする。逆に小説や音楽などにはあまり触れない。書く題材にもよるが実体験もほぼない。
C日々の生活の中で突然、設定やシーンなど断片的なアイデアが沸いてくるのですぐにそれをメモ。ニュースや映画を見ていて面白いと思ったこともメモ。そうしているうちに自然と自分の中で断片的なアイデアが結びついてくるのでそこから話を膨らませている。
D自宅待機とは無縁の立場でむしろ以前より忙しくなってしまった。ここ3ヶ月ほどはろくに筆を取っていない。 >>233
自分ですと……
@長編も書いてます。と言うか、書き溜めてはいます
Aコメディー寄りのストーリー物を……基本的にはハイファンタジーです
Bおそらく、今まで読んだ小説やマンガなどから。ただし、自分は思考が突拍子も無いと言われますから、色々混ざっているのかと思います
Cお題を頭の中で転がしていると、それを使ったシーン等が浮かんでくるので、それに肉付けする感じで広げて行きます
D特に休みが増えたりした訳では無いので、あまり変化は有りません
こんな感じですね >>233
レイチェルシリーズの者です。私ですと…
@長編はかなり書いてますね
A基本的にドタバタ日常コメディ中心、時々シリアスなアクションといった感じです。
頑張るお姉さんとか姉弟ものを書くのがとにかく大好きです
Bやっぱり好きな映画やゲーム等からですね
C上手く言えないのですが、そのキャラの性格をなるべく崩壊させないように
思いついたネタを迷わずどんどん盛り込んでストーリーを展開させています。
D普段から特に休みが多いというわけではないのですが、面白いストーリーを思いついたら
とにかく空いた時間を利用してサクサクッと勢いが落ちてしまわないうちに書くのを心掛けています
簡単な説明でしたが以上の通りです >>233
雑談助かるー
@書いてない、、書けてないw
A書けてないw、自分で思ったのは、不条理やナンセンスが好きみたいです
Bお題や他作品、なろうテンプレ、ゲーム、アニメ・・・実体験は僅かに、映画や漫画はあまり
C大枠はパ、、パスティーシュが多いので・・・細部もBの組み合わせか、その派生が多いはず
Dあまり変化なしです >>191
前回お題作品です
使用お題→『媚薬』『理科室の実験』『レモン』
【愛にあふれた令嬢ハチベーヌ・ヤギュー】(1/2)
遠く学園ハーレムラブコメのナーロッパ世界に一人のヒロインがいた。
「これで……このレモンの香りで味をごまかすでございますよ……」
ここは学園の理科室。制服の上に白衣をまとった少女が、何やら怪しげな液体を調合する真っ最中である。
「……ふぅ。疲れたでございます。ですが休んではいられません」
彼女の他に人影はない。これは秘密の実験、内緒の薬である。
「これをタローテ様に飲ませて、そのご寵愛(ちょうあい)を独占するでございますよ……!」
*
ハチベーヌ・ヤギューは子爵令嬢である。彼女の家は子爵家の親戚で、彼女自身は庶民であった。
子爵家には跡継ぎがなかった。このままでは爵位も財産も取り上げられてしまう。それで養子を取ることとなった。そうして選ばれたのがハチベーヌである。
跡継ぎの地位に納まったハチベーヌは、色々あって、良家の子女が通う学園に潜り込んだ。そこで彼女は運命の出会いを果たす。その相手たる人物こそ、彼女の同級生、タローテ王子であった。
「ふっ、王位など下らん。俺は冒険者になるぞ! ハチベーヌ!!」
尊大な物言いをする男。浮世離れしている。頭がおかしい。それが周囲の彼に対する評価だった。
その評価自体は間違っていない。ハチベーヌ自身も、出会った当初は、身分が高いだけの不審者だと思っていた。
「ハチベーヌよ、今日は遺跡の探索だ! うおおおお! 冒険王に……いや、王ではない。冒険魔王……冒険勇者……神…………そう、冒険ゴッドに、俺はなる!!」
彼が何を言っているのか、ハチベーヌには分からなかった。だが、引っ張られて一緒に行動する内に、ハチベーヌの考えは変わっていった。
「ここが遺跡の最奥部だ……。ハチベーヌよ、頭上に気を付け(頭をぶつける音)いってーっ!」
この男は、将来本当に冒険ゴ……有名な冒険家になるのではないか。そして一杯お金を稼ぐのでは。もし違っても王子なので、生活に困ることはない。
