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安価・お題で短編小説を書こう!8
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0001この名無しがすごい!
垢版 |
2020/03/29(日) 23:04:08.60ID:n1b/6BE9
安価お題で短編を書くスレです。

■お題について
現在、毎週日曜日の午後22時に前回のお題を締め切り、新しいお題を安価で決める方式を取っています。現時点での募集お題はスレ主によるレスを確認してください。

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■前スレ
安価・お題で短編小説を書こう!
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安価・お題で短編小説を書こう!2
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安価・お題で短編小説を書こう!3
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安価・お題で短編小説を書こう!4
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安価・お題で短編小説を書こう!5
https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/bookall/1541947897/
安価・お題で短編小説を書こう!6
https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/bookall/1557234006/
安価・お題で短編小説を書こう!7
https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/bookall/1572191206/
0410この名無しがすごい!
垢版 |
2020/06/27(土) 14:03:25.88ID:dDuTx91a
【私の可愛い救世主】(2/3)

「そう、僕は人間じゃなくてエルフなんだ」
「異世界から来たエルフなんてすっごくファンシーで可愛らしいわね」
「えっ怖がらないの?人間じゃないんだよ」
「人間じゃないから何だって言うの?私ね、ファンタジー大好きなの!」
「そ、そう言ってくれると嬉しい。とっても嬉しい!」

ロートムの顔はトマトのように赤くなり、照れているのが目に見えて分かった。

「それよりそのお菓子を捨てる犯人、恐らく魔物の仕業だよ」
「魔物の仕業?どうして分かるの?」
「これを見て」

ロートムは小さなリストを取り出し、サナに見せる。そのリストには人間界で悪事を働き、人間に危害を及ぼす魔物がたくさん載っていた。

「この"モノステロン"って奴に違いないね。平気で不法投棄する迷惑極まりない悪者なんだ」
「魔物だから監視カメラに映らないというのも納得がいくわね」
「モノステロン、こいつを絶対に捕まえて成敗してやる!」

人気が全くなくなった深夜の2時、サナとロートムはモノステロンが現れないか、近くの茂みの中に身を隠して見張っていた。
すると突然どこからともなく地面にガムやバナナの皮、溶けたアイスなどが次々と現れ始めたのと同時に、低く下品そうな声が聞こえてきた。

「グエッヘッヘッヘ、人間が困るのを見るのが一番の楽しみだぜ」
「そこまでだモノステロン!」
「な、何!?貴様は探偵エルフのロートムじゃねえか!」
「私もいるわよ!」
「あっ、俺の捨てた水飴をうっかり踏んだドジ女も一緒じゃねえか!」
「ド、ドジ女ですって!?完膚無きまでに叩きのめしてやろうかしら…!」

モノステロンが地面から姿を現した。全身真っ黒でトゲの生えたヘドロのような禍々しい姿をした魔物だった。

「グエッヘッヘッヘ、この人間界をゴミで埋め尽くしてやる!」
「そうはさせるか!」

口から汚いゴミの数々を吐き出して攻撃してくるモノステロンに、ロートムは魔物撃退用のレーザー銃で光線を当てようとするが
巨体で動きの鈍そうな姿から想像できない素早い攻撃になかなか上手く対処できない。
するとモノステロンが吐き出した廃棄物の一つがロートムに勢いよく直撃し、ロートムは頭から血を流して倒れてしまった。

「グエッヘッヘッヘ、マヌケな奴だぜ」

モノステロンはロートムを掴むと同時に、落ちているレーザー銃を踏み潰して粉々にした。

「さあ、俺の超必殺"グレートダスティブレス"であの世へ葬ってやる!」

大きく開いたモノステロンの口からドス黒い煙が現れてくる。

「ロートムを放しなさいよ、この汚いゴミ!」

サナはロートムを救おうと、近くに落ちていた棒で必死にモノステロンを殴るものの一切通用しない。
モノステロンが発射するビームに当たってしまったら、一溜まりもない。

「ど、どうしよう・・・」

するとサナは自分のブーツに目を向ける。
0411この名無しがすごい!
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2020/06/27(土) 14:05:47.35ID:dDuTx91a
【私の可愛い救世主】(3/3)

「これだ!」

モノステロンがビームが発射しようとした数秒前、サナは自分のブーツを彼の口に向かって勢いよく放り投げる。
モノステロンの口にブーツが入り、そのまま喉につっかえてしまった。

「ガ、ガホッ、ゴ、ゴガァ!」

喉にブーツがつっかえたためにモノステロンは苦しみ出し、掴んでいたロートムを放してしまう。
サナはすぐにロートムをキャッチし、急いで安全な場所まで走って逃げる。
本来放出するはずの強大なエネルギーが体内に充満して抑えきれなくなり、モノステロンはとうとう爆発してしまった。

「ゴ、ゴボバァーーーッッッッ!!!」

断末魔と共に爆死し、モノステロンは姿を消してしまった。しばらくしてロートムが意識を取り戻した。

「サ、サナさん!あれモノステロンは?」
「大丈夫よ、安心して。モノステロンは私がやっつけたわ」
「ありがとう!サナさんは僕の命の恩人だよ!」

いつの間にか空に太陽が昇り、朝が来ていた。

「サナさんのおかげでモノステロンは倒された。これで人間界に平和が戻ったよ」

するとロートムのポケットに入っていたベルが鳴り出した。

「一体どうしたの?」
「アメリカの方でまた魔物が現れたって伝言が入ったんだ。今すぐそいつを倒しに行かないと」
「ま、また会えなくなるってこと?」
「残念だけど、この日本にはもう来れないかもしれない」
「そ、そんなの嫌よ!せっかく会えたのに!」
「サナさん、これをあげるよ」

ロートムは首に巻いていた、綺麗な空色のスカーフをサナに渡す。

「僕の故郷で作られている伝統品のスカーフなんだ。寂しくなったら、それでいつでも僕を思い出して」

そう言うとロートムはそのまま姿を消してしまった。あれから1年ほどが経過した。
サナはロートムの形見である、空色のスカーフを首に巻いて愛用していた。

「ロートム、いつかまた必ず会おうね。今度は一緒に楽しく暮らそう、約束よ」


THE END
0412三代目進行 ◆sjbsZxtbdD7t
垢版 |
2020/06/27(土) 17:59:23.98ID:rBIxLLm+
>>409
またすごい前のを引っ張ってきましたねw
なんか全然違う話になってるwけど、エルフならそういうこともあるかも知れない
また会えるといいですね
0413この名無しがすごい!
垢版 |
2020/06/27(土) 19:29:51.30ID:dDuTx91a
>>412
感想ありがとうございます!
3作目の過去作品の完結編です。前のニーソのお話もそうでしたが
些細な日常から一気にファンタジーへと世界観がかなり変わっちゃってますねw
以前書いていた魔法少女ナツミシリーズをつい思い出しちゃいました
楽しんでいただけてすっごく嬉しいです!
0414この名無しがすごい!
垢版 |
2020/06/28(日) 00:44:00.23ID:Pcy5uq6A
>>408
ありがとうございます
全部盛りのためだけに話が進んでいくカオス感が出ていたら及第点でした
0415この名無しがすごい!
垢版 |
2020/06/28(日) 12:00:19.77ID:fFrx1827
そういえば
>>402 だけど、朽ちを知るの方も使わせてもらいます。詳細はこの前言ったばっかりだし割愛するよ、何度もすまん
0416この名無しがすごい!
垢版 |
2020/06/28(日) 21:51:32.58ID:FmRPJz2J
>>388
お題:『水飴』『小川』『空色』『とげ』『エルフ』

【異世界でのんびり紀行】(1/3)
 春の海、終日のたりのたりかな。

 思わず、そんな蕪村の句が頭に浮かび上がる様な、ゆるりとした空気が流れていた。
 箭内 東吾が異世界と呼ばれる、現代とは違う世界に転移してから、すでに2年目の春である。転移した直後は大慌てだった彼も、さすがにそれだけの月日を重ねれば、イヤでもこの世界に慣れてくる。

 今は乗り合いの馬車に揺られて、田舎道をノロノロと隣の町に向かって移動している最中だ。うららかな春の日差しと、ガタンガタンとリズミカルな振動に、思わず瞼が重くなって来る。

(昔は、尻が痛くてうたた寝なんて出来なかったのになぁ)

 そんな事を思い苦笑する。
 年がら年中旅の空な東吾は、すでにすっかり、そんな事にも慣れてしまっていた。

 獣人の御者の爺さんは、手綱を握りながら噛み煙草をもぐもぐとやっていて、それ程広いと言う訳では無い幌馬車の中には、東吾を含めて7人程の男女が、向き合わせの席に腰を落ち着けている。
 その中には彼と同じ様な旅装の者も居れば、普通の格好をした親子も居る。

 馬車の外では、護衛に雇われた冒険者達が、馬車の速度に合わせて歩いて居た。
 東吾も、時折、同じ様に馬車の護衛の仕事をする事は有るが、基本ソロな彼は、連携が必要なこの手の仕事を受ける事は殆どなかったが。

 この辺りの地方で魔獣が活発になっていると言う話など聞いた事は無いし、基本身を隠す場所の無い平原なので、盗賊が出たと言う話も聞いた事は無い。
 だからと言って全く遭遇しないと言う事も無い為に、こうして護衛が付いている訳だが。

(こんな日は、魔獣もお休みにしてるだろうさね)

 希望的観測ですらない寝言と言って良い思考ではあるが、彼の考えが正しいかの様に魔獣の襲撃など無かった。

 ガタリ……と、大きく馬車が揺れた。小川に掛かっていた、殆ど丸太を並べただけと言って良い橋を乗り越えたからだ。

 と、突然、座っていた親子の、その子供が泣きだした。
 馬車の中にいる客の視線はその子供に集中し、母親だろう若い女性は、慌てて子供を泣き止ませようとオロオロしている。
 御者の獣人の爺さんが迷惑そうに振り返るも、何も言わずに前を向き直し、何事かと馬車の中を覗き込んだ冒険者は、「何だ、ガキか泣いただけか」と、興味を失った様に護衛の仕事に戻っていった。

「如何致した?」

 フードを被っていた旅人が、そう声を発する。鈴の音の様な涼やかな声だった。
 一瞬、キョトンと上を向き、目を丸くしていた子供は、しかし、次の瞬間には「イタイの、イタイの」と、引き攣る様に繰り返す。
 手を押さえている様子から、おそらく、手か指を痛めたのだろう。タイミングとしては、小川で馬車が大きく揺れた時だろう。
0417この名無しがすごい!
垢版 |
2020/06/28(日) 21:54:11.71ID:FmRPJz2J
【異世界でのんびり紀行】(2/3)


