ヴィットコップこそは、サド作品を髣髴とさせる人物たちの生みの親であり、
社会とタブーを意識しつつ小説を生産した、唯一、サドの正統な系譜に連なる
女性思想家である。
ヴィットコップは子供、宗教、道徳、家族を忌み嫌い、自由、両性愛、女性
嫌悪を謳い、インドと啓蒙の世紀をこよなく愛す。とりわけ「同性愛者にして
女性嫌い」を公言して憚らなかった。だがこうした「怪しく挑発的」な形容辞
は、著者自身よりも著者の残したテクストに当てはまる。その小説では、挑発
的な言辞が対立し互いの矛盾を暴きあう。しかもそうした対立は、語用のレベ
ル、すなわち文章の隅々にまで浸透している。登場人物が生ある身でありなが
ら死と死者を愛する日記体小説『ネクロフィル』は、まさしく題名からして、
語の対立と矛盾というこの特徴を如実に示している。
封印された処女作
『ネクロフィル』は、1972 年に書肆レジヌ・ドゥフォルジュから上梓され
たヴィットコップの小説処女作である(9)