>>388
使用するお題→『水飴』『小川』『空色』『とげ』『エルフ』
【エルフ水飴】

「さあさあ、エルフ水飴、エルフで作った水飴だよ!」
 大きなトゲが一本刺さった濃い緑の沼のほとりで、カッパさんが言いました。
「取れたてのエルフだ! こんな極上物はそうないよ! 一本金貨二十枚、早い者勝ちだ!」

 今日は月に一度あるエルフ水飴の特売日です。
 張り切って呼び込みを始めたカッパさんのお店に、わらわらとお客さんが集まってきました。

「今月のエルフ水飴は素晴らしいねカッパさん」
「おう、最上級の証である翠色だ! いっぱい買ってくれよなオークの旦那!」
「先月も空色で綺麗だったけど、今月もとっても綺麗に仕上がってるわねカッパさん」
「おう、今月は着色料をやめて生のエルフの特徴を活かしたからな! 子どもの分も土産に買ってくれよなラミア夫人!」

 カッパさんのお店は大繁盛です。老若男女、様々な魔物たちがエルフ水飴を買い求めていきます。大層な賑わいにカッパさんも大喜びでした。
 しかし、その喜びも束の間。魔物たちの平穏を乱す者が現れました。

「待て、そこのカッパさん!」

 勇者です。勇者が現れたのです。たった一人で。いつも連れている空色の法衣を着た僧侶はもういません。
 カッパさんは横に広い嘴から鋭い歯を覗かせて笑いました。

「なんだ、勇者か。先月は大変世話になったな、ありがとうよ!」
「黙れ! エルフを解放するまで、何があろうと僕は戦うぞ!」

 聖剣を掲げて、勇者は大きな声でカッパさんを威嚇します。

「そこが保管庫になっていることはわかっているんだ。その大きなトゲを抜きさえすれば、沼の水が捌けて助けられるはずだ!」
「ハッ! できるもんならやってみな! そろそろ決着を付けてやんよ!」

 二人の間に剣呑な雰囲気が流れます。けれど、お客さんたちは騒ぎを気にせず買い物を続けます。
 そうです。カッパさんはとても強いのです。これまでに何度も勇者にお店の邪魔をされそうになっては、返り討ちにしてきた過去があります。
 カッパさんは店番をカッパ子分に任せ、勇者と近くの小川に場所を移しました。いい加減うんざりしていたので、今日はとっても真剣です。

「いくぞ!」

 カッパさんと勇者。二人の声が重なります。爪と剣が打ち合う音、地面を蹴る音、小川のせせらぎを激しい戦闘音がかき消します。
 何度も負けているとはいえ勇者もさすがは勇者、カッパさんに何とか食らいついています。

 しかし、もちろん長くは続きません。

 すぐに剣を弾き飛ばされて、勇者の負けが決まりました。肩で息をする勇者に、カッパさんが言い放ちます。

「オレの勝ちだな、勇者」
「くっ、僕は諦めないぞ!」
「まあまあ。落ち着けよ。お前の頑張りは認めてやるからよ。ほら、一本サービスしてやるから、これでも食ってけ」

 勇者の口に、エルフ水飴が強引に突っ込まれました。
 予想外の出来事に大きく目を開く勇者。しかし途端に、その意志の強そうな黒い瞳がとろんとしてきました。

「美味しい……」
「そうだろそうだろ、オレのエルフ水飴は最高よ!」
「うん……すまなかった。僕が悪かったよ。もう帰るね……」

 ふらふらとした足取りで勇者は小川に飛び込み、そのまま下流へと流れていきました。 
 カッパさんはそれを見送ると、残ったエルフ水飴をバキッと噛み砕いて気合を入れ直し、お店へと戻ります。

 今月もカッパさんのお店は大繁盛でした。