「ふむ、ならば、【回復】を掛けてみよう。わっぱ、手を出せ」

 「そこまでしていただかなくても」と、顔を青くする母親を無視して、旅人が【回復】の魔法を掛ける。
 東吾には母親の方の気持ちも分かった。【回復】魔法は、教会の神秘であり、それ以外の者が唱える事はほとんどない。
 その上、教会で【回復】魔法を掛けられれば、最低でも金貨が必要だからだ。
 おそらく、彼女にはそんなお金など無いのだろう。

 だが、子供は泣き止まない。

「ぬう? 確かに発動はしたのだが……」

 首を傾げ、もう一度魔法を行使しようと旅人が杖をかざす。二回目の【回復】魔法。母親の方は、青を通り越して、真っ白になっている。おそらく、二回分の【回復】魔法の料金が頭に過っているのだろう。

「おいおい、止めてあげなや、それ以上すると、お母さんの方が卒倒しちまうわな」
「ぬ?」
「ほれ、坊主、これでも食べな」

 そう言って東吾が手製の水飴を子供に渡した。
 木の棒に付いた、やや茶味がかったドロリとしたそれに、子供は戸惑った様な顔をしたが、東吾が「甘いぞ?」と言うと、恐るおそる口に着け、そして、勢いよく嘗め始めた。

 子供が水飴に夢中になったのを見計らって、東吾が子供の手を取る。

「ああやっぱり」
「ぬ?」

 矯めつ眇めつ見ていた東吾が、子供の指を掴んだ。そこには小さなトゲが刺さっている。おそらく、幌馬車の幌と車体の隙間に指を入れて遊んでいた子供の指に、馬車が跳ねたタイミングで刺さったのだろう。

「ふむ、では、これを使うか?」

 そう言って旅人が匕首を差し出す。その旅人の顔を見て、東吾は一瞬目を見開いた。
 絹糸の様な金髪に澄んだ空色の瞳。整った顔立ちの若い少女。
 怪訝そうに首を傾げた少女に、東吾は気を取り直した。
 確かに、この世界でトゲが刺さったと言えば、その部分を切り開いて取り出すのが常套手段ではあるが、匕首を見た子供がビクリと怯えたのを見て、東吾が苦笑する。

「いや、いい物を持ってるんだ」

 そう言って東吾は、背嚢の中から小袋を取り出すと、その中から小さな「毛抜き」を取り出した。
 次いで、子供の指を摘まむと、毛抜きを使ってスルリとトゲを取って見せる。

「ほら、もうトゲは取れたぞ」

 しばらく呆然と自分の指と毛抜きのトゲとを交互に見ていたが、すでに痛みが無くなっている事に気がつき「うん!」と元気よく返事を返したのだった。

 ******

 母親から【回復】魔法の料金を「某は役に立たなかった故」と断っていた少女が、東吾の隣にストンと座る。

「……怪我が治ってたら、料金は取ってたのかい?」
「まさか、この程度の事で礼など貰わんよ」

 そんな、一般常識を分かって居ない様な答えに、東吾は溜息を吐いた。

 【回復】魔法は、教会の秘技である。それ故に使い手は殆どいないし、料金もバカ高いのだ。それを「この程度」と当たり前のように言うのは、かなりの常識知らずだからだ。
 その事を指定すると、少女は目を丸くして「マコトか?」と東吾に問い質す。

「本当だよ、ほら」
0418この名無しがすごい!
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2020/06/28(日) 21:58:35.12ID:FmRPJz2J
【異世界でのんびり紀行】(3/3)


そう言うと、安堵している母親を指差した。

「ぬう、某は、余計な事をしてしまったのだろうか?」

 そう言って落ち込む少女に「そんな事は無いさ」と、東吾は軽口を叩く。

「困って居る者が居れば助けようと思うのは、『善き行い』だ。ただ、それを行う時、果たしてその相手は助けるに足る人物かの見極めと、手段については考えなけりゃならんがね」
「ぬう、そうか、そうだな。ありがとう」

 改めて自分の方を向き頭を下げる少女に、東吾が片眉を上げる。

「礼なんざ言われる程の事ぁしてないさね、まぁ、『旅は道連れ世は情け』『袖振り合うも他生の縁』ってこった」
「随分と古い言い回しをご存知の様だが、貴殿はもしかして、エルフの里の者か?」

 東吾は、自分が古臭い言い回しをする自覚は有ったが、しかし、それが何故エルフと結びつくのか分からなかった。
 そう言えば、彼女の言葉遣いも、持っていた匕首にしても、この世界では珍しい感じの物だ。どちらかと言えば、東吾の故郷である日本の、それも、彼がよく見ていた時代劇のソレの方が近い様に思われる。

「なぁ、あんたは『日本』って知ってるか?」
「それは、我ら始祖の生まれたとされる地の事だな!! やはり、貴殿はエルフの者か!!」
「始祖? え? エルフって日本人の血を引いてるの?」
「ぬ?」

 何と無く会話がかみ合っていない事に気が付いたのか、少女が眉根を寄せる。

「……ああ、そう言う事か、済まんな、俺は別にエルフじゃぁないさね。まあ、日本の事はよく知ってるがね」

 そう言ってフードを脱ぐと、そこには黒目黒髪の姿が現れる。
 それを見た少女が空色の目をこれでもかと見開いた。

「そ、そのお姿は! 確かに伝え聞く始祖様の姿!!」

 思わず声を荒げた少女に馬車内の視線が集まり、東吾は慌てて彼女の口をふさぐと「すみません」と周りの人達に頭を下げた。

「ぬう、申し訳ない。始祖殿」
「うん、俺は別に始祖じゃぁ無いからな、おそらく同郷ではあるがね」
「何、ふご!」

 再び大声を上げようとした少女の口を東吾がまたしても塞ぐ。

「と、言うか、アンタ、エルフなのかい?」
「ぬ! 名も名乗らず、失礼つかまつった。某の名は藤井 榛名と申す」

 そう言って自らのフードを引き、その長い耳を東吾に見せる。

「そうかい、俺の名は箭内 東吾だ」
「ほほう! 成程成程! 殿は東吾様とおっしゃられるのですな!! うむ、先程も泰然とした様子で子供をあやし、瞬時に原因を見極めては、適切な手段を取られていた。うむ! 流石は我が殿で有りますな!」
「は? 『我が殿』?」

 困惑する東吾を尻目に、榛名はそれが当然であるかの様に言った。

「見分の旅に出て直ぐに、始祖殿の同郷の方と相まみえる事ができるとは、何たる行幸! これは天の采配に相違ございません!」
「いや、ちょっ」
「ならば、某が殿と同行するは必然! そうではありませぬか!? いや! そうでしょうとも!!」

 鼻息荒くそう断言する榛名に、東吾は顔を引き攣らせると同時に(あれ、エルフってこんなんだったけか?)と思わずにはいられなかった。

 結局、彼女の勢いに飲まれた東吾が首を縦に振るに至るには、隣町に馬車が着くまでの時間も掛からなかったのだった。
0419この名無しがすごい!
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2020/06/28(日) 22:04:54.08ID:GHA6itCK
>>388
前スレ94の前日譚です

使用お題→『水飴』『小川』『空色』『とげ』『エルフ』

【私の従者】

 隣国と我が国との間に位置する危険地帯、通称『魔の森』。
 私は一人、さまよっていた。追っ手の襲撃から逃れる際、仲間とはぐれてしまったのだ。
 茨の茂みを突っ切って、倒木の下をくぐり抜け、足元の見えない下草の斜面を駆け上がった。傾斜が途切れて、私は立ち止まった。見回すと、周囲には誰もいなかった。
 しばらく待っても、誰も現れなかった。私は一人で進むことにした。道も分からぬまま。
 さっき仲間と言った。なんてことはない、若くて頼りない従者が一人だけ。高貴なる姫の一行にしては、なんとも貧相だ。
 その頼りない男でも、いないとなると心細いものだ。それに、荷物の半分以上は彼が持っている。実際のところ、合流できなければ、この迷宮を突破することは難しい。
 疲れのせいか、絶望的な状況のためか、私は段々と投げやりな気持ちになって、ずんずんと進むつもりで、ふらふらと歩いた。
 小川があった。
 一段低くなって、木々の間に隠れていた。せせらぎが聞こえる。森の中は見通しが悪い。ほとりまで下りるのは危険なように思われた。
 私は小川に沿って進むことにした。地図には大きな川の位置も書き込まれている。下流を目指せば、どこかしらに出るはずだ。
 警戒はしていたつもりだった。何が出てもおかしくない。だが、注意して進んだつもりでも、やはり私には何も見えていなかった。
 対岸が広場のようになっている場所があった。その反対側、つまり私が歩いてきた方、その雑草の中に、男……だったであろう、塊が転がっていた。
 空色、だった。私の従者の瞳の色だ。エルフには珍しくない色だが、彼のそれは、しばしば不安気に揺れながらも、同時に誠実さを感じさせるものだった。
 その瞳の色を思わせるような、半透明の、水飴(みずあめ)のような物体。
 スライムだ。
 空色のスライムが、私の従者の死体に取り付いて、それを消化していた。まだ死んでから大して時間も経っていないだろうに、もはや元の姿が分からない。
 隣に置かれている荷物と、彼が身に着けていた武器や装身具。それらが遺体の身元を示していた。
 周りをよく見ると、川の方から赤黒いものが続いていた。恐らく、川の中か対岸、またはその奥で負傷した。その時の傷が致命傷となり、ここまで逃げ延びたものの、亡くなった。
 スライムは、生きているものは襲わないという。だから、たまたまだ。彼が力尽きてから通り掛かり、ひょっとしたら何日も食べていなかったかも知れない、ごちそうだ。
 それでも、私は恨めしい。死に顔くらい見てやりたかった。こいつを殺せば、少しは彼の無念を晴らせるだろうか。
 そう思って、腰の短剣に手をやろうとした時。

『あんた……姫……?』

 頭の中に声が響いた。

『……気を付けろ、対岸だ!』

 何かが動いた。とっさに身を翻すと、たった今まで私がいた所に、矢が突き刺さっていた。
 追っ手が姿を現した。言うまでもないが、全員エルフだ。林の中から何人かが出てきて、対岸の広場へと歩を進める。この距離では逃げ切れない。

『あいつら……』

 私は覚悟を決めたが、次の瞬間には、予想もしていなかったことが起きた。
 巨大な刺(とげ)。
 広場の地面から何本もの刺が突き出して、彼らを串刺しにしていた。

『あんたの従者……だな。こいつもあれにやられたんだ』

 私は混乱する思考で、それでも、この機を逃しては、この機会を手放してはいけないと、そう悟った。

『俺を連れてけ。道案内してやる』

 そう主張するスライムを、スライムだ、こいつがしゃべっているのだ、私は抱え上げて。落ちていた荷物も、持てそうなものは持って。

『大丈夫かよ。俺が持ってやれればなぁ』

 私はその場を逃げ出した。
 脳裏に浮かぶ光景があった。王宮の壁や天井に描かれた、物語の英雄。
 その透き通った、空色が。
0421三代目進行 ◆sjbsZxtbdD7t
垢版 |
2020/06/28(日) 22:12:12.80ID:GHA6itCK
お題→『水飴』『小川』『空色』『とげ』『エルフ』締切

【参加作品一覧】(1/2)
>>394【受難な姉を救え】
>>402【途中まで書けたけど、没作で……申し訳ねえ、最近調子悪いわ】
>>405【エルフ水飴】
>>409【私の可愛い救世主】
0423三代目進行 ◆sjbsZxtbdD7t
垢版 |
2020/06/28(日) 22:14:26.20ID:GHA6itCK
で、、では、久しぶりの盛況ですが、書き出しの一文指定をやります!

