一緒でいたいから

 これでやっと、彼と一緒になれる。
 こんな方法を彼が望んでいないとしても、彼が私を嫌いになったとしても構わない。
 一緒でいられるのなら、全力で振り向かせてあげるんだから。
 その時、電車のヘッドライトが私たちを眩く照らした。

 私は、彼――雄二くんに救われたのだ。
 高校生でありながらいじめられていた私。気が弱いので誰にも相談できず、一人されるがままになっていた。
 女子生徒たちに囲まれ、金を要求される。そんな時彼が助けてくれたのである。
「やめないか」その一言だけ。
 他の女どもは「あぁ?」と突っかかっていったが、雄二くんは見事な体技で彼女らを一斉に行動不能に陥れてしまった。
「大丈夫かい」
「は、はい……」
 彼のおかげで私は二度といじめられることはなくなった。きっともうあの瞬間から恋をしていたのだろう。
 何かと都合をつけては彼に会った。弁当を横で食べたり、彼が観に行く映画を聞いて私も行ってみたり。 
 告白する勇気は持てなかったけれど、ずっとずっと彼を見ていた。
 でももう我慢ができない。
 ただ見ているなんて辛い。もっと喋りたい、もっと近くでいたいのに。
 私は強硬手段に出た。
 友達からメールアカウントを買い取って、彼に気持ちを聞いてみたのだ。
「〇〇(私の名前)のことどう思う?」
 すると雄二くんからメールが来たのだ。
「ブスだしタイプじゃない。でもいじめられっ子で可哀想だから助けてあげてるんだよ」
 もっと聞いてみると、好きな人はもういるらしく私なんかまるで眼中にない。
 それを知った時、私は諦めようと決意した。
 雄二くんのことはもう忘れよう。出会い系サイトに浸ったけれど、いい男は誰もいない。やはり雄二くんがいいと思ってしまう自分が恨めしく思えた。
 私はヤケクソ気味で雄二くん目掛けて猛烈アタックをかますことにした。
 呼び出したは近隣の駅。そこで買ってきた花束片手に、想いを伝える。
 ……が、断られてしまった。その上、
「お前がいつものストーカーだな。付け回すなよ」と怒鳴られてしまう。
 ストーカー、という言葉に私は首を捻らずにはいられなかった。だって私は好きな人のそばに居ただけで、それは当然のことじゃないの?
「消えろ雌豚。お前なんか、二度と助けてやらないから」
 私は彼とは結ばれることは絶対にないのだと知った。花束を取り落とす。そしてそのまま彼の手を乱暴に引っ掴み、走り出した。
「な、何すんだよ!」抵抗する雄二くんなど全く無視して、駅のホームへ。
 まだだ。まだ一つだけ彼と一緒になれる方法は残されている。よし、今だ。
「――ぁ。やめろ!」
 私は線路へ飛び込んだ。
 もしも冥界が存在するのならば、地獄でも天国でもいい。そこで彼と一緒になろう。
 なすすべなく雄二くんは線路に落ちた。彼と私の体が重なる。
 きっと雄二くんは、私の行いを許さないだろう。
 けれど私は絶対に彼を虜にしてみせる。傍にいられるのなら絶対大丈夫だ。
 だから、何も心配はいらないのだ。
「愛してるわ、雄二くん」

 その瞬間、電車のヘッドライトが光った。
 ――あぁ、これでようやく。
 衝撃が訪れて全身が引き裂かれる。
 そして血飛沫の中で私と雄二くんは、一つになれたのだった。