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お題:『難民』『女言葉』『金物屋』『変形』『転校生』

【第8王子の錬金術】(1/4)


「ノイン殿下につきましては、ご機嫌麗しく、御尊顔を拝謁する事、誠に光栄に存じます」
「堅苦しい挨拶は良いよ、こんな早朝からここに来たって事は、お願いした物が出来たって事?」
「はい」

 僕の目の前に居る男は、慇懃な態度で首を垂れる。王宮内の僕の私室にまでは入れる相手なんて殆ど決まっているけど、彼はその内の1人。金物屋のベルサ・オールゴーユ。
 金属関係なら何でも取り扱っている商人で、信用の置ける相手の1人だ。
 今日、彼が僕の所に来たのは、前々から僕が頼んでいた“とある物”が完成したからだ。
 
 チラリと視線を送り、彼の部下が“ソレ”を僕の目の前に持ってくる。
 僕は思わずニヤリと笑みを浮かべ、それを手に取ると、早速試してみようとソレを前にかざす。
 しかしそこに、鈴の音の様な凛とした声が割って入った。メイド長のエリィだ。

「……ご満悦の所申し訳ありません、ノイン殿下。そろそろ登校のお時間です」
「…………もう少しだけ、待てないかな?」
「ダメです」
「………………分かった」

 僕は大きく溜息を吐くと、ベルサを下がらせ、待機していた侍女達に支度をさせる。これから早速“試してみよう”と思ったのだが、どうやら、学園からかえるまでお預けの様だ。

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 僕等の暮らしているアスタール王国は、自然に恵まれた小国の一つで、連なる山々から採れる鉱物資源や岩塩の輸出で成り立っている。
 そんなお国柄のせいか、鍛冶に従事する者や、加工された商品を売る金物屋なんかの数も多い。
 特に、鉱物資源として『魔鉱石』や『魔晶石』と言った魔法鉱物の産出も多い為、それらを使った商品の研究開発も盛んだ。

 僕は、そんなアスタール王国の第8王子、ノイン=スフェルティア・フォン・アスタールとして生まれて来た。王族ではあれど王位争いからは程遠い。
 そんな身分であり、例えコネを利用できたとしても、精々王宮騎士の部隊長か宮廷魔導士地位に捻じ込めるかと言った程度の、まぁ“利用価値”の薄い王子な訳だ。
 とは言え、王子は王子。それなりの生活はさせて貰ってるし、王様……僕の父上にも、程々に目を掛けて貰ってる。

 とは言え、王位継承権の低い僕は、兄さん達の様に家庭教師を付けて貰える訳でも無く、こうして普通に王立学園に通わせられ、まぁ、適当な上級貴族の所に婿入りできるだけのコネを作らされてる訳だ。

「はぁい! 静かにしなさい、ホームルームを開始するわよ!」

 クラス担任のカーミュラ・ゼウン先生がパンパンと手を叩く。先生は男性では有るけど、貴族女子も所属する王立学園に赴任するにあたり、男性機能を失わされた人で、そのせいか中性的な美貌を備えている。
 その為、クラス女子は元より、クラス男子にも人気のある先生なんだけど、これって、逆効果だったんじゃないかな? って時折思う。

「はい! 今日は転校生を紹介するわよ!」

 カーミュラ先生がそう言うと、褐色の肌の、束ねた銀髪を揺らした少女が教室に入って来た。