お題安価>>424-427
書き出し安価>>428
0424この名無しがすごい!
垢版 |
2020/06/28(日) 22:14:49.64ID:9utiRqHN
ピアノ
0425この名無しがすごい!
垢版 |
2020/06/28(日) 22:16:51.04ID:C5i/j5S5
ろうそく
0426この名無しがすごい!
垢版 |
2020/06/28(日) 22:18:02.09ID:Qy6Lq82P
電波女
0427この名無しがすごい!
垢版 |
2020/06/28(日) 22:20:08.08ID:tWIjXVMN
オオカミ
0429三代目進行 ◆sjbsZxtbdD7t
垢版 |
2020/06/28(日) 22:25:35.70ID:GHA6itCK
☆お題→書き出し『侍の国、僕らの国がそう呼ばれたのは今は昔の話』+『ピアノ』『ろうそく』『電波女』『オオカミ』から1つ以上選択

☆文字数→3レス+予備1レス以内に収めれば何字でも可。
1レス約1900字、60行が上限。

☆締め切り→7/5の22時まで。
締め切りを過ぎても作品の投稿は可。

【見逃し防止のため、作品投稿の際はこのレスに安価してください】
0430三代目進行 ◆sjbsZxtbdD7t
垢版 |
2020/06/28(日) 22:27:58.06ID:GHA6itCK
また今週はすごい早いね・・・なんか書き出しも雰囲気あるね・・・!

と、ともかく、引き続きお題スレをよろしくおながいします
0431この名無しがすごい!
垢版 |
2020/06/28(日) 22:52:58.36ID:FmRPJz2J
……二日間覗かなかっただけなのにこんなに作品が
>>402
お題の小川とシンクロするかの様な透き通った感じのお話ですね
思考が行き詰まった時には一旦休んでから再び見直すのも良いですよね

>>405
某ゲームでエルフは植物だそうですが……w
水飴が作れるのであれば
その内エルフ麦酒なんかも作られそうですね

>>409
「地球は狙われている」から常に始まるマンガを思い出しました
少年探偵の意外な正体
これって永遠の少年探偵って事ですかね?

>>419
転生者が姫と出会うまで
二人の逃避行はいつまで続くのか?
0432三代目進行 ◆sjbsZxtbdD7t
垢版 |
2020/06/28(日) 23:26:46.14ID:GHA6itCK
>>416
なるほどー、平和な世界の(言動だけは)和風エルフ
主人公の役得もありつつ、楽しい旅になりそうですw

>>431
感想ありがとうございます!
この時点では緊迫してますが、本編では意外とのんびりだったりします
0433この名無しがすごい!
垢版 |
2020/06/29(月) 07:43:48.46ID:dRJmo/25
>>432
感想有り難うございます
相変わらず、削りまくった為に謎が多いお話になってしまいましたorz
0434この名無しがすごい!
垢版 |
2020/06/29(月) 08:04:29.62ID:FYkS5tuQ
>>431
感想ありがとうございます!
少年探偵の正体が実は異世界から来たエルフというまさに超展開でした
過去作の雰囲気をなるべく壊さずに展開するのって結構難しいんですけどこれまた楽しいんですよね
楽しんでいただけてすっごく嬉しいです!
0435この名無しがすごい!
垢版 |
2020/06/29(月) 22:20:56.72ID:FYkS5tuQ
>>429
使用するお題→書き出し『侍の国、僕らの国がそう呼ばれたのは今は昔の話』+『ろうそく』『オオカミ』

【謎の祈祷師、現る】(1/3)

「侍の国、僕らの国がそう呼ばれたのは今は昔の話・・・」
「ねえシグレ、何を言っているの?」
「あっ、ごめんなさい」

日本という国から遥々このアメリカにやって来た謎の女サムライ・シグレ。
自由気ままにさすらいの旅を続ける女ガンマン・シンディとはかつてライバル関係で敵同士であったが、
幾多の激闘を互いに力を合わせて乗り越え、今では彼女の親友にして良き旅の仲間である。

「侍の国がどうのこうの言ってたけど何なの?」
「ある将軍の城に忍び込んだ時、その書庫にあった一枚の巻物にそう書いてあったの。誰が書いたか分からない、きっと日本の未来を予知するものなのかもしれない」
「どんな国も時が進めば必ず変化が起こるってことよ。そんなに心配してちゃ前へ進めないわよシグレ」
「そうよね、時代は移り変わっていくものだわ」

シグレはシンディと共に彼女の愛馬サンセットの背中に乗ると、荒野の中を再び走り出す。
サンセットもシグレに非常に懐いており、彼女を立派な旅の仲間の一人として認識していた。
そんな彼女達の姿を岩陰から誰かがじっと見つめていた。

「あの小娘、こんなところにいたのか。絶対に捕まえて息の根を止めてやるわイッヒッヒッヒ!」

日が暮れて夜になった。次の町まで辿り着くことができなかったシンディとシグレは、今夜は野宿することに決めた。
とても暑苦しい荒野も夜になると一気に冷え込み、身震いがするほど寒くなる。シグレはまだそれに全然慣れていなかった。

「に、日中はあれだけ暑いのに、よ、夜になったら、こ、こんなに寒いなんて。変わった国ね。ハッ、ハックシュン!」

そんなシグレにシンディは自分のコートを着せ、スカーフを首に巻いてあげた。

「大丈夫?これで少しは温かくなるはずよ」
「あ、ありがとうシンディ」

シンディのコートとスカーフから彼女の温もりが伝わり、シグレはいつの間にか眠りに落ちてしまった。

「あらあら、すっかり寝ちゃって。シグレったら可愛いんだから」

スヤスヤと眠るシグレの頭をシンディはそっと優しく撫でる。サンセットも眠りについてまだ間もない時だった。
一匹の大きな白いオオカミがシンディの目の前に現れた。

「オ、オオカミ!こら、近づくと撃つわよ!」

牙を剥き出しにし、ヨダレを垂らしながら自分の方に歩み寄るオオカミにシンディは銃を向けて威嚇するが、そのオオカミは一切動揺しない。
オオカミはそのままシンディの足に思いきりガブッと噛みつき、彼女をズルズルと引きずり始めた。

「ウワワワワッ!こ、こら何するのよ!」

シンディの声を聞いたシグレとサンセットが飛び起きる。

「あのオオカミ、まさか!冷静になってシンディ!」
「れ、冷静に?そうか!」

シグレの一声でシンディはすぐに落ち着いて一旦冷静になる。するとその白いオオカミは煙となり姿を消してしまった。
0436この名無しがすごい!
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2020/06/29(月) 22:21:48.73ID:FYkS5tuQ
【謎の祈祷師、現る】(2/3)

「消えた!ふぅ、助かったぁ。さっきのオオカミ、シグレの妖術?と何だかすっごく似てたわ!」

シンディは、自らの心の奥に潜む恐怖心を取り除くことで危機を回避したのだ。

「私と同じ術を使う、ということはまさか!」
「そのまさかだよシグレ!」

シンディとシグレの目の前に現れたのは、3本のロウソクを鉢巻に巻いた、変な姿をした白い着物姿の女だった。

「私を忘れたとは言わせないわよ、シグレ」
「あ、あんたはヨツユ!何でここに!?」

その女はヨツユという祈祷師で、かつて強大な勢力を持つ将軍の仲間の一人だった。
その将軍はシグレの手によって全滅させられたものの、ヨツユ自身は得意の妖術で欺くことでなんとか生き残り、シグレに復讐を果たすべく彼女をずっと探し回っていたのだ。

「将軍もろとも斬り殺したはず!まさか生きていたなんて!」
「あれで私を殺したとは思い上がりも良いところね。まあいい、ここであなたの息の根を止め、首を持って帰らせてもらうわ!」

ヨツユは頭のロウソクを一本取ると、口から黒い息を炎に向かって吹きかける。
黒い息に包まれたロウソクの炎は大きくなり、それはウサギのような姿に変化した。

「"黒炎兎"(こくえんと)!!」

赤い目を光らせ、激しく燃える黒い炎のウサギがシグレに向かって襲いかかってきた。
それに対抗すべく、シグレは手の平から冷気を発生させ、その冷気をキツネのような姿にさせた。

「"氷柱狐"(つららぎつね)!!」

炎のウサギと氷のキツネが激突する。妖術によって生み出された熱と冷気の怪物が互いにぶつかり合い、蒸発し消えてしまった。

「腕はまだまだ衰えていないようね、シグレ」
「ハァ、ハァ!」

妖術は技によっては自らの体力を極限にまで削って繰り出すものも多く、さっきの技でシグレの体力は一気に消耗してしまった。

「どうやら今ので一気に体力を使い果たしてしまったようね。ここでトドメを刺してあげる!」

ヨツユの腕から青白い炎が現れ出す。

「さあ、これで観念しなさい」
「ちょっと待ちなさいよ」

するとシンディがヨツユの腕をギュッと強く掴んで邪魔をする。
0437この名無しがすごい!
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2020/06/29(月) 22:22:42.20ID:FYkS5tuQ
【謎の祈祷師、現る】(3/3)

「貴様、何をする!放せ!熱くないのか!」
「うん、全然熱くない」

青白い炎に包まれている自分のの腕を掴んでいるというのに、全然熱がる様子を見せないシンディにヨツユは思わず動揺する。

「あのねえ、私の大切な親友に手を出さないでくれるかしら。ちょっとでも傷つけたら命は無いと思った方がいいわよ」
「黙れ!こうなったら貴様からまず地獄に送ってやるわ!」

しかし、以前のシグレとの戦いを通じて妖術の「心に潜む恐怖心を狂気へと実体化させる」という神髄を
見事にまで打ち破ったシンディにはヨツユなんて全く敵ではなかった。

「き、貴様、恐怖心というのを全く抱いていないというのか!」
「アメリカのガンマンはね、少しでも恐怖に屈したらそこで負けなのよ!」

ヨツユの腕を強く掴んで持ち上げると、シンディは彼女の腹に勢いよく膝蹴りを食らわせる。

「グ、グウェヘ!」

そのまま銃で脳天を撃ち抜かれ、ヨツユは頭から血を流しながら絶命してしまった。

「シ、シンディ、ありがとう」
「気にしないでシグレ。親友に手を出す者は絶対に許さない、ただそれだけのこと」

気づけば空に太陽が昇り、いつの間にか朝が来ていた。

「シンディ、あなたって強いわね。感心しちゃうわ」
「そんなことないわ。本当のことを言うと私、子供の頃からすっごく臆病で怖がりなの。でも今、私には守るべき大切な存在がいる」
「守るべき大切な存在って?」