中身が庶民のハチベーヌは、子爵家の財産のことなどすっかり忘れている。
「……恐ろしいわなであった…………っ! あれは……なんだ?」
ハチベーヌの将来が定まった。
*
王子の評判は相変わらずである。相変わらずであるはずなのだが、彼の周囲には、なぜだか女性が集まるようになった。
「今なんて?」
王子とハチベーヌが遺跡で発見したのは、古代文明のホムンクルスだった。
彼女、つまり女性型であるホムンクルスは、今やタローテ王子と同居している。こうなるとハチベーヌは気が気でない。
頭が少し縦長であるものの、人間では有り得ない美貌である。十人並みの容姿を自覚しているハチベーヌには到底太刀打ちできない相手だ。
「今なんて?」
少し耳が遠いようだが、そんなことは問題ではない。ハチベーヌに取っての脅威、第一号である。 【愛にあふれた令嬢ハチベーヌ・ヤギュー】(2/2)
「タローテ殿下、モリーと勝負するモリですわ!」
脅威、その第二号は、悪役顔の公爵令嬢である。
「今なんて?」
「あなたではありませんモリ! モリーは殿下とお話ししているモリですわ!」
学業において、王子もハチベーヌも平凡な成績であった。一方、全教科で常に学年トップという、奇特な人種も存在する。それがこの、語尾のなまった変な女である。
「モリーは、常に一番たれ、下々の鑑(かがみ)たれと、そう教えられて育ってきましたモリ……。そんなモリーが、殿下みたいな……失礼……失礼ですが殿下みたいな人間に負けるなど、あってはならないモリですわ!」
話を聞くに、どうも二人は幼なじみらしい。
自由過ぎる王子と、まったく自由のない公爵令嬢。
血筋を嫌う男と、逆にそれを誇る女。
凡人と秀才。
二人は水と油だった。そして最近まで、二人の関係は、王子が下で彼女が上だった。
「モリーよ、何度言えば分かるのだ。あれはまぐれだ。俺が適当に書いたのがたまたま正解で、お前は風邪を引いていたではないか」
たった一度、テストで負けた。それが彼女の自尊心を傷付けた。王子も彼女自身も、そう思っている。
「モリモリモリモリモリ! 言い訳無用モリですわ! 今だって女をはべらせて、モリーを馬鹿にしてるモリですわ!!」
この場で一番の長身はホムンクルスである。次が王子、その次が公爵令嬢、最後がハチベーヌだ。
多分。昔は彼女の方が見下ろしていた。それが逆転されつつある。
「モリーは……モリーは、殿下には負けないモリですわ!」
*
ホムンクルスも公爵令嬢も、恐ろしい相手なのは間違いない。だが、本当の脅威は他にあった。
「ああ……ハクアたん……」
王子の視線の先には、透明感のある美少女。
「ハクアたんとお話がしたい……俺だけのハクアたんになってもらいたい……」
学園一の美少女が、友人たち(全員それなりに美少女である)と談笑している。
「今なんて?」
「あんな素性の知れない女の何がいいのかモリですわ!」
外国の王族か、成り金の子弟か、それとも誰ぞの隠し子か。その身分は伏せられていた。
「あっ、ハクアたんと目が合った! 手を振ってくれた! ハクアたん……!」
ハチベーヌの不安は募るばかりである。
*
この三人の他にも、潜在的な脅威は存在している。例えば保健室の美人な先生。タローテ王子に対して妙に優しい。
「いつでも入信お待ちしておりますー」
優しい理由はよく分からないが……。ともかく、王子はモテモテであった。
*
そしてここは理科室。ハチベーヌ一人だけである。
「…………これで完成……媚薬(びやく)の完成でございますよ……!」
図書室の片隅に古びた本があった。それに載っていたレシピ通り……には、材料がなくて無理だったので、ハチベーヌなりにアレンジした。
「完成はしましたが、いきなりタローテ様に使って、何かあってはまずいでございます。どういたしましょうか……」
ハチベーヌは頭を悩ませるが、何一ついい考えが思い浮かばない。
やがてハチベーヌは、疲れていたのか、眠ってしまった。
学園の生徒たちの声が遠く響く。
「ハチベーヌ様……? あどけない寝顔モリですわ。……モリモリ? これはなんでしょうかモリ。少しくらい味見してもばれないモリですわよね?」
