まさか……



「赤竜の谷近くの砂漠地帯で、盗賊団の襲撃を受けたらしくてね」

「なっ」

「三十人からの隊商が、ほぼ全滅だ。妻の遺体も……後で発見された」



 既に死んでいたのか。



「もちろん、部族は報復攻撃もしたし、生存者を探しもした。だけど、娘は見つからなかった」

「見つからなかった、だけだろう? もしかしたらどこかで」

「当時の娘は、まだ二歳くらいだ。それが、魔物の出る砂漠の真ん中で……生きているはずがない」



 言葉もない。

 彼が本当に守りたかった「愛」は、既に失われていたのだ。



「僕が……行かせなければ。それでなくても、せめて傍にいれば。助けられなくても、一緒に死ぬことができた」

「そんな」

「だから、せめて妻と娘のためにも……この世界に、何かを残したかった」



 こんなことってあるか。

 必死に生きた報いが、これなのか。