シグレにそう問われたシンディは、彼女に向かってニコッと微笑む。

「ま、まさか!」
「そう、あなたよシグレ!今、あなたという親友で仲間という大切な存在がいるから私は強くなれる」

サンセットもシンディの言葉に賛同しており、シグレの顔をペロッと優しく撫でる。

「シ、シンディ、そう言われると照れちゃう。あ、ありがとう」
「あらあら顔を真っ赤にしちゃって。シグレは本当に可愛いんだから!」

シンディとシグレを背中に乗せ、サンセットが再び荒野の中を走り始めるのだった。
0438この名無しがすごい!
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2020/06/30(火) 12:49:22.82ID:ayhHh/k8
>>435
ハイパーウエスタンファンタジーな様相を呈して来ましたねw
迫り来る敵と困難を打ち破った後の友情
良いですよねw
0439三代目進行 ◆sjbsZxtbdD7t
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2020/06/30(火) 14:31:43.86ID:tVx4kJHb
>>435
正直シンディシリーズ用っぽさはあった^^;
またすごい外見と技ですがw、この2人の敵ではなかった・・・
0440この名無しがすごい!
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2020/06/30(火) 15:35:43.67ID:bkFnCRfG
>>438
>>439
感想ありがとうございます!
そうですね、リアル系ワイルドウエスタンだったのにいつの間にか段々とファンタジー化してますねw
自分でも書いててひたすら思ったのがシンディどんだけ脳筋なんだよ…
ま、まあ己の力で相手を無理やりにでもねじ伏せてこそアメリカのガンマンだぜ!ということで(笑)
楽しんでいただけてすっごく嬉しいです!
0441この名無しがすごい!
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2020/07/01(水) 16:58:31.42ID:VrCMWPSq
>>429
使用するお題→書き出し『侍の国、僕らの国がそう呼ばれたのは今は昔の話』+『ピアノ』『オオカミ』

【黒猫レイチェル VS オオカミ女】(1/3)

「侍の国、僕らの国がそう呼ばれたのは今は昔の話・・・」
「うわあ、すっごい展開になってきたな」

ある朝のこと、ライアンはリビングのソファーに座ってテレビに夢中になっていた。
しばらくすると、起きたばかりのレイチェルがフワァッと大きな欠伸をしながら下りてきた。

「おはようライアン!あれ、何を見ているの?」
「あっ、おはようレイチェル。日本がエイリアンに襲撃されるドラマでさ、強い侍がみんな殺されてエイリアンに侵略された日本を、一人の少年が孤軍奮闘して救おうとする内容なんだ」
「結構スペクタクルね…ってライアン、呑気にドラマを見てる場合じゃないでしょ。ハロウィンの準備をしなくちゃ!」
「そうだった!ごめんね、すっかりドラマに無我夢中になってたよ」

そう、今年もシチリアにハロウィンの季節が訪れたのだ。ライアンは早速、子供達に配る美味しいお菓子作りの準備にとりかかる。
レイチェルは、ハロウィンが来て興奮する一方で不安に思っていることが一つだけあった。
それは、いつも着ているお気に入りのガンマン衣装でパーティーに参加できるかどうかということだった。
一昨年は市長の女秘書に奪われる、昨年は買い物帰りにうっかり沼地に落ちて汚してしまったために着られなくなるなど、2年連続で散々な目に遭っているのだ。

「今年こそはいつものガンマン衣装で出られたらいいんだけど・・・」
「今年も、というか毎年ハロウィンは黒猫の衣装で出たらいいと僕は思うよ」
「だーかーらー、黒猫はあくまでも「もう一つ」の姿なんだってばライアン!私の本来の姿は、さすらいの女ガンマンなんだから!」
「黒猫姿のレイチェル、僕はすっごく大好きだよ。そう怒らないで」

冷静になって考えてみれば、あの黒猫の衣装はマンネリ化しつつある余興をもっと楽しんでもらうために、ライアンが厳選して買ってきてくれた大切なものだ。
それを嫌がるということはすなわち、ライアンの想いを無下にしているのと同じだ。レイチェルはそう考えると、彼に対して罪悪感を感じてしまった。

「つい熱くなっちゃって、本当にごめんなさいライアン。私、今年も黒猫の衣装で参加するわ」
「無理しなくてもいいんだよ、レイチェル。僕はただ、黒猫姿の君がガンマン姿と同じくらい大好きだって言いたかっただけだよ」
「だって、ライアンがこの黒猫の衣装を買ってくれたおかげで、余興が以前よりずっと楽しくなって評判も良くなったのよ。だから、私はこれを着る!」
「レイチェル、そこまで言ってもらえるなんて。僕、すっごく嬉しいよ!」

でもライアンは最初から知っていた。レイチェルは黒猫の衣装を少し嫌がっているように見えて、本当は非常に気に入っているということをだ。

「(レイチェルったら普段はとても純粋なのに、時々素直になれないところがあるな。まあ、そこが凄く可愛いんだけどね)」
「さあ、今年も黒猫レイチェルで行くわよー!黒猫になった私を止められる者は誰もいない!」

すっかり有頂天になっているレイチェルを、ライアンは微笑ましそうに眺めていた。
準備も整ったパーティーの前日、ライアンとレイチェルはのんびりと散歩していた。
大きな湖のある公園の中を歩いていると、木々に囲まれるように佇む廃虚を見つけた。
その廃虚の中にはピアノが置いてあり、ここ最近、誰もいないのにピアノが鳴る音が聞こえるという怪奇現象が多発しており、噂になっていた。

「誰もいないのにピアノが鳴るなんて、まさか幽霊の仕業かしら?」
「気になるのは分かるけど、廃虚だからといって不法侵入だけはもう絶対に勘弁してくれよレイチェル。もし、またしたら助けないし許さないよ」
「も、もちろん分かってるわよライアン!あの時と同じ過ちはもう繰り返したりしないから安心して!」

好奇心旺盛が故にトラブルを起こしてしまうことのあるレイチェルに、ライアンは心配で気が気でない時もあった。
0442この名無しがすごい!
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2020/07/01(水) 16:59:26.23ID:VrCMWPSq
【黒猫レイチェル VS オオカミ女】(2/3)

そしてハロウィン当日、年に一度の盛大なパーティーが開催された。
黒猫姿で参加したレイチェル、そしてライアンに子供達がハッピーハロウィーン!と嬉しそうに駆け寄ってくる。

「わあ、今年も黒猫のレイチェルさんだー!」
「ガンマン姿もいいけど、黒猫も素敵だね!」
「ウフフ、ありがとう!」
「ライアンさん、美味しいチョコチップクッキーくれないとイタズラしちゃうぞー!」
「アハハ!ほらほら落ち着いて、一人ずつ順番にね」

黒猫姿のレイチェルに握手を求めたり、ライアンからクッキーを貰ったりと子供達は大はしゃぎだった。
今年も楽しいパーティーは無事に幕を閉じ、ライアンとレイチェルは家路についた。

「今年も最高のパーティーだったね、ライアン!」
「ああ、来年もまた待ち遠しいね!」
「チョコチップクッキー、まだ残ってる?」
「もちろんだよ、ほら」

ライアン特製のチョコチップクッキーを、レイチェルは嬉しそうに齧る。
あの廃虚の近くを通りかかった時だった。美しい音色のピアノが聞こえてくる、誰もいるはずがないのに。
その音を聞いたレイチェルとライアンがその廃虚に駆け寄り、こっそりと窓から覗く。

「や、やっぱり誰もいない。本当に幽霊の仕業なのか?」
「ちょっと待って!ライアン、よく見て!」

よーく目を凝らして見ると、誰かがいてピアノを弾いている。それは真っ黒なオオカミの姿をしている。

「「オ、オオカミがピアノを弾いてる!?」」

そのオオカミはレイチェルとライアンの存在に気付き、勢いよく扉をパンチして破壊して姿を現した。
二足歩行しているオオカミの化け物と思いきや、それはオオカミの衣装を着た人間で女だった。

「また会えたわねレイチェル、そしてライアン。私を覚えてる?忘れたとは言わせないわよ」
「ま、まさか前市長グレーズさんの元秘書!?」
「正解。覚えてたようで嬉しいわ」

現在は市長を辞任してドイツへと引っ越し、シチリアにはもういないグレーズさんの元秘書であるリーソンという女だった。
2年前、レイチェルのガンマン衣装を盗んだ上、ライアンをも誘拐した張本人だ。3ヶ月ほど前、大量の保釈金を払うことで釈放されたのだ。

「そう、この私リーソンよ。そういえば名乗るのは今回が初めてだったわね。目的はいたってシンプル。あんた達を誘き寄せ、復讐を果たすためにこの廃虚を利用したの」
「逆恨みも甚だしいわね。こうなったら、あんたをまた刑務所に逆戻りさせてあげる!」

オオカミの衣装を身につけたリーソンがライアンに襲いかかろうとしたが、黒猫姿のレイチェルが俊敏な動きでそれを阻止する。

「ライアン、私のことはいいから早く逃げて!必ず、生きて帰るから!」
「そ、そんなこと…!」
「いいから!私はライアンが無事なら、それだけで十分よ」

ライアンはグッと涙を流すのを堪えると、その場から走って逃げた。

「愛する妻を置いて逃げるなんて、最低の夫ね」
「あんたがそれを言う資格なんてどこにもないわよ!」

黒猫姿のレイチェルはその俊敏さを活かしたパンチやキックで、オオカミ姿のリーソンに攻めていくもののダメージがなかなか入らない。

「オオカミって結構タフな動物よ。パワーも体力もただの猫なんかよりも圧倒的に上!あんたの攻撃なんて痛くも痒くもない!」
「そ、そんな!」
0443この名無しがすごい!
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2020/07/01(水) 17:00:35.24ID:VrCMWPSq
【黒猫レイチェル VS オオカミ女】(3/3)

黒猫フォルムは俊敏性は優秀ではあるが、決定力にやや欠ける上に体力に難があり、長期戦や体力に優れた相手となると非常に分が悪い。
とにかく早めに決着をつけないと、自分がとことん不利な状況に陥ってしまう。