「…………うしし……タローテ様……はっ! モリー様!? 駄目です、それを飲んでは! ……モリー様? モリー様!?」 できれば今回お題でも書きたかったけど、さすがに無理でした・・・>< >>219
お題:『難民』『女言葉』『金物屋』『変形』『転校生』
【第8王子の錬金術】(1/4)
「ノイン殿下につきましては、ご機嫌麗しく、御尊顔を拝謁する事、誠に光栄に存じます」
「堅苦しい挨拶は良いよ、こんな早朝からここに来たって事は、お願いした物が出来たって事?」
「はい」
僕の目の前に居る男は、慇懃な態度で首を垂れる。王宮内の僕の私室にまでは入れる相手なんて殆ど決まっているけど、彼はその内の1人。金物屋のベルサ・オールゴーユ。
金属関係なら何でも取り扱っている商人で、信用の置ける相手の1人だ。
今日、彼が僕の所に来たのは、前々から僕が頼んでいた“とある物”が完成したからだ。
チラリと視線を送り、彼の部下が“ソレ”を僕の目の前に持ってくる。
僕は思わずニヤリと笑みを浮かべ、それを手に取ると、早速試してみようとソレを前にかざす。
しかしそこに、鈴の音の様な凛とした声が割って入った。メイド長のエリィだ。
「……ご満悦の所申し訳ありません、ノイン殿下。そろそろ登校のお時間です」
「…………もう少しだけ、待てないかな?」
「ダメです」
「………………分かった」
僕は大きく溜息を吐くと、ベルサを下がらせ、待機していた侍女達に支度をさせる。これから早速“試してみよう”と思ったのだが、どうやら、学園からかえるまでお預けの様だ。
******
僕等の暮らしているアスタール王国は、自然に恵まれた小国の一つで、連なる山々から採れる鉱物資源や岩塩の輸出で成り立っている。
そんなお国柄のせいか、鍛冶に従事する者や、加工された商品を売る金物屋なんかの数も多い。
特に、鉱物資源として『魔鉱石』や『魔晶石』と言った魔法鉱物の産出も多い為、それらを使った商品の研究開発も盛んだ。
僕は、そんなアスタール王国の第8王子、ノイン=スフェルティア・フォン・アスタールとして生まれて来た。王族ではあれど王位争いからは程遠い。
そんな身分であり、例えコネを利用できたとしても、精々王宮騎士の部隊長か宮廷魔導士地位に捻じ込めるかと言った程度の、まぁ“利用価値”の薄い王子な訳だ。
とは言え、王子は王子。それなりの生活はさせて貰ってるし、王様……僕の父上にも、程々に目を掛けて貰ってる。
とは言え、王位継承権の低い僕は、兄さん達の様に家庭教師を付けて貰える訳でも無く、こうして普通に王立学園に通わせられ、まぁ、適当な上級貴族の所に婿入りできるだけのコネを作らされてる訳だ。
「はぁい! 静かにしなさい、ホームルームを開始するわよ!」
クラス担任のカーミュラ・ゼウン先生がパンパンと手を叩く。先生は男性では有るけど、貴族女子も所属する王立学園に赴任するにあたり、男性機能を失わされた人で、そのせいか中性的な美貌を備えている。
その為、クラス女子は元より、クラス男子にも人気のある先生なんだけど、これって、逆効果だったんじゃないかな? って時折思う。
「はい! 今日は転校生を紹介するわよ!」
カーミュラ先生がそう言うと、褐色の肌の、束ねた銀髪を揺らした少女が教室に入って来た。 【第8王子の錬金術】(2/4)
「エベルーツ王国、第3王女、シュリー・カウペック・マギラ・エベルーツです。短い間ですが、よろしくお願いします」
彼女の自己紹介に、教室内が騒めく。
当たり前だ。エベルーツ王国は、つい先日、ガルッツェ帝国に落とされたばかりの同盟国なのだから。
ガルッツェ帝国はこの辺り一帯で最も力の強い国で、その軍事力も頭一つ飛び抜けている。
アスタール王国とエベルーツ王国は同盟国とは言え、海を挟んでいる為、派兵こそ出来なかったけど、その分、食糧支援等はしていた。真逆であるアスタールから、国境際での軍事演習などで圧力をかけたりとかね。
だけど、そんな支援の甲斐もなく、開戦したガルッツェ帝国は圧倒的軍事力を見せつけ、エベルーツ王国を攻め、そして王都マギラは陥落したと聞いている。事実上の敗北だ。
