>>2、一発目から供養枠で申し訳ないです

使用お題→『トライアル』『レビュー』『クリスタル』『マシマシ』『午前零時』

【コートの向こう側に】(1/4)

 最後のカードは『バーサーク・ブレイズ・ライオン』だった。めくられると同時に立ち上る霊気。
「これでダメージマシマシだぜ!」
 百獣の王。その姿を借りた召喚獣が、その場に出現する。一度だけ大きく咆哮(ほうこう)すると、それは瞬く間に形を失い、光を放つ粒子となって、対戦相手のアバターに吸い込まれる。
「今度こそ、俺が勝つ!」
 カードの力を取り込んだアバター。そのたてがみを震わせ、闘志もあらわに拳を構えると、全身から炎が吹き上がった。
「さあ、どうする。残りのカードを使うよな! なあ!」
 もちろんそのつもりだけど、もう少しだけ引っ張ってもいいだろう。
「使わないなら遠慮なく行くぜ! オラァ!」
 その拳は、速くて、重い。だけど。
「オラ! オラ! うらあ! うぉああああ!! なぜ! 俺の! 届かない! パンチが!」
 まだまだ、だね。私のアバターは攻撃をすべて回避する。一発でも食らえば、たちまちノックアウト。かすっただけでも炎に焼かれてしまうだろう。
「ああああ!!」
 ラッシュに続けてキックも飛んでくる。不意打ちのつもりだろうけど、全部見えてるよ。落ち着いてよける。
 相手の動きが止まる。こちらは相手から少し距離を取る。
「じゃあ、そろそろ、今度は私から行くよー!」
 伏せられたカードは残り二枚。私はその両方を同時にめくる。
「ララ、レレ、出番だよっ!」
『あいよ、ポン!』
『よしきた、コン!』
「またそいつらかよ!」
 コートの反対側から文句が飛んでくるけど。
「いいでしょー、これが強いんだから! 対策してないそっちが悪いのよー」
 かわいくデフォルメされた、タヌキとキツネの召喚獣。『スウィフト・ファントム・ラクーンドッグ』と『ソニック・ブレード・フォックス』だ。二匹は一瞬で分解され、その光の粒は一つに混ざって、私のアバターへと流れ込む。
「さあー、覚悟しな!」
「くっそー! 俺は負けねえ!」
 相手の攻撃が再開される。いよいよ勢いを増した炎と、それをまとって繰り出される神速のパンチは、しかし、今やちっとも怖くない。
 拳が追い付いた、それは残像。私のアバターは駆け回る。火炎を吹き消す音速の剣(つるぎ)、カードで強化された短剣を相手のリーチぎりぎり範囲外からたたき込めば、面白いようにダメージが入る。
「これで……終わり!!」
 カードのアクティブスキルを発動する。残像は分身となり、迷子の猛獣を閉じ込める。切っ先を一斉に振りかざすと、それを無慈悲に突き立てた。

『対戦終了、りこぢゃよの勝利です』

「あああー!! また負けた!」

『お疲れ様でした』

 *

「ちくしょー、なんで勝てねえんだ……」
 そのままコートに座り込んで、対戦相手、四十万(しじま)レオンが愚痴をこぼす。
「だからさー、パワータイプにこだわり過ぎなんだって。いくら強い攻撃だって、当たらなきゃ意味ないんだから」
「うるせー。俺が腕力を捨てたら、それは俺じゃねえよ」
 腕力……つまりは筋肉馬鹿だ。そのこだわりも、嫌いじゃないけどね。
「じゃあ、もっとうまくなろ。それで次こそは、あたしを倒してね」
「おいレオン、莉子(りこ)、終わったんなら早く場所空けろー。次だ、次」
「おーう、悪い」
 せっつかれて、のろのろと立ち上がるレオン。そこで私はふと、彼の向こう側、コートの外からの視線を感じる。
 目が合った……と、思う。
 レオンの肩が持ち上がってきて、視界が遮られる。
「お前さ、トライアルには出るよな?」
「……うん。多分ね。そのつもりだけど」
 黒髪ショート。女。捕食者の目。見掛けない顔だけど……どこかで、見たような。
「俺、応援してるから。お前ならきっとプロになれるって」
「だといいけどね。ありがと」