「ハァ、ハァ…!」
「あらあら、もうスタミナ切れなの?情けない黒猫さんね」

リーソンがオオカミのパワーを活かしたパンチで、レイチェルの腹を勢いよく殴る。
レイチェルは血を吐き、そのまま気を失って倒れそうになる。

「さあ、これがあんたの最期よ。後でライアンも一緒に合わせてあげる、あの世でね」

まさに絶体絶命、万事休すかと死を覚悟したその時だった。突然、カチャカチャと拍車が鳴る音が聞こえてくる。

「そこまでだ!凶悪なオオカミ女め!」

現れたのはなんと、レイチェルのガンマン衣装を身につけたライアンだった。

「ラ、ライアン!!」
「助けに来たよレイチェル!」
「ふん、戻ってきたところで私に勝てるとでも思ってるの?」

リーソンが満月を背に高くジャンプして飛び蹴りを喰らわせようとした時、ライアンは銃を取り出し、彼女の右脚に向かって発砲する。

「グワアッ!ま、まさか本物の銃を持っていただなんて!」
「ガンマンなんだから銃を持っていないとおかしいだろ」
「や、やられた・・・!」

右脚から血を流しながら、そのままリーソンは倒れてしまった。その後、駆けつけた警察によってリーソンは逮捕、また刑務所へと逆戻りとなった。
ライアンはレイチェルを抱え、急いで家に帰るとすぐに手当てをした。

「これでよしっと!もう大丈夫だよ、レイチェル」
「本当にありがとう、ライアン。まさか私のガンマン衣装を着て助けに来てくれるなんて。すっごくカッコよかったわ!」
「大切なパーティーを危険に晒したまま逃げるなんて、そんな薄情なことできるわけないだろ。とにかく本当によかった」

ライアンによしよしと優しく頭を撫でられ、レイチェルは嬉しくなり、いつの間にか眠りに落ちてしまった。
この出来事はまた新聞の一面を飾るほどの大きな話題となった。

「去年はマンティコア騒動、今年は元秘書がオオカミになって復讐、ハロウィンはもう何が起きるか分からないな」
「早いけど、もう来年が心配で怖くなってくるわ」
「気にしないでレイチェル。大丈夫だよ、この僕がいるからね」
「ウフフ!そうね、優しくて強いライアンがいるから安心よね!」

互いに顔を合わせて笑い合うライアンとレイチェルなのであった。
0444三代目進行 ◆sjbsZxtbdD7t
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2020/07/02(木) 13:36:24.39ID:eMnBW9NT
>>441
絶好調ですねw、なんかこのシリーズを読むと安心する・・・
お前(が犯人)か!!、からの意外な方法での逆転!、次のハロウィンはどうなってしまうのか
0445この名無しがすごい!
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2020/07/02(木) 18:54:26.85ID:F4dBhA74
>>444
感想ありがとうございます!
あのハロウィンエピソード第一回目のあの元秘書がまさかの再登場でした、ナタリーもでしたがこの女も逆恨みがホント甚だしいw
文字数やスレ数の関係で展開が急になって、バトルの決着がちょっとあっけなさ過ぎだったのが残念でした
楽しんでいただけてすっごく嬉しいです!
0446この名無しがすごい!
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2020/07/05(日) 21:20:54.53ID:gnUcRo2N
>>441
またしてもハロウィンに事件がw
どこぞのクリスマスに事件に巻き込まれる刑事の様ですねw
次のハロウィンにも、コスプレ犯が襲撃に来るのでしょうか?
0447この名無しがすごい!
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2020/07/05(日) 21:22:34.24ID:gnUcRo2N
>>429
お題:書き出し『侍の国、僕らの国がそう呼ばれたのは今は昔の話』+『ピアノ』『ろうそく』『電波女』『オオカミ』

【ぶんげいぶ】(1/2)


「『侍の国、僕らの国がそう呼ばれたのは今は昔の話』」
「何の話? ってか何処目線?」
「いや、こう言う書き出しだったら、近未来ファンタジーっぽいかなぁ……って」

 相坂高校文芸部の中島 浩人は、同じ部員である磯谷 勝にそう言った。

「……明治以降なら、だいたい当て嵌まる気がするんだが。てか、その書き出しにはファンタジー要素ないと思うぞ?」
「そう?」
「そうね!! 『大樹の葉っぱはピアノの様。雨を弾いてメロディーを奏でるの』これ位の書き出しじゃなくっちゃ、ファンタジーじゃないわね!!」

 女生徒の突然の声に、浩人がビクリと身をすくませる。
 勝は嫌な物を見たと言う様な表情で、女生徒……花澤 曄子に視線を向けた。

「うわっ電波女が来たよ……お前のソレは『ファンタジー』じゃなくて『メルヘン』だからな? それもポエム系の。第一、お前の書き出しからだと浩人の書きたい話にはつながらないだろ」
「何よ!! なら、アンタなら、どういう書き出しにするって言うのよ?」
「いや、どんな書き出しって、取り敢えず、内容が分からんと書き出しなんて決められないだろうが、なぁ、浩人」

 勝に話を振られ、浩人は「えっと、そうかも知れないね」と、曖昧に返事をした。

「ほら、浩人だって私に賛同してるわよ」
「浩人の返事のどこにそんな要素があった。この『電波女』」
「あ! じゃぁ『侍の国、大樹の葉っぱがピアノの様に雨を弾いてメロディーを奏でている僕らの国がそう呼ばれたのは今は昔の話』でどうだろう?」
「あほか!」
「素敵ね!」

 正反対の意見になり、二人が睨み合う。

「つなげれば良いって物じゃねぇだろう? そもそもそれはファンタジー要素じゃねぇ!!」
「あら、素敵じゃない。浩人きゅんが私の為に考えてくれたのよ? やだ、嫉妬? 男の嫉妬なんて醜いわよ?」
「ああ! ホントにもう話が通じねぇ電波女だよコイツは!!」

 二人が喧嘩にならない様にと考えた浩人は、取り敢えず両方の意見を尊重して見たのだが、どうやら逆効果だった様だ。
0448この名無しがすごい!
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2020/07/05(日) 21:23:26.92ID:gnUcRo2N
【ぶんげいぶ】(2/2)


 ******

「で、どんな話にしたいんだよ」
「えっと、近未来風ファンタジーでね?」
「うん」
「フェンリルの紋章を得た主人公が……」
「よし、待とうか」

 説明を始めた浩人の、飛躍し過ぎる説明に勝が頭を抱えた。

「とりあえず、そのフェンリルは何処から出て来た? ってか、書き出しで侍とか言ってなかったか?」
「え? その、舞台を日本にするから、そうなると、『侍の国』かな? って」
「うん」
「で、ほら、フェンリルって恰好良いでしょ?」
「それだけの理由か――――い!! っつうか、日本が舞台なら『真神』じゃダメなんか? ああ!?」

 勝の突っ込みにオロオロしていた浩人だったが、やや間を置いて「『真神』って何?」とおずおずと訊ねて来る。

「ふっ! 『真神』なんて、そんんなマイナーな狼神じゃ、超メジャー狼神のフェンリルには勝てないわよ!」
「あ、真神って、狼の神様なの? ありがとう教えてくれて花澤さん」
「良いのよ浩人きゅん。それから私の事は曄子で……」
「メジャー、マイナーの話は良いんだよ、世界観の話をしてんだ。世界観の」
「えっと、ごめん、日本が舞台でフェンリルだとダメかな?」

 あからさまに落ち込む浩人に、勝は「ダメじゃないけどさ」と言葉を掛ける。

「言っただろ? 世界観の話だよ。日本が舞台なのは良い。フェンリルの紋章も良いだろうけど、『侍の国、僕らの国がそう呼ばれたのは今は昔の話』って、書き出しだろう? それでどうして北欧神話が入って来るのかって話で……」
「ほくおうしんわ?」

 首を傾げる浩人を見て、勝は両手で顔を押さえる。

「フェンリルの出自も知らないのかよ……」
「良いの、浩人きゅんは、そのまま無垢でいて」
「『無垢』と『無知』は、一字違いでも全く違うんだよ! 『電波女』!!」
「ホッホッホ! 浩人きゅんの全てを受け入れられないなんて、なんて器の小さな男なのかしら! そんな男に浩人きゅんは任せられないわね!!」
「うっせえ!! 黙れ!! 交ぜっ返すな電波女!! 縛って叩いて捻じ込むぞ!!」
「な、何て下劣な!! ち、因みに捻じ込むってナニをかしら?(ドキドキ)」
「ろうそく?」
「浩人!! お前、何言ってんの?」
「え? ムチって言ったらロウソクかなって」

 突然の浩人の言葉に勝が驚愕の視線を向ける。

「いや、ムチって、そう言う意味じゃ……」
「ひ、浩人きゅんがそうしたいなら私は……(ドキドキ)」
「おまっ、さっきは『無垢でいて』とか……いや、ちったあ黙れよ!!」
「『ろうそく』って、ちょっとファンタジーのアイテムっぽいよね?」
「お前の中のファンタジー観ってどうなってんの!?」

 相坂高校文芸部は今日もにぎやかだ。
0449この名無しがすごい!
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2020/07/05(日) 22:12:03.58ID:eeL2HE6T
>>429
僕が前スレ808の続きだ……ですにゃー

使用お題→書き出し『侍の国、僕らの国がそう呼ばれたのは今は昔の話』+『ピアノ』『ろうそく』『電波女』『オオカミ』

【脱獄した俺は未開の星で帝国相手に無双するかも知れない/第五話】(1/2)

「侍の国、僕らの国がそう呼ばれたのは今は昔の話……ですにゃー」

 ニャンダモ弐号機を塗装した日の夜。村では、またしても、宴会という名の食事会が開かれていた。

「それは……サンライズでしたかにゃー?」
「どうでしたかにゃー」
「それは……BAN南無でしたかにゃー?」
「にゃむにゃむ……どうでしたかにゃー」
「侍ですからにゃー。きっと両方ですにゃー」

 そしてネコミミ族の宴会というものは、素人演劇とのセットが定番らしい。
 ろうそくの明かりが揺れる。ネコミミ族の仮面も、暗闇を背負って不規則に揺れる。

「なあ、こんなにのんびりで大丈夫なのか?」
「大丈夫ではないですが、急いでも仕方ないですにゃー」

 ニャンダモのパイロットの女ですら、この調子だ。
 俺としては、もっと他にやるべきことがあると思うのだが。

「両方ですかにゃー。それと、侍は電波ですにゃー」
「電波……それはなんでしたかにゃー」
「見えるのですにゃー」
「何が見えるのですかにゃー」
「それはもう、見えてはいけないものが……あっ」

 おっさんたちの動きが止まった。

「……明日も早いのですにゃー。今夜はこれでお開きですにゃー」

 何が見えるんだ。気になるじゃないか。

 *

 翌朝は、相変わらずの曇りだった。なんとなく準備をして待っていると、前日と同じように、村長がやってきた。

「昨日はお疲れ様でしたにゃー。それで早速なのですが、電波ですにゃー」

 何言ってんだこいつ、とは思ったが、俺は大人しく村長に連れられて、村の外に出た。昨日とは違って、雑草に埋もれた道無き道を進む。
 しばらく進むと、上り坂になった。行く手は相変わらず植物に覆われている。よく見れば切り払われた跡も確認できるが、どこまで行っても緑しかない。村長は、そんな道を、迷うことも疲れを見せることもなく、歩き続けた。