ガルッツェ帝国は苛烈な軍事政策をしていて、敗戦国なんて言ったら、男は労働奴隷として最前線へ送られ、女子供も戦争奴隷として使い捨ての労働力とされる。
その為、今はエベルーツから、すごい勢いで難民が国外へ脱出している。
確か、家の国も貿易船を利用しての難民受け入れが始まっていると言っていたはずだ。
だけど、彼女はこの場で自分の事を『エベルーツ王国第3王女』だと宣言して見せた。
これは、まだ王家は存在していると、自分達はまだ負けた訳では無いと宣言しているに等しい。
周りが騒めくのも無理はない。
彼女は、これからも戦争を続けると言っている様な物なんだから。
「えっと、そのじゃぁ、ノイン殿下、このクラスでのカウベック様の面倒を見て差しあげて下さる?」
この時の僕の顔は形状し難い物になっていただろう。
確か、事前に話しを聞いていた限りでは、彼女は亡命者である事を受け入れており、待遇としては公爵家令嬢相当となっていたはずだからだ。
その為、彼女のエスコート役はミュンハウゼン公爵令嬢のリリエルが行う事に成っていたのだが……
リリエルも困惑した様子で僕の方をチラチラと見る。
しかし、彼女が王女であると宣言をしている限り、王族のエスコートになる為、王族か受け持たなければならない。
つまり、シュリーは、王族である僕がこのクラスに居る事を分かっていて、名乗ったと言う事だ。
おそらく、この国の王族と積極的に繋ぎを作る為に。そして、この国を戦火に巻き込む為に。
……全く、厄介な事をしてくれる。
******
「……何でついて来るのですか?」
「あら、貴方が私の世話役なんでしょう? なら、色々と案内して下さらない?」
放課後だと言うのに、僕はシュリー王女に付きまとわれていた。僕としては早くアレを試してみたいと言うのに。
彼女の考えは分かって居る。なるべくこの国の王族と懇ろな所を見せ、ガルッツェ帝国に攻め込む理由を作りたいんだろう。
だが、彼女のこれは、分の悪すぎる賭けだ。確かに戦争に於いて王族を根絶やしにする事は後々の禍根を打ち消す為に必要な事であり、シュリーがエベルーツ王族を名乗る限り、ガルッツェ帝国は我が国に彼女の引き渡しを要求して来るだろう。
確かに、この状況でシュリーを引き渡す事は、国家的に弱気な姿勢と取られかねない。つまりは実質的な属国宣言だ。
だが、あまりに彼女が強引に事を進め様とすれば、必ずこの国の貴族連中からの反発を生み、人身御供の様に引き渡されかねない。
実際、現状でもかなり不味い事をしている。
「……世話役と言っても、学園内の話です。第一、自分と貴女はそれ程親しくはないはずですが? カウベック嬢?」
「あら、私は貴方と仲良くしたいですわよ? ええ、とっても」
その物言いに僕は眉を顰めた。
「貴女は!!」
「何かしら?」 【第8王子の錬金術】(3/4)
そう言ったシュリーの瞳の奥に渦巻く、濁った昏い劫火を見た僕は、思わず息を呑んだ。
(ダメだ。この人は自分の復讐が成るのなら、ありとあらゆる物を犠牲にしても良いと思ってる)
そう、それこそ、他の国の国民の命でさえもだ。
「貴女は危険だ」
「そうかしら? 危険なのは、あの帝国の野心の方じゃなくて?」
それも確かだろう。おそらくガルッツェ帝国は侵略戦争を止める事は無く、そして今、最も次の候補として高いのは、我がアスタール王国だ。
だからと言って……
「世間知らずの王女様の破滅願望に付き合わされたくはないのですよ」
「誰だ!!」
僕の誰何に、黒ずくめの男が出てくる。
「第8王子につきましては、ご機嫌麗しく」
「……影か」
「御意」
アスタール王国諜報部隊。通称『影』。
アスタールにおける情報収集や操作、そして、後ろ暗い任務をこなす者達。
成程、シュリー王女の言動を危険と感じ、『修正』する為に来た……と言う所か。
「殿下、何も見なかった事にして、この後の事は我々にお任せを」
「う、うそ」
シュリーの顔が青ざめる。実質、この国からも見放されたのと同義な訳だから無理も無い。
「待ってくれ! 彼女はまだ心の整理がついていないだけだ!」
「だとしても、それが許される立場ではありません」
「分かって居る、だが、ここは僕に任せて貰えないか?」
