石川幹人『だまされ上手が生き残る』(光文社新書)。進化心理学の入門書。上記の小田亮や長谷川眞理子の本とかぶる部分が多い。
序章では「恐怖」という感情を取り上げ、恐怖の生得性、生存に有利であることなどを指摘。また近親相姦タブーの生得性を述べ、
「至近要因」(生理的メカニズムなど)と「究極要因」(進化的要因)という概念を説明。
第1章では、進化生物学の基礎を簡単に説明している。既に長谷川眞理子の入門書を読んでいれば、飛ばしていいところ。
ただ、「退化」とは「進化」の反対語ではなく、進化の一種であることを指摘しているところは目を引く。
これは長谷川眞理子の本では「進化は進歩ではない」と述べているところに対応する。
石川の本では、本文とは別に、「進化心理学は何でないか」と題して、進化論と進化心理学に対する誤解を解くコラムを設けている。
第2章は「遺伝子の生存競争」で、ハトータカ戦略の話や、カッコウの托卵の話など、これも長谷川の本の内容とかぶっている。
第3章は、オスとメスの話。性淘汰の話なども出ててくるが、性差の生得性について論じている部分が多い。
正直、このあたりの議論は(小田亮『ヒトは環境を壊す動物である』と同様に)乱暴な印象が否めない。
自分は社会構築主義的なジェンダー論に詳しいわけでもないのだが、現代の日常的な男と女のステレオタイプを短絡的に進化にこじつけているように見えてしまう。
進化心理学自体が粗雑なわけではないのだろうが、啓蒙書レベルで語った場合、厳密さが犠牲になっているのではないか。
無駄な反発をくらわないためにも、もう少し繊細な語り口が必要ではないかと思う。