「ここですにゃー。電波ですにゃー」

 坂道の先にあったのは、木々に埋もれるようにして建つ、一軒の小屋だった。
 周囲に目をやると、小屋のすぐ脇に鉄塔のような物が建っており、その先端を見上げると、曇り空で見づらいのだが、それはアンテナらしき形をしていた。

「電波女はいますかにゃー」

 村長は、ノックもせずに小屋の戸を開けると、ずかずかと中に入っていった。俺は慌てて村長に続いた。

「いますにゃー。逃げも隠れもしませんのにゃー。今日はどうしましたかにゃー」
0450この名無しがすごい!
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2020/07/05(日) 22:12:34.89ID:eeL2HE6T
【脱獄した俺は未開の星で帝国相手に無双するかも知れない/第五話】(2/2)

 小屋の中には女が一人いた。

「今日は電波ですにゃー。電波を飛ばしますのにゃー」
「そうなのですかにゃー。ところで村長、そちらの方はどなたですかにゃー」
「こちらの方は脱獄囚ですにゃー」

 大して広くもない室内には、ベッドが一台と、ピアノの鍵盤のような装置が接続された怪しげな機械があった。

「そうなのですかにゃー。それは本当ですかにゃー」
「まあ、証拠はないが」
「にゃーは電波女ですにゃー。ここで電波を受信してますのにゃー」

 無線のオペレーターみたいなものか。機械にはスピーカーもつながれているようで、どこからか雑音が聞こえてくる。マイクやヘッドフォンは見当たらない。

「それで村長、今日は何を飛ばすのですかにゃー」
「それはですにゃー……今回は固まらないですにゃー……エム先生の所へ行くのですにゃー」
「そうなのですかにゃー。分かりましたにゃー。『エム先生、サンダーボルト森林から、会いに行くよ!』ですにゃー」

 そう叫ぶと、女は鍵盤を操作し始めた。スピーカーから、ピーピービービー音がする。

「何かの符号か?」
「符号……? それはなんですかにゃー」

 言いつつ女は鍵盤をたたく手を止めない。短い文章を送るだけのはずが、いつまでも音を出している。

「こんなもんですかにゃー。これだけ鳴らせば、きっとエム先生にも届くはずですにゃー」
「そうですかにゃー。ありがとうでしたにゃー」
「なあ、質問があるんだが」

 俺は例によって不安を感じたので、疑問をぶつけてみることにした。

「なんでしょうかにゃー」
「今のは何をやってたんだ? 最初の短文を送るだけにしては、随分と時間がかかったよな」
「短文? 何の話ですかにゃー」

 女は、何言ってんだこいつ、と言わんばかりの表情で、次のように続けた。

「今やってたのは、霊界通信ですにゃー」

 ……はっ? どう見ても無線通信だったが。

「この機械は、元々イヌミミ族が使っていたのを分捕ったのですにゃー。だから、普通に使うと、話してる内容が筒抜けなのですにゃー」

 思ったよりも綱渡りの運用だった。

「何しろオオカミの霊を使っているのですにゃー。イヌミミ族に告げ口必至ですにゃー」

 思ったよりも超自然的な理由だった。

「そこで! にゃーたちは、にゃーたちの気持ちを、電波に乗せて飛ばすことにしたのですにゃー。最初に宣言したのは、にゃーの気持ちなのですにゃー」

 そうだったのか。俺は何かを誤解していたようだ。

「エム先生に会いに行きたいにゃー、という気持ちで演奏すると、それがなんとなーく伝わるのですにゃー」

 スピーカーからは、今の演奏への返事だろうか、甲高いメロディーが流れていた。
 頭が痛くなってくる。
 俺は不安と混乱に包まれたまま、その場を後にしたのだった。
0451三代目進行 ◆sjbsZxtbdD7t
垢版 |
2020/07/05(日) 22:15:11.39ID:eeL2HE6T
前回(先週)は真面目に書いたけど詰めが甘かったので
今回はなるべく簡単に済ませたかったのですが

遅刻と締切延長すみません・・・もう1回やったら辞任かなぁ
0452三代目進行 ◆sjbsZxtbdD7t
垢版 |
2020/07/05(日) 22:18:22.98ID:eeL2HE6T
お題→書き出し『侍の国、僕らの国がそう呼ばれたのは今は昔の話』+『ピアノ』『ろうそく』『電波女』『オオカミ』締切

【参加作品一覧】
>>435【謎の祈祷師、現る】
>>441【黒猫レイチェル VS オオカミ女】
>>447【ぶんげいぶ】
>>449【脱獄した俺は未開の星で帝国相手に無双するかも知れない/第五話】
0453三代目進行 ◆sjbsZxtbdD7t
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2020/07/05(日) 22:19:35.85ID:eeL2HE6T
ではでは、今回は通常お題5つです

お題安価>>454-458
0454この名無しがすごい!
垢版 |
2020/07/05(日) 22:19:44.64ID:tfWA9Xza
はなまる
0455この名無しがすごい!
垢版 |
2020/07/05(日) 22:19:52.23ID:hwl7GuCa
ホームビデオ
0457この名無しがすごい!
垢版 |
2020/07/05(日) 22:28:56.74ID:H4wNVgRq
幼稚園児
0459三代目進行 ◆sjbsZxtbdD7t
垢版 |
2020/07/05(日) 22:50:40.57ID:eeL2HE6T
☆お題→『はなまる』『ホームビデオ』『天使ちゃん』『幼稚園児』『七夕』から1つ以上選択

☆文字数→3レス+予備1レス以内に収めれば何字でも可。
1レス約1900字、60行が上限。

☆締め切り→7/12の22時まで。
締め切りを過ぎても作品の投稿は可。

【見逃し防止のため、作品投稿の際はこのレスに安価してください】
0460三代目進行 ◆sjbsZxtbdD7t
垢版 |
2020/07/05(日) 22:53:53.19ID:eeL2HE6T
今回も無事に集まった・・・もう7月だもんなぁ・・・

お題も作品も感想もありがとうございます
引き続きお題スレをよろしくです
0461三代目進行 ◆sjbsZxtbdD7t
垢版 |
2020/07/05(日) 23:08:36.54ID:eeL2HE6T
>>447
今度はカオス・・・色あせない部活の風景・・・仲良さそうだな!w
真神は初めて知りましたw、ありがとう教えてくれて・・・
0463この名無しがすごい!
垢版 |
2020/07/05(日) 23:41:42.26ID:PClhAQtu
>>461
感想有り難うございます
正確には『大口真神』ですね
ただ、狼の神様と言うと、どうしてもフェンリル以外マイナーですがorz
0464この名無しがすごい!
垢版 |
2020/07/06(月) 07:31:13.56ID:35chHxE1
>>446
感想ありがとうございます!
そうですね、毎年ハロウィンになると事件発生でレイチェルもライアンも本当に大変ですね
邪悪な幽霊のイタズラ?なのかもしれませんねw
楽しんでいただけてすっごく嬉しいです!
0466この名無しがすごい!
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2020/07/07(火) 15:58:01.73ID:cYb2dSP2
>>459
使用するお題→『ホームビデオ』『天使ちゃん』『幼稚園児』

【あなたの帰りがいつも待ち遠しい】(1/3)
スレ7 425【あなたに出会えて本当によかった】を先に読んでおくことをオススメします

私はレイチェル、女ガンマンの人形よ。私は今、ある人の帰りを待っている。

「ただいまー、レイチェル!」

そう、ご主人で大学生であるライアンだ。
もう10年以上も前かしら。私は長いこと売れ残っていた古い女ガンマンの人形で、名前などついていなかった。
あと数日で処分されそうになったところをクリスマスの日にライアンに買われて、「レイチェル」という素敵な名前をつけてくれて、毎日のように私と遊んでくれた。
ライアンが大学生になった時、私はもう遊んでもらえることはない、彼が立派に成長したから役目を果たし、捨てられるのを覚悟していた。
しかし、ライアンは私を捨てずに引っ越し先に連れて行ってくれた。予想外だったけど、とっても嬉しかった。

「レイチェル、君は大切な家族の一員。君と離れ離れになりたくない」

ライアンのその言葉は、今も私の心の中に強く残っている。今は学業やサークル活動、アルバイト等で忙しくて帰りが多く、
寂しい気持ちになることも多かったが、休みで時間がある時はいつも私と楽しく遊んでくれた。

「今日も帰りが遅くなってごめんね、寂しかったかい?」

ライアンは私の頭をよしよしと優しく撫でる。とても温かい。
翌日は土曜日でバイトも休みのため、ライアンはのんびりと過ごしていると一通の小包みが届いた。
それは実家にいる両親からだった。

「パパとママからだ。一体何だろう?」

開封してみるとそれはビデオテープで3本も入ってあった。気になったライアンは早速、それをプレイヤーに入れて再生する。

「こ、これは!」

それはライアンがまだ小学生の頃で、私で楽しく遊んでいるところを両親が撮影したホームビデオだった。

「さすらいの女ガンマン、レイチェル参上!旅の邪魔をする者は許さないぞー!」
「まだ残っていたなんて!レイチェル、これを見てよ!」

ビデオに映る幼い時の自分の姿に、ライアンはもう無我夢中だった。
懐かしい、すごく懐かしい。それにライアンがとても可愛い。

「ライアンさん、こんにちはー!」

元気な挨拶と共に一人の幼稚園児が現れた。女の子でなんとイグアナを連れている。

「あっ、近所に住んでたアニーちゃんだ!それにペットでイグアナのトニーも!」

アニーちゃんとイグアナのトニーだ。私はふと、ある時のことを思い出した。
それはライアンが勉強をしに図書館を訪れていた時のこと。ライアンは、私をリュックの中に入れて一緒に連れて来てくれていた。
またノーマンのようないじめっ子に見つかって強奪されるようなことがあっては大変だと、あの騒動以来、リュックの中に入れるようにしたのだ。
3時間ほど勉強して図書館を出ると、買い物に出かけていたママがちょうど着いたところだった。
ライアンが車に駆け寄る時だった。リュックのファスナーが開いていたため、私は中から飛び出して地面に落ちてしまった。
彼はそれに一切気付かず、そのまま車に乗って走り出してしまった。
0467この名無しがすごい!
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2020/07/07(火) 15:59:15.87ID:cYb2dSP2
【あなたの帰りがいつも待ち遠しい】(2/3)