復讐に逸る彼女の気持ちも分かる。理不尽に戦争を吹っ掛けられ、家族を失ったのだから。
それに、まだ彼女は14才の少女でしかない。第3王女だと言うなら、なおの事、政治に立ち入らせてはもらえなかった筈だ。
なら、彼女は何も知らぬまま、突然すべてを失ったに等しい。心の整理を付ける為の時間が足りなすぎるんだ。
「……立場が、許さないと言ったはずです」
「今朝の発現かい?」
影が首肯する。彼女にしてみれば決意表明だったのだろう。しかし、この国の反戦争派にとってはガルッツェ帝国に対する宣戦布告にも等しく聞こえたはずだ。危険視するのも分かる。
それでも、僕はシュリーには時間が必要なのだと思う。
「だとしても、だ、今は彼女を渡せない」
「……殿下を傷つけたくは無かったのですが……」
そう言うと、影の気配が分散する。いや、潜ませていた他の影が気配を隠すのを止めたのだろう。
この人数差と実力差なら、すぐに僕を組み伏せると踏んだんだ。
だから僕は、腰に佩いていたソレを目の前にかざす。
「何、を?」
「無駄な足搔きさ……『開け!』」
僕がかざした豪奢な造りの太刀が、展開し、変形する。ソレは僕の身を包み、蒼い鎧へと姿を変えた。 【第8王子の錬金術】(4/4)
「な!」
刹那の隙。僕は身に纏った魔導鎧の出力を最大にして、一人の影に体当たりをした。
続けざまにその隣にいた影に蹴りを入れようとするも、それはすぐに躱される。
「流石と言っておきましょうノイン殿下。やはり、爪を隠しておられたのですね」
「……良いから、掛かって来なよ」
「御意」
例え魔力によって身体能力を上げられる魔導鎧を着こんでいたとしても、基礎能力が違い過ぎた。
最初こそ攻撃を捌いていたけど、次第にそれもままならなくなってくる。
容赦ない攻撃を全身に叩き込まれ、遂に僕は膝をついた。
「天才……と言う言葉は殿下の為に有る様な物ですね」
僕を見下ろす影が、そんな賛辞を送って来る。彼の声に蔑みの色は無い、たぶん、本当にそう思っているんだろう。
「ふふ」
「殿下?」
「良いのかい? そんな余裕を見せてても」
「何ですと? ……!!」
どうやら、彼等にも周囲のざわめきが聞こえて来た様だ。ここは学園の人気の無い場所とは言え、決して人が通らない場所と言う訳じゃない。
時間さえ稼げれば、人通りはあると踏んだ、僕の予想通りだ。
「成程、やられましたな。ここは、殿下の心意気に免じ、見逃しましょう」
「うん、そうしてくれると助かる」
僕がそう言うと、影の1人が前に出る。
「……良いのですか?」
「良い、それとも殿下の面目を潰すつもりか?」
「……いえ」
シュリーをかばう様に前へ出た僕を見て、その影も大人しく引いてくれる様だ。
「ここは引きます、ですが……」
「分かってる」
僕がそう言うと、影達は引いてくれた。全く、高い貸だ。
魔導鎧の鎧化を解くと、変形し、元の太刀形態に戻る。
いくら、鎧を付けていたとしても、良い様に攻撃を受け過ぎた。僕は思わず膝をついてしまった。
「……あ、貴方、なぜ」
「巻き込んだ君が言うのかい? 少し冷静に成れたようだから言っておく、君がやろうとしたのは、これだ。理解してくれ」
「うっ」
「よく考えるんだ、本当に、胸を張れるやり方なのかどうかをさ」
「……」
シュリーが黙り込む。彼女だって、今のやり方が正しいなんて思っていなかったんだろう。だけど、それ以外のやり方を思い付かなかった。そう言う事だ。
「もし、君が納得が行く、胸を張れるやり方を思い付いたら、僕に言って欲しい」
「え?」
「それが、共感できる方法だったなら、僕も手を貸そう」
その答えを聞いて、シュリーは涙を流した。
先の事は分からない。だけど、この時、僕は長く続く戦いへの道へと一歩踏み出したんだと、確かに思った。 お題→『難民』『女言葉』『金物屋』『変形』『転校生』締切
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>>225【金物屋の美女】
>>241【第8王子の錬金術】 では通常お題5つですー
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