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お題:『大好き』『スイカ』『お題スレ』『レゾンデートル』『イーノック』

【ある男の結末】


 カタカタとキーボードのキーを叩く音が響く。モニターの前に座る男は、親指の爪をかじりながら一心不乱に文章を綴っていた。

「誰だ!!」

 誰何するも応える者はない。
 焦った様に周囲を見回し、自分一人しかいない事を確認しつつも、落ち着かない様子で再びモニターに向かう。

 男の周囲には幾枚もの紙が散乱している。
 そこには『イーノック断片』と日本語で書きなぐられているが、恐らく『エノク断章』を捩ったものだろう。
 その証拠に、メモにはヘブライ語と思しき文体で、所謂『天使語』と呼ばれる文章がメモしてあるからだ。
 言わずと知れた『エノク語』である。

 文章を書き終えたであろう男は、急ぎ新しいタブを開くと、“お気に入り”から『お題スレ』を選択した。
 あまりメジャーなサイトやスレでは即座に消されてしまうだろう。
 その点で言えば、創作短編であろうと判断されるこのスレは都合が良かった。
 あまり“機関”に知られずに、しかし、この話を残したかったからだ。
 この文章を残す事。今はそれが男のレゾンディートルと成っていた。

『大好きなおまいらに言いたい事がある……』

 そんな書き出しで始め、予め書いていた本文をコピー&ペーストした男は、この時初めて安堵の表情を見せた。
 『送信する』にカーソルを合わせ、クリックを……

 ******

 その日、都内のアパートで一人の男性の遺体が発見された。
 第一発見者は同アパートの管理人で、家賃の支払いが滞っていた為、その催促に訪れた所、異変に気がつき発見に至ったと言う。
 男は死後数ヶ月が経っていたため、既にミイラ化しており、警察は病死であると断定し……