「待って!ライアン!!」

私はすぐに起きて、車を必死に追いかける。当然だが、人形が走って車に追いつくはずがなく、私は途方に暮れてしまった。
すると空に黒い雲が広がってゴロゴロと雷が鳴り、雨がザーザーと激しく降ってきた。
人に見つからないよう注意しながら私は土砂降りの中、ライアンの家へと帰ろうとひたすら歩き続けるが、10キロ以上は離れているため、なかなか辿り着けない。
このままじゃもうライアンに会えない、ノーマンに奪われた時と同じ絶望を感じた。すると何かがこっちに近づいてきた。
隠れるような場所がないため、私は止むを得ずにその場に倒れて動きを止める。
大きな緑色をした何かが私の方にゆっくりと歩み寄ってくる。それはなんとイグアナだった。

「(イ、イグアナ!?お、お願いだから食べないでー!)」

そのイグアナは私の匂いをクンクンと嗅ぎ始める。

「待ってよトニー!また勝手にどこか行こうとするんだから!あれ、そのお人形さん、一体どうしたの?」

すると、一人の少女が後ろの方から現れた。トニー、どうやらそのイグアナの名前のようだった。

「ずぶ濡れになっちゃって可哀想に・・・」

その少女は私を拾い上げ、そのまま家に持って帰った。濡れた私の体をタオルで優しく拭き、ドライヤーで乾かしてくれた。

「カッコいい女ガンマンの人形さんね。あっ自己紹介がまだだったね、私はアニー。こっちはペットでイグアナのトニーよ」

トニーは私の方に近づくと、嬉しそうに顔をペロリと舐めた。

「でも何であんな所に落ちてたんだろう?」

するとアニーは私のブーツの裏に書かれたライアンの名前に気付く。

「きっとライアンさんって人が持ち主に違いない。早く探さなくちゃ」

翌日、アニーは私をリュックに入れて、親しい近所の住人達にライアンという名前の人が周辺に住んでいないか尋ねて回った。

「ライアンといえば、近くにシードルズさんの家があってそこに住んでいる男の子だと思うわ。番地は確か751よ」
「本当ですか?ありがとうございます!」

そう、ライアンの名字はシードルズだ。それで間違いない。アニーちゃん、そこに行けばもう大丈夫よ!

「751、751っと。あった!」

アニーは急いでチャイムを鳴らす。ドアが開き、ライアンのママが出てきた。

「こんにちは。あのう、ライアンさんいますか?」
「あら、ライアンの友達かしら?」
「いえ、実はこの人形を見つけたので届けに来たんです」

アニーがリュックの中から私を取り出す。ママは私を見て、とにかくビックリした。

「ライアン!レイチェルが見つかったわよ!」

その言葉にライアンがドタドタと階段を下りて、外に飛び出してきた。ライアンは私の姿を見て、涙をポロポロと零し始めた。

「君がレイチェルを見つけてくれたんだね!本当にどうもありがとう!」

ライアンは泣きながらアニーに感謝する。ママ曰く、家に着いてからリュックに私が入っていないのに気付いたようで、ずっとパニックになっていたのこと。
あの後、図書館の中や駐車場、その周辺を必死になって探していたようだ。
0468この名無しがすごい!
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2020/07/07(火) 16:01:15.25ID:cYb2dSP2
【あなたの帰りがいつも待ち遠しい】(3/3)

「また誰かいじめっ子に拾われて乱暴されてると思うと、本当に怖くて不安で夜も眠れなくて!ごめんねレイチェル、本当にごめんね!」

ライアンは、私の体を強く握り締めると同時に謝る。お願いだから自分を責めないで、ライアン。わざとじゃないんだから。
優しい女の子とイグアナが見つけてくれたおかげで、こうやってあなたの元に無事に戻ってこられたんだから。

「レイチェルを見つけてくれて本当にどうもありがとう。アニーちゃん、それからイグアナのトニーも」
「エヘヘ、全てトニーのおかげです。トニー、あなたのおかげでレイチェルさんは無事にライアンさんの所に帰れたのよ。さすが私の天使ちゃんね!」

アニーに優しく撫でられ、トニーもとても嬉しそうだ。それ以来、アニーはライアンととても親しくなり、トニーと一緒によく家に遊びに来るようになった。
トニーは私にとても懐いているようで、遊びに来る度に私の顔を嬉しそうにペロペロと舐める。

「レイチェルさんって本当にカッコいい人形ですね!」
「やっぱりそう思うかい?レイチェルは優しくて強くて、そして勇敢な女ガンマンなんだ。どんなピンチに陥っても絶対に諦めたりしない、僕の一番の誇りさ!」

**********

「レイチェルさん、起きて!」
「あ、あれ?」

どうやらいつの間にか眠りに落ちてしまっていたようで、ジュディが起こしていた。

「フワアアッッ(またあの時と同じ夢。本当に不思議だわ…)」
「レイチェルさん、もうライアンさん帰ってきてるよ」
「レイチェル、すごく良い寝顔だったよ。何か面白い夢でも見たのかい?」
「えっ、そうだった?う、うん、面白いというより何だか不思議な夢だったわ」
「どんな夢だったの?教えて、教えて!」
「それはナ・イ・シ・ョよ」
「えー、レイチェルさんの意地悪!」

今日は半年ぶりにライアンが仕事から帰ってきたのだ。2年後の冬に公開予定の主演作の撮影で、過密スケジュールだったのだ。

「撮影はもう少しで終わるよ。終わったら1ヶ月ほど休暇もらえるから、またどこか旅行しよう」
「うんうん、大賛成!!」
「ライアン、絶対に無理だけはしないでね。辛かったらいつでも帰ってきてね」
「大丈夫だよ。レイチェルとジュディがいるから、僕はいつでもベストを尽くせるんだ」

3日後、飛行機に乗ってハリウッドに戻るライアンを、レイチェルとジュディは手を振りながら優しく見送るのだった。
0469三代目進行 ◆sjbsZxtbdD7t
垢版 |
2020/07/07(火) 20:03:57.13ID:qiWag9UV
>>466
大作だw、今度は懐かしのあの人たち
気になって調べてみたら、アニートニーの初出は丁度約1年前ですね
不思議な夢の、楽しい思い出・・・
0470この名無しがすごい!
垢版 |
2020/07/07(火) 21:18:06.13ID:cYb2dSP2
>>469
感想ありがとうございます!
アニーとトニーをまた出して活躍させたいなあと思って書いたお話です
当初は一発屋の予定だったのに、今や準メインキャラでここまで活躍するとは私も想像ができませんでした
レイチェル人形ネタ第2回目ですが、某おもちゃ物語が大好きが故にこのネタは書くのがすっごく楽しいです
たとえ人形であっても、レイチェルはいつまでも大好きなライアンと一緒にいて幸せで楽しい日々を過ごしてほしいです
楽しんでいただけてすっごく嬉しいです!
0471この名無しがすごい!
垢版 |
2020/07/09(木) 01:18:26.96ID:rLETcdU8
>>466
トイなストーリーを思い起こさせるお話ですねw
自分の持ち物には名前を入れておくのが基本
ですが最近は個人情報が……
0472この名無しがすごい!
垢版 |
2020/07/09(木) 04:11:56.36ID:jy1A3Qaa
>>471
感想ありがとうございます!
自分の所有物に名前を書いておくのは証拠にはなりますが、勝手に消されて奪われる危険性もありますよね
優しい子とイグアナに拾われたおかげで、レイチェルは無事にライアンの元に戻ることができて本当にラッキーでした
楽しんでいただけてすっごく嬉しいです!
0473三代目進行 ◆sjbsZxtbdD7t
垢版 |
2020/07/10(金) 13:09:24.58ID:gCc1vjuj
ところで次回の企画はどうしましょうか・・

昨夜は、よさこいのアレが再放送だったようなので
お だ い す れ
どれか一文字から始まるワード限定(かぶりは気にしない)とかどうでしょう・・
0474この名無しがすごい!
垢版 |
2020/07/10(金) 21:23:11.69ID:xSoN0zNf
>>473
面白そう!やってみようよ!
0476この名無しがすごい!
垢版 |
2020/07/12(日) 14:31:13.49ID:NHMpGEKb
>>459
使用するお題→『はなまる』『ホームビデオ』『天使ちゃん』『幼稚園児』『七夕』

【だから、笑顔を覚えてろ】(1/3)


「七夕までには、わたしは死んじゃうんだってさ」

 六月のある日。
 当たり前みたいな顔をして、病室の窓の外を眺めながら。
 幼馴染の女の子は、そんな風に口にした。

「……そっか」

 突然のことで、私はそんな莫迦みたいな答えしか言えなかった。気の効いた慰めとは

程遠い。
 いや、突然のことだったから、というわけでもないのかもしれない。
 だってずっとわかっていた。彼女だってそうだったのだろう。
 彼女を蝕む病気はずっと進行するばかりで、治療の見込みは万に一つもない。
 どう考えたって、彼女は死ぬ。それが遅いか早いか、それだけでしかなくて。

 だから私は驚けなかった。中学の制服は梅雨の湿り気にじめじめとして、
濡れたように重い。湿気と一緒に私の涙も吸い込んでしまったのだろうか。
本当ならドラマのようにわっと泣き出してすがりつきたいはずなのに、
一滴の涙だって私の乾いた目からは零れてきそうになかった。

「願い事をするチャンスさえくれないっていうんだから。神様って残酷だよね」
「どうかな。どうせ叶わない願いなら、そんなチャンス、ない方がマシじゃない?」
「それ、普通死にかけのシンユーに言う台詞? やっぱ知世(ちよ)って頭おかしい」

「かも。どんまい纏(まとい)。運が悪かったね、死ぬ前に見るのがこんなやばい幼馴染

の顔で。あの世で神様に文句言っていいよ」
「いや、むしろわたしは今あんたに文句を言いたい」

 そんなやり取りをして、病院着の纏はベッドの上で笑っていた。私は冷めたような
目つきのまま、ふざけた事を言って鼻を鳴らす。

 それでもあと一ヶ月もしないうちに。
 この幼馴染は、この世からいなくなるのだ。
0477この名無しがすごい!
垢版 |
2020/07/12(日) 14:31:39.75ID:NHMpGEKb
 数日後、私は纏と二人でホームビデオを見ることになった。
 お涙頂戴、ドラマや映画でよくあるやつだ。折角だからやってみよう、
どっちかが死にかけてなきゃできない貴重な体験だし、と纏が言い出したのである。
 
「え、まさかビデオカメラ? ノートPCに移してさえないの? ふるっ!」
「しょうがないじゃん骨董品なんだから。昔っから体弱くてロクに撮る機会もなかった

纏が悪い」
「あーひっど! サイテー!」
 
 纏が一人でゲラゲラ笑う前で、私はビデオカメラのセッティングをしていく。
随分と久しぶりに扱うので手間取ったが、何とか再生することができた。

 映っているのは、小さな私と纏の遊ぶ姿だ。
 幼稚園で、二人ともが何だかわからない絵に先生からはなまるを貰ったらしい。
それを二人して、ビデオカメラに一生懸命に見せびらかしていた。

 幼稚園児の頃から一緒に育って、天使ちゃんだのと呼ばれていた纏と私は
いつの間にか仲良くなっていた。奇跡的にもその年頃から暗かった私と、
体が弱い、というより遺伝性の疾患があって特別扱いされていた纏は、
どちらもはぐれものだった。最初はそういう理由だったような気もする。
0478この名無しがすごい!
垢版 |
2020/07/12(日) 14:32:13.38ID:NHMpGEKb
 画面の中で、纏と私がすっ転んでわあわあと泣き出した。
 それを見て、思わず私と纏が吹き出す。

「おっ笑ったな? 知世が笑うなんて珍しいー」
「だって、ちび纏の泣き顔めっちゃ不細工なんだもん」

「はぁー? あんたの泣き顔のがブスでしょーが! ちっちゃいわたしのはかわいい!」
「はいはい。死に際の病人の顔を立ててあげる。顔だけに」
「サイテー! 知世のバーカ!」

 画面の中で、明るい未来に満ち溢れている二人の女の子は泣きじゃくっているのに、
未来なんてどこにもない病室にいる私と幼馴染の死にかけの女の子は、
どうしてか満面の笑顔で笑いあっていた。

 そのうちに、病室の窓の外で雨が止む。
 梅雨の雲の切れ間から木漏れ日が差し込み、冗談みたいに気紛れな陽光に
私は眩しくて目を細めた。
 幼馴染の女の子は、一生分の明るさを輝かせたみたいな笑いを浮かべて私に言う。

「ね、知世。わたしが死んでもさ、忘れないでよね。嫌な記憶とかじゃなくて、
 わたしを思い出す時にはぜったい笑顔でじゃないとダメだから!」
「そうだね。纏の泣き顔は不細工だもん」
「わ。ほんと、サイテー! ……でもそういうとこ、大好きだったよ。親友!」
「はいはい。じゃあね、親友」


 そうやって私と幼馴染の親友は最期の別れを告げた。
 今でも私は、時折彼女を思い出す。もちろん、誰より楽しそうな満面の笑顔で。

 そして思わず、笑ってしまうのだ。
 そんな時はいつも。サイテー! と笑う幼馴染の声が、聴こえる気がした。
0480この名無しがすごい!
垢版 |
2020/07/12(日) 14:36:00.49ID:2el2mxO+
>459
お題:『はなまる』『ホームビデオ』『天使ちゃん』『幼稚園児』『七夕』

【曇り空の夕べ】
 ありきたりな表現だが、家の天使ちゃんの顔は今日は今宵の空と同じ様な曇り加減だ。
 出窓の大きくとられたガラス窓から外を眺めてはこれ見よがしな溜息を吐く。

「どうした?」
「んーん、なんでもない」

 素っ気ない様に返事はするものの、我が家の天使ちゃんが表情を曇らせている理由は分かって居る。
 七夕だと言うのに曇り空だからだ。
 幼稚園での七夕会で、園児たちは自分の短冊の付いた笹の枝を貰って帰って来た。さすがにマンションの部屋の中に竹は用意できなかった。
 マンションの玄関ホールに用意された竹に、その短冊を付け替えると言う選択肢も有ったにはあったのだが、我が家の天使ちゃんは、ご自宅に飾る事にしてくれたらしい。
 朱色の筆ペンで『はなまる』の書かれた短冊には、『くっきーやさんになりたいです』と言う彼女の夢が書かれていた。
 クッキー単品のお店か、中々に隙間商売だ。
 もっとも、むしろこれは、クッキーをたくさん食べたいと言う彼女の願望由来だろう。

 クスリと笑いつつも、窓の外を憂鬱気に眺める天使の姿をホームビデオに収める。

 どうやら、天の川が出て居なければ願いが叶わないものだと思い込んでいる彼女が成長し、七夕がどういう物かって事が理解した後、これを見せてやろう。

 悪戯好きな悪いお父さんは、真っ赤になって怒る、未来の彼女の姿を思い浮かべながらRECのボタンを押すのだった。
0481この名無しがすごい!
垢版 |
2020/07/12(日) 14:43:49.92ID:2el2mxO+
>>476
少し切なめのお話ですね
生きて来たと言う事こそが大事なことで
だからこそ思い出は大切なのだと思います
0482三代目進行 ◆sjbsZxtbdD7t
垢版 |
2020/07/12(日) 22:03:05.22ID:1hfM9mfS
>>476
うーん二人の世界の今と昔
発想と対比、遠慮のないやりとりに面白みがあります

>>480
ある意味この季節らしい曇り空
ストレートな組み合わせに一ひねりですねw
0484三代目進行 ◆sjbsZxtbdD7t
垢版 |
2020/07/12(日) 22:09:40.23ID:1hfM9mfS
お題→『はなまる』『ホームビデオ』『天使ちゃん』『幼稚園児』『七夕』締切

【参加作品一覧】
>>466【あなたの帰りがいつも待ち遠しい】
>>476【だから、笑顔を覚えてろ】
>>480【曇り空の夕べ】
0485三代目進行 ◆sjbsZxtbdD7t
垢版 |
2020/07/12(日) 22:13:23.34ID:1hfM9mfS
うーんともかく予告通り、頭文字限定をやってみます

お だ い す れ

どれか一文字から始まる単語でお願いします(漢字もおk、2つ以上のお題で頭文字が重複しても気にしない)

お題安価>>486-490
0486この名無しがすごい!
垢版 |
2020/07/12(日) 22:14:06.97ID:KIxGGFtl
無能
0488この名無しがすごい!
垢版 |
2020/07/12(日) 22:15:46.00ID:ecUzLukO
スイカ
0489この名無しがすごい!
垢版 |
2020/07/12(日) 22:16:16.17ID:eeavwRMj
お題スレ
0492この名無しがすごい!
垢版 |
2020/07/12(日) 22:33:54.35ID:N4NbYUpE
イーノック
0493三代目進行 ◆sjbsZxtbdD7t
垢版 |
2020/07/12(日) 22:34:03.57ID:1hfM9mfS
☆お題→『大好き』『スイカ』『お題スレ』『レゾンデートル』『イマーゴ』から1つ以上選択

☆文字数→3レス+予備1レス以内に収めれば何字でも可。
1レス約1900字、60行が上限。

☆締め切り→7/19の22時まで。
締め切りを過ぎても作品の投稿は可。

【見逃し防止のため、作品投稿の際はこのレスに安価してください】
0496三代目進行 ◆sjbsZxtbdD7t
垢版 |
2020/07/12(日) 22:36:00.37ID:1hfM9mfS
☆お題→『大好き』『スイカ』『お題スレ』『レゾンデートル』『イーノック』から1つ以上選択

☆文字数→3レス+予備1レス以内に収めれば何字でも可。
1レス約1900字、60行が上限。

☆締め切り→7/19の22時まで。
締め切りを過ぎても作品の投稿は可。

【見逃し防止のため、作品投稿の際はこのレスに安価してください】
0498三代目進行 ◆sjbsZxtbdD7t
垢版 |
2020/07/12(日) 22:47:05.17ID:1hfM9mfS
もう直さないぞw
お題、作品、感想、ありがとうございます

>>493は無効として、>>496に安価ください

>>495
ちょっと頭を使って面白いかと思ったんだけど、微妙だったかもですね
とは言え、わざわざ予告してるんだから、文句があるなら早めに言ってください
0499この名無しがすごい!
垢版 |
2020/07/12(日) 23:29:23.55ID:2el2mxO+
>>482
感想有難うございます
『そう言えば去年も曇り空だったなぁ』とか思いながら書きましたw
0502この名無しがすごい!
垢版 |
2020/07/13(月) 18:31:31.20ID:+1TRghY0
唐突に荒らし言う人も荒らしなのでは
ってことは触れた俺も荒らしになるな、ごめん
0504この名無しがすごい!
垢版 |
2020/07/13(月) 22:33:28.71ID:gKHKT8aP
レイチェルシリーズがこのスレの一番の癒し
0505三代目進行 ◆sjbsZxtbdD7t
垢版 |
2020/07/13(月) 23:46:10.88ID:RoAqgerE
>>502
いや唐突ではないです
制限募集って言ったのに対して>>486とか言い出すのが荒らしでなければ、暴言厨かtoxicかという話

ただ進行としてはその荒らし、どうせいつもの人でしょ、と思ってるので・・・
生きとったんかワレ、と言うか、めんどくせえなぁ、と言うか、まぁそんな感じです
0506この名無しがすごい!
垢版 |
2020/07/14(火) 09:03:48.42ID:zKWFR446
ホントお疲れ様です
流れ変えるためにも何か書きたいところだけど、どんなのにしようかしら
0507この名無しがすごい!
垢版 |
2020/07/14(火) 19:27:26.12ID:B1KI5QUA
>>504
レイチェルシリーズの者です
嬉しいお言葉ありがとうございます!
癒しだなんてそんな、すっごく照れちゃいます///
0508この名無しがすごい!
垢版 |
2020/07/15(水) 12:20:07.89ID:AjBhMcHG
>>496
お題:『大好き』『スイカ』『お題スレ』『レゾンデートル』『イーノック』

【ある男の結末】


 カタカタとキーボードのキーを叩く音が響く。モニターの前に座る男は、親指の爪をかじりながら一心不乱に文章を綴っていた。

「誰だ!!」

 誰何するも応える者はない。
 焦った様に周囲を見回し、自分一人しかいない事を確認しつつも、落ち着かない様子で再びモニターに向かう。

 男の周囲には幾枚もの紙が散乱している。
 そこには『イーノック断片』と日本語で書きなぐられているが、恐らく『エノク断章』を捩ったものだろう。
 その証拠に、メモにはヘブライ語と思しき文体で、所謂『天使語』と呼ばれる文章がメモしてあるからだ。
 言わずと知れた『エノク語』である。

 文章を書き終えたであろう男は、急ぎ新しいタブを開くと、“お気に入り”から『お題スレ』を選択した。
 あまりメジャーなサイトやスレでは即座に消されてしまうだろう。
 その点で言えば、創作短編であろうと判断されるこのスレは都合が良かった。
 あまり“機関”に知られずに、しかし、この話を残したかったからだ。
 この文章を残す事。今はそれが男のレゾンディートルと成っていた。

『大好きなおまいらに言いたい事がある……』

 そんな書き出しで始め、予め書いていた本文をコピー&ペーストした男は、この時初めて安堵の表情を見せた。
 『送信する』にカーソルを合わせ、クリックを……

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 その日、都内のアパートで一人の男性の遺体が発見された。
 第一発見者は同アパートの管理人で、家賃の支払いが滞っていた為、その催促に訪れた所、異変に気がつき発見に至ったと言う。
 男は死後数ヶ月が経っていたため、既にミイラ化しており、警察は病死であると